tupera tuperaによる作品ガイド⑤「床田愉男」
tupera tupera のふたりが、展覧会「tupera tuperaのかおてん.」をガイド。ひとあし先に、会場にどんな作品があるのか、一緒にのぞいちゃいましょう!
写真:吉次史成
会場の「うず巻き」の中央、床に敷かれた大きなまるがみっつ。それには目がついています。まわりの壁には、大きなヒゲや、枝、クッション、ロープなどがかかっていて、クローゼットのよう。ここにあるパーツやコスチュームを身につけて、まるの上にゴロン。すると、天井の鏡に映るのは、「床田愉男(ゆかだ・ゆかお)」!
展覧会のラストを飾る作品
―ついに、最後の作品まできました。
亀山達矢 僕らが顔に興味をもちはじめたのは、10年前に作った絵本『かおノート』から。会場の最初にある絵本の原画コーナーも『かおノート』からはじまります。そこからずっと顔作りをベースにした作品が続き、この作品「床田愉男」がラストを飾ります。
まだ展覧会の内容が固まっていない時に、「PLAY! MAGAZINE」創刊号のために切り株や、石ころで顔を作りながら、ふと「床田愉男」という名前が思い浮かびました。そのネーミングが気に入って、メインビジュアルを作りました。
床の上に黄色いまると目だけがあって、あとは皆さんに自由にパーツを置いてもらって顔をつくる。そのビジュアルは、床の上に大きなまるがあって、人がその上にいろんなパーツを運んで、床田さんの顔を作るというイメージ。これを会場でも実際に作ってみたいな、と思ったんです。
床の上に黄色いまると目だけがあって、あとは皆さんに自由にパーツを置いてもらって顔を作る。どんなパーツが必要かを考えて、コスチュームクリエイターのイナドメハルヨさん率いるAtelier Inadomeにお願いして、パーツを作ってもらうことにしました。イナドメさんとは、NHK Eテレの番組「ノージーのひらめき工房」の仕事をご一緒してからのお付き合いなんです。
中川敦子 でも途中で、「実現できないのでは」とくじけそうになったこともありました。自分たちが絵で描いている分には楽しいけれど、実際にそれが大きくなって、皆さんがやった時に、はたして絵のようにうまくいくのかな、って。
その後、もっと大きな絵を描いて、サンプル撮影したり、クッションとか仮のパーツを使ってたくさん実験をして、ようやく「なんとか顔に見えそうだ」と。「これはいけるかも」と思えたのは、ぎりぎりでしたね。
亀山 試行錯誤しましたが、最終的に本当におもしろいものができたと思います。
中川 イナドメさんのパーツの完成度が高くて、子どもも大人も誰がやっても楽しめるものになっていますよね。
みんなの「床田愉男」(写真:阿部高之)
床田愉男の歌
―床田愉男の歌があるんですね。
亀山 はじめて、敦子が作詞しました。PLAY! プロデューサーの草刈大介さんがずっと「床田愉男のことを掘り下げてほしい」と言ってたんですよ。「愉男が何者なのか知りたい」って。床田さんの年表を作るという話もあったんだけれど、歌で紹介するぐらいがちょうどいいんじゃないか、って思ったんです。
中川 『しろくまのパンツ』(ブロンズ新社)っていう絵本があるんですけど、これも最後、歌で終わるんですよ。しろくまが真っ白なパンツをはいているのに、ずっとそのことに気づかないというお話なんですけど、はいているのに気づかないって、おかしくないですか?
亀山が思いついたオチにどうしても納得できなくて、「そんなことある?そのオチで大丈夫?」ってずっと言ってたんですが、ある時オチを歌にしてみたんですよ。そしたら、もうツッコミも脱力というか、「まあいっか〜アハハ」ってくだらなく終われた(笑)。歌の力ってすごいな、って。
亀山 そもそも動物だけがパンツをはいている世界ってさ、絵本だから成立するんですよ。どんなにおかしなことも、絵本のなかでは当たり前にできる。そこが絵本のおもしろいところ。
中川 床田愉男もはっきりいって、ダジャレから思いついたネーミングで、深い意味なんてない。だから、一番の歌詞はダジャレの言葉遊びで床田愉男を紹介しています。でも、二番でちょっとだけメッセージを込めたんですよね。
亀山 そう、二番が泣けるんです。
中川 顔って、決められて生まれてきて、基本的には変えられないと思うじゃないですか。でも、その人の生きざまによってものすごく美しくなったり、醜くみえたりする。落ち込んだり、病気の時は暗くみえるし、元気な時はハツラツしてみえる。
顔って、その人の気持ちや内面しだいでどんどん変わるんですよね。調子いい時の顔だけじゃなくて、グジャグジャに泣きじゃくった顔でもいい。そういうところが顔のおもしろさや魅力じゃないか、ってことがメッセージとしてあるんです。
床田愉男はおじさんです
―ところで床田愉男って、立川出身の53歳なんですね。
中川&亀山 私たち、おじさんが好きなんです。
亀山 テレビを見てても、おじさんを見るだけで幸せになるんですよ。おじさんっていろんなバリエーションがあって、電車に乗ってても、ずっと飽きずに見ています。なんなんですかね。
若い男の人はまだ髪もフサフサしてるし、顔の変化もあまりない。初老の人だと完成しちゃってる。アラフィフくらいの、おじさんの顔の変化がいい。いろんな経験を経て、味も疲れも出てきて、愛すべき存在になっている。僕ももうそんな歳になりますが、愛されるおじさんになりたいなあ!
だから皆さんも、会場で床田愉男と遊ぶ時は、ぜひおじさんをイメージしてみてください。若者でもなく、奥さんでもなく、おじさんをイメージすることが大事なのです!