PLAY! インタビュー minna(ミンナ)が教える「かおてん.」の楽しみ方(後篇)

大人だってゲラゲラ、クスクス、開放的に遊ぼう!

建築家、グラフィックデザイナー、アーティスト。PLAY! には、たくさんのクリエイターたちが関わっています。そんなクリエイターの皆さんに、PLAY! の舞台裏の話を聞くインタビューシリーズです。

「かおてん.」のグラフィックと会場デザインを担当したデザインチーム、minna(みんな)の長谷川哲士さんと角田真祐子さん。一児のパパ&ママでもあるふたりが、「かおてん.」を楽しむヒントから、展示のマニアックなこだわりポイントまでたっぷり教えてくれました!
(前篇はこちら)

撮影: 高橋マナミ

minna (角田真祐子さん 長谷川哲士さん)

ところで、この順路を示すサインって・・

長谷川 来場者を誘導するための標識です。楕円形は、ミュージアムのうず巻きからとった形で、表面は張り替えることができます。今回はtupera tuperaさんにカッティングシートで貼ってもらったので、この会場でしか見られない隠れ作品とも言えますね。

角田 このサインを写真に撮って「こんなところまで顔になってる!」とSNSでアップしてくれている人もいます。知る人ぞ知るフォトスポットです。

読んでグッとくるキャプション

さあ、いよいよ会場の後半、「うず巻き」の中に入っていきます。

長谷川 この回廊は、新作ゾーンに向かうための、通路なので、作品を展示する場所としては少し難しかったんです。

角田 1歩進むたびに現れる巨大な顔に圧倒されているうちに、気づいたら中に入り込んでいる、という人の流れを中心に考えました。

中から歌が聞こえてきました。

角田 tupera tuperaさんのこだわりで「通路にも音が少しだけ漏れ聞こえていてほしい」ということでした。この音によって、中に進むワクワク感が倍増していると思います。

そしてこの回廊には、迫力ある大きさの写真作品「かお10」が並んでいます。

長谷川 キャプションもぜひ読んでほしいんです。ひとつひとつの顔が人格を持っているという設定なので、その人の履歴書みたいなフォーマットとしてデザインしました。そして、頼まれてもいないのにやったんですけど、「満56歳」じゃなくて「顔(がん)56歳」にしてみました。文字も小さめにして。密かなこだわりなんですが、たぶん誰も気づいていないと思う(笑)。

ちなみにおふたりはどの顔がお気に入りですか。

長谷川 僕はガンコ者の「石川岩五郎」が好きなので、なりきってみることにします。プンプン。

「石川岩五郎」

角田 私は「具文房」さんが好きなんです。この人だけ、別ストーリーがあって、直筆のラブレターが展示されているので見逃さないでくださいね。ダジャレのオンパレードなんだけれどグッとくる。細部までこだわりぬくtupera tuperaさんの遊び心がたまりません。

「具文房」

大人だってくぐってみたい!

minnaのふたりは、tupera tuperaとは長いお付き合いなのですか。

長谷川 初めてお会いしたのは10年くらい前でしょうか。3年前に、僕らがディレクションしていたブランドの仕事をお願いして一緒にプロダクトを作ったことがあります。
minnaが10周年の時に、tupera tuperaさんに「絵をひとつ描いてください」と依頼したら、「こちらもちょうど相談があって連絡しようと思っていた」と返事があって。それが今回の「かおてん.」の話だったんです。

と、うず巻きの中に来ました。こちらは「かおカオス」という作品ですね。

長谷川 この作品は、本当にパワフルで、その迫力に圧倒されると思います。

角田 会場のデザイン案として出ていた「穴をのぞく人の顔が、反対から見ると顔作品の一部として取り込まれている」といったアイデアも、tupera tuperaさんがうまく「かおカオス」に取り込んで作品にしてくれました。

ほかにも、口の下をくぐったり、鼻息が吹き出していたり、誰かがボソボソと顔のウンチクを語っているのを聞いたりと、インタラクティブなんですよね。

長谷川 子どもは自然とくぐっちゃう口の下も、大人がくぐると、なぜだかわからないけれど笑ってしまいます(笑)

角田 鼻から空気が出てくると、鼻息だと思っちゃうから気持ち悪いのかな(笑)。あと、このボソボソ言うの、うちの息子はすごく怖がるんですけど、顔のウンチクについて喋っているので、ぜひ耳をすまして聞いてみてください。

長谷川 見れば見るほど発見があり、面白さの沼にハマってる感覚です。

角田 楽しみ方も本当に無限大だなと。「どの顔が好き?」と話しながら見ていくだけでも、かなり時間がかかりそうですね。

床田愉男のマニアックなこだわり

そして展示のクライマックスは、大人気の作品「床田愉男」です。

長谷川 これは最も変更の大きかった作品なんです。最初のプランは「7メートルくらいの巨大な顔をひとつ置く」というもので、去年のクリスマスの寒い日に、高所作業車の上から眺めたりして、「つまらないかも」「いやきっと楽しい」って、みんなで話し合いました。

角田 下にむけて写真を撮るとカメラが落ちて危ないとか、のぼる場所を作ると大きすぎて世界観がくずれるとか、天井にカメラシステムを組み込むとか。実際にみんなで体を動かして実験を重ねた結果、軽量かつ大型のフィルムミラーを天井からぶら下げる案に決まりました。

長谷川 壁にパーツを吊っておくフックは、床田愉男のパーツを邪魔せず、かつ壁の雰囲気と合うものを考えて、丸い棒をカットしただけのシンプルなものを作ってもらいました。

パーツのひとつひとつも楽しいですよね。

角田 子どもって、巨大なフォークとか巨大な鉛筆とか、大きいものを持つとそれだけでテンションが上がりますよね。その感覚にドンピシャなアイテムがズラリと並んでいて、しかも1つ1つのクオリティの高さに感動しました。制作されたアトリエイナドメさんが凄すぎます。

長谷川 またまた、僕らだけのこだわりポイントなんですけど、床田愉男の歌詞が書いてあるこの木の板は、UVインクジェットプリンタを使用してダイレクトに木の板に印刷しています。仮に誤植があると修正が難しく、こんなに大きな板に直接印刷できる機会はあまりないので、デザイナー的には嬉しくてドキドキでした。意外な見どころです、フフ。
それから、この「床田愉男」のフォントは、tupera tuperaさんに床田の人格を聞いて作ったもの。1回目で送ったら「これこれ」となって、すんなり決まりました。

この壁のグラフィックもminnaのデザインですね。

撮影:吉次史成

長谷川 「映像作品『かおつくリズム』の歌詞を呪文みたいなグラフィックにしたい!」というオーダーをもらったので、展覧会ロゴのトーンを踏襲しつつ、文字とも絵とも言えるようなタイポグラフィで壁面をデザインしました。

どちらがグラフィック、どちらがプロダクトといった、ふたりの役割分担ってあるのですか。

角田 役割分担はあまりありません。何かを作る時は、必ず一緒にかけあいしながら進めるので、そこはtupera tuperaさんと似ているかもしれません。関係性でいうと、長谷川が私のお尻の下に敷かれにきてくれる感じですね(笑)

長谷川 はい、そういう感じです(笑)。
あ、あとひとつこだわりポイント!この壁はかおてん.のために新しく作ったものなんですけど、壁の位置をどこにするか、角度をどうするかを決めるのにすごく悩んで、時間がかかりました。その結果、人の流れもうまくいっているようで、ベストに近い位置に立てられたかなと思っています。

「かおてん.」は大人も子どもも開放的に楽しんで

会場の出口のところには、絵本コーナーがあります。

長谷川 tupera tuperaさんが「こんな感じにしたい」と描いてくれたスケッチを、実際の本棚として落とし込みました。すべての絵本のサイズから顔のパーツの寸法を割り出して。なんとなく決めたのでは本が倒れてしまうので、かなり地道な作業でした。

本当に何から何まで展示のすべてに関わったminnaのふたり。プロジェクトを振り返って、いかがですか。

長谷川 ハラハラドキドキ、そしてワクワクをずっと繰り返すエキサイティングであっという間の日々でした。tupera tuperaさんは心から納得するまで決してOKと言わない。そこが本当にすごいと思ったし、粘り続ける強さを間近で感じられたのは、僕らにとっても最高の経験でした。

角田 ギリギリの状況でも顔ネタで楽しんだりする子ども心を忘れないチームメンバーで作り上げたからこそのクオリティがあると思っています。控えめに言って、最高に楽しいプロジェクトでした。

この展覧会「かおてん.」をどう楽しんでもらいたいですか。

長谷川 楽しみ方は自由なんです。普通の美術館とは違って、「こうしなさい」「こうしちゃいけない」と言わずに、大人も子どもも開放的に楽しんでもらえたら。1回目より2回目、2回目より3回目と、何度見ても新しい発見があったり、楽しみが増えていくのも「かおてん.」の魅力なんです。

角田 「かおてん.」は、来場者が関われる余地がたくさんある展覧会。大人が感じることと、子どもが感じることは違うと思うので、両方の視点を交換しあって、そこからコミュニケーションが生まれるといいですよね。日常に戻った時にも、いつもの風景が変わって見えたり、豊かに感じられたらいいな。

グッズにも顔がたくさん

最後に、オリジナルグッズについても教えてください。

長谷川 会場だけではなく、グッズも抜かりなく顔化しています!
例えばこれは「ひげ醤油皿」という、醤油で髭を描く小皿です。僕らが考えたパッケージは、ロゴも髭っぽく。

こちらは目、鼻、口のマスキングテープのセット「かおマステ」。パッケージの上面のシールが金髪の人の頭に見えるようなデザインにしました。

角田 これは、tupera tuperaさんが会場の床にペイントした「ナスかお地上絵」のバンダナ。バンダナのビジュアルのなかに「かおをみつけてね」という説明の文字まで柄に溶け込ませたのがこだわり。ぜひ、みんなで顔を探してみてくださいね。

ありがとうございました!

(前篇はこちら)

minna

2009年、角田真祐子と長谷川哲士によって設立。デザインをみんなの力にすることを目指し、ハッピーなデザインでみんなをつなぐデザインチーム。「想いを共有し、最適な手段で魅力的に可視化し、伝達する」一連の流れをデザインと考え、グラフィックやプロダクトなどの領域に捉われない活動を様々な分野で展開している。グッドデザイン賞、日本パッケージデザイン大賞金賞、SDA賞優秀賞、キッズデザイン賞、TOPAWARDS ASIAなど受賞。武蔵野美術大学、昭和女子大学非常勤講師。

TOPICS

「PLAY! MUSEUMは、そこで起きた"できごと"が積み重なっていくような場所」
「あの空間にどんな文字があったら楽しいか」