建築家、グラフィックデザイナー、アーティスト。PLAY! には、たくさんのクリエイターたちが関わっています。そんなクリエイターの皆さんに、PLAY! の舞台裏の話を聞くインタビューシリーズです。
PLAY! のアートディレクションを担当する菊地敦己さん。学生時代に拠点にしていたこともある立川は、菊地さんにとって縁を感じる土地なのだとか。後篇では、立川のことや、PLAY! に対する期待を聞きました。
撮影: 吉次史成
立川はアートの素地がある町
―ところで、菊地さんは立川にご縁があるそうですね。
菊地 立川美術学院(立美)という美術予備校があって、高校3年からそこに通っていました。
その後、武蔵野美術大学に在学しながら、20歳くらいの時にデザイン事務所を創業したのも立川。若葉町というところにアパートを借りて。コンピュータと寝袋があるだけの事務所でしたけど。
デザインの仕事と平行して、立飛(※)の倉庫街にあった「スタジオ食堂」という現代美術のオルタナティブスペースの活動に参加していました。1997、1998年頃は、プロデューサーとして展覧会を組んだりしていました。
(※)立飛:立川を拠点に、不動産賃貸業を営む企業。前身は立川飛行機株式会社。戦前は陸軍の飛行機を製造していた。2012年に立飛ホールディングスを設立。PLAY! は、同社が開発する新街区GREEN SPRINGS内にある。
―その頃の立川ってどんな雰囲気でしたか。
菊地 武蔵美が近いから、美術系の学生が多い印象はありましたね。僕の交友範囲がそうだっただけかもしれないですけど。それに大規模な工場跡地とか米軍基地の名残があって、共同アトリエなんかも点在していました。
あと、「ファーレ立川」というパブリックアートもすでにできていたし、アートの素地があった町だとは思います。ただ、今ほど現代美術が注目されていたわけではないから、一般的には「こんなのもあるんだね」くらいの反応だったと思いますが。
立川には4年くらい居ましたね。モノレールが開通して、駅ビルができて、町の第二次開発が始まった頃に出ちゃったから、その後のことはあまり知らないけれど。20数年で、立川の景色はかなり変わりましたよ。
―PLAY! のプロジェクトの話を聞いた時、どのように思いましたか。
菊地 プロデューサーの草刈大介さん(ブルーシープ)から、「菊地さん、PLAYっていう作品集つくってましたよね。ぴったりだと思って!」って。単純だなぁ、みたいな(笑)
それから立飛の話を聞いて、「えっ、あの立飛?! 僕、そこにいたんだけど」って。立川は青春をすごした場所なので、並々ならぬ因縁を感じました。
ひとつのひな形をつくるチャレンジ
―PLAY! のプロジェクトって、菊地さんのキャリアのなかではどんな仕事ですか。
菊地 僕はこれまで、PLAY! 以外に4つの美術館立ち上げに参加してきました。青森県立美術館、軽井沢千住博美術館、みずのき美術館(京都)、忠泰美術館(台北)。それぞれ規模もちがうし、アプローチや関わり方もまったくちがいます。
PLAY! MUSEUMは、「ミュージアム」といっても、いわゆるファインアートとはちがう文脈の創作を見せていく場所ですから、これまでとはまたちがう意味があると思っています。
今って、モノを所有することよりも、何かを体験することに消費傾向が移ってきているじゃないですか。美術以外でも、「展示を見る」という体験が広がっていて、その方法も多層化している。そうしたなかで、PLAY!はどういう施設としてあり得るのか、ひとつのひな形を作るチャレンジになると思うんです。
それからPLAY! MUSEUMには、「絵とことば」というコンセプトがあります。絵本の展示から発生したコンセプトだと思いますけど、「見る」と「読む」というエディトリアルの要素を空間に展開して、体験するという方法に可能性を感じます。場所の特徴を活かし、身体で感じられる展示を作れるかが勝負どころだと思います。
―PLAY! にはどんな人たちが来ると思いますか。
菊地 どうなんでしょうね。よくわかりません。
でも、学校になぞらえれば、美術室と図書室と体育館が同じところにあるようなものだから、他にはない人の混じり方をするような気はしますね。インドアとアウトドアみたいな単純な区切りができないところが魅力だと思います。
―これからPLAY! に期待していることがあれば教えてください。
菊地 今、PLAY! MUSEUMで計画されている展覧会って、誰もが知っているポピュラリティの高い作品のちがう側面を見せるというおもしろさがありますよね。
「エリック・カール 遊ぶための本」は、絵本の世界を空間に広げる試みだし、「tupera tuperaのかおてん.」は、ふだん彼らがフィールドにしている本ではなく、空間を媒体にした新作、というチャレンジがある。
さらに、PLAY! の企画のおもしろさで見せる展覧会があったら楽しいなと思いますね。
あまり知られていない作家をPLAY! で紹介することによって認知を広げていくこととか、作品ではないものを編集的に見せる展覧会とか。意外性のある内容でも「PLAY! でやるなら見たい」と言わせるようなユニークな企画を見たいですね。
あとは、PLAY! PARKの広いスペースでどんなことが起こるのか。MUSEUMに増して未知数の場所だと思うので、ここでの活動は本当に楽しみです。「自由」を目玉にした施設って、ちょっと思い当たりませんから。
立川にPLAY! のような場所ができると、周辺地域以外からも人がきて、地元の人と混じって、新しい状況が生まれるかもしれない。
僕は町田の出身で、立川を拠点にしていたこともあるので、東京郊外の町がどう変わっていくかにも興味があるんです。
―ありがとうございました。
菊地敦己(グラフィックデザイナー)
1974年東京生まれ。武蔵野美術大学彫刻学科中退。2000年ブルーマーク設立、2011年より個人事務所。主な仕事に、青森県立美術館(2006)のVI・サイン計画、ミナ ペルホネン(1995-2004)、サリー・スコット(2002-20)のアートディレクション、『旬がまるごと』(2007-12)や『装苑』(2013)、『日経回廊』(2015-16)などのエディトリアルデザイン、亀の子スポンジ(2015)のパッケージデザインほか。作品集に『PLAY』(誠文堂新光社)がある。主な受賞に講談社出版文化賞、日本パッケージデザイン大賞、原弘賞、ADC賞、JAGDA賞など。