建築家、グラフィックデザイナー、アーティスト。PLAY! には、たくさんのクリエイターたちが関わっています。そんなクリエイターの皆さんに、PLAY! の舞台裏の話を聞くインタビューシリーズです。
今回話を聞いたのは、PLAY! のアートディレクションを担当する菊地敦己さん。なんと、PLAY! のために、アルファベットを作ったとか。しかも、その文字たちは勝手に遊んで踊っている!?
撮影: 吉次史成
PLAY! のアイデンティティ
―PLAY! のなかでの役割は、グラフィックデザイン「だけ」、ではなく、グラフィックデザイン「とか」とのこと。
菊地 PLAY! って、既存のカテゴリーに当てはまらない施設だと思うんです。「ミュージアム」や「パーク」という言葉を使っているけれど、美術作品を展示するいわゆる「美術館」ともちがうし、遊具が置いてある「遊園地」ともちがう。さらにそれが複合して、きまった形式におさまらないオルタナティブな要素をふくんでいる場所だと。
いろいろな境界があいまいなんですよね。そこが魅力だと思います。そんな場所で「どんな体験ができるか」を考えていくと、僕もグラフィックデザインだけではなく、越境せざるをえない。
だからポスターやチケットといった紙媒体のグラフィックから、空間の機能を助けるサイン計画、商品としてのグッズも作るし、ショップの買い物カゴやらカフェの食器選びまで。
―PLAY! のロゴマーク。動きのある、おもしろいデザインです。
菊地 ふつう、ロゴとかシンボルマークって、形や色を固定して、単一のイメージとして使っていくことが多いですよね。でもPLAY! は、MUSEUMとPARK、それにSHOPやCAFEという複数の施設でできているので、どのようにアイデンティティを組み立てるのか悩みました。
それぞれ別のロゴを作るとバラバラになってしまうし、ひとつにまとまりすぎると退屈です。MUSEUMとPARKの個性を持ちながら、両者のつながりが見せられたらいいな、と思いました。
そこで、ひとつのロゴではなくて、PLAY! のアルファベットをひとそろえつくることにしたんです。それを使って組んでいけば、ロゴとして成立するような。それがあれば、施設やプログラムが増えても、拡張できますし。
―決まった形ではなく、仕組みをデザインした、というわけですね。色を黒にした理由は。
菊地 PLAY! は子ども向けではなくて、子どもも大人も一緒、というコンセプトがあります。それで、制作のはじめから「色を使わずに楽しいロゴを作る方法はないかな」と考えていたんです。子ども向けの場所や商品って、カラフルなものが多いですよね。でも、必ずしも虹色の配色でなければいけないわけではないし、それが多様性を示す方法ともかぎらない。
機能的な意味でもMUSEUMでは、色々な作品が展示されるわけですから、施設のアイデンティティに色が散りばめられていると作品の邪魔になってしまいます。黒い文字だけど、PLAY! の活気を伝えるものにしたいと思いました。
PLAY は「遊び」という意味ですが、無秩序に遊ぶということでもありません。演劇やスポーツでもPLAYというし、要するに、ルールがあるわけですよね。ルールというと堅苦しいイメージがあるけれど、基準があるからこそ生まれる動作があります。ロゴにもなにか新しい動きを生み出すルールを作りたい、と考えたんです。
それで、台形のブロックみたいな文字を設計しました。書体って、ふつうは長方形のボディスペースを持っているんです。フォントを打つと、そのボディスペース同士がくっついて、単語を構成します。
PLAY! の書体は、その四角いボディスペースに9度の角度をつけて台形にしてあって、これらをつなげていくと、角度がついているから必然的に蛇行していきます。文字列によって、自動的に曲がり方も変わってきます。文字が踊っているみたいで楽しいでしょう。
―積み木で遊んでいる感じですね。それにしても、なぜ9度なんですか。
菊地 ひとつひとつの文字は、その形によって余白の大きさが異なります。デザイナーが文字を組む時、「この文字とこの文字はくっつきすぎだから、ちょっと離そう」とか、文字間を調整してスペースをフラットにします。
PLAY! の書体は、ボディスペースを斜めに削ぎ落としたことで、だいたい均等に余白ができるようになっています。いくつかの角度で試しましたが、直角の10分割である9度が、読みやすさと蛇行の面白さのバランスがとれる角度でした。
文字もPLAY! している
―オーソドックスな文字を基本にしながら、そのボディスペースを変形することで、結果的に形ができていく、すごい仕組みです!
菊地 ひとつの文字が持っている形の特徴が引き出されて、集まると自由な形をなす。文字たちがあるルールのもと、勝手に遊んでいるようなイメージです。
―平面だけでなく、立体のブロックという考え方がふくまれているのもおもしろいです。
菊地 今回のように多用途に使われるロゴは、平面も立体も一緒に考える必要があるんです。あの場所に文字が実際に存在することを想像して、どんなものが置かれたらおもしろいだろうかと。
ロゴの案を練っている時には、建物はまだ工事中でしたけど、図面や模型を見つつ実際の空間を思い浮かべながら考えました。どんな作品が展示されて、どんな人が来るんだろうかと。
たとえば、手塚さんが設計したPLAY! MUSEUMの中央にある、うず巻型の壁って、細い幅の木材が少しずつ違う角度で組み合わさってできています。あと、「はらぺこあおむし」の体が蛇行していることも頭にありました。そうした、いろんな状況を全部ひっくるめて思い浮かべていたら、「あ、文字も曲げればいいんだ」って思いついたんです。
入口前の館名サインは、大きな「積み木ロゴ」が散らかっています(笑)。ブロックで遊んだ後のような光景ですね。建物はクールでかっちりしているので、人の動きを感じるようなランダムな配置を対比させたかったんです。記号的じゃない動きが、PLAY! のランドマークになったらいいなと。
あと、施設内のトイレやロッカーなどのサインはバケツです。ボディスペースの台形型を360度回すとバケツ型になるんです。
天井高があるから、見上げた時の視認性という意味でも合理的な形です。僕はドリフを見て育った世代だから、上からバケツやタライが降ってくるイメージもあったり…。
開館告知のポスターは、ロゴの「PLAY!」と「2020.4.10 OPEN」という情報が分かれていなくて、一体化しています。情報を付加的なものとして扱うのではなくて、文字情報がひとつの形を成して、それが「はらぺこあおむし」の体の動きと呼応してひとつのイメージになっています。
菊地敦己(グラフィックデザイナー)
1974年東京生まれ。武蔵野美術大学彫刻学科中退。2000年ブルーマーク設立、2011年より個人事務所。主な仕事に、青森県立美術館(2006)のVI・サイン計画、ミナ ペルホネン(1995-2004)、サリー・スコット(2002-20)のアートディレクション、『旬がまるごと』(2007-12)や『装苑』(2013)、『日経回廊』(2015-16)などのエディトリアルデザイン、亀の子スポンジ(2015)のパッケージデザインほか。作品集に『PLAY』(誠文堂新光社)がある。主な受賞に講談社出版文化賞、日本パッケージデザイン大賞、原弘賞、ADC賞、JAGDA賞など。