PLAY! インタビュー 手塚建築研究所(後篇)

「PLAY! PARKは、子どもと大人が一緒にいて楽しい動物園のような場所」

PLAY!には、建築家、グラフィックデザイナー、アーティストなど、たくさんのクリエイターたちがかかわっています。皆さんに、PLAY! の舞台裏のお話を聞くインタビューシリーズです。

第1回目は、PLAY!の内装設計を担当する手塚建築研究所(手塚貴晴+手塚由比)。「PLAY! は建築ではなくイベント!」と言い切るおふたりが作るのは、「うず巻き」「大皿と小皿」「バルーンモンスター」。謎のキーワードはすべて、PLAY! を楽しくする仕かけなのです!
(前篇はこちら)

撮影: 吉次史成

手塚建築研究所(手塚貴晴+手塚由比)

PLAY! PARKの大皿と小皿

続いて、子どもの遊び場であるPLAY! PARKのコンセプトを教えてください。

手塚貴晴 ずばり、動物園です。

最初は子供博物館みたいな話もあったけれど、それじゃ託児所みたいじゃないですか。ガラスの壁があって大人は入れなかったり。子どもをそこに預けて、その間に大人は買い物や食事をして、時間になったら引き取りに行く、みたいな。

私は子どもと一緒にいるのが趣味で、子どもといれば幸せだから、別々なのはちょっとね。そこで、大人と子どもが一緒にいられて楽しい施設ってなんだろう、って考えました。

私が一番好きなのが動物園。だからPLAY! PARKは、動物ではなくて子どもを入れることにしました。

デザインのコンセプトは「子どものお皿」。子どもを入れておく、いろいろなサイズのお皿を作ろうって思ったんです。一番大きな大皿は、25メートルプールくらいあります。

PLAY! PARK イメージスケッチ (手塚建築研究所)
PLAY!PARKの模型

子どもをお皿に入れて、大人はそれを眺めるわけですね。

手塚貴晴 大人は子どもが自由に遊んでいるのを眺めながら、その周りでママ会とかパパ会をしてほしいな。

子育てって、大人同士のコミュニティも大切なんですよね。そういうことも取り入れていくような場所にしたいなと思って。

PLAY! PARKの小さな子どもたちのための「小皿」

アートみたいな遊具

「大皿」のなかには不思議な遊具が置かれています。

PLAY! PARKの「大皿」

手塚貴晴 これも「ありそうでなかった遊び道具を作ろう」とみんなで話して、既存の遊具製品は置かないことにしたんです。

これ、おもしろいでしょう。「バルーン・モンスター」と言ってね、風船を食品用ラップでぐるぐる巻きにしてつなげて作ったんですよ。

実は、私が教えている大学の学生が考えて学園祭で発表したアイデアなの。どんどんつなげていくと生き物みたいに大きく広がって、乗ったりくぐったりして遊べます。風船をつぶせば小さくなるから片付けも簡単。

こんな風に、日常にある当たり前のものを使いながら、子どもたちと一緒に今までなかった遊びをどんどん作っていこうと思っているんです。

東京都市大学の学生たちと一緒にバルーン・モンスターを制作

楽しそうですね。それにしても、なぜ既存の遊具製品は置かないことにしたのでしょう。

手塚貴晴 既存の遊具がどうこうということではなくて、製品にまつわる安全基準や規制といったものが、PLAY! のコンセプトと少し離れているからなんですね。

例えば、自然に生えている木に使用説明書はついていないでしょう?それでも子どもたちは、自分で遊びを考えてよじ登ったり、ぶら下がったりする。たまに落ちて泣く子もいるけれど、誰も木に文句は言わないじゃないですか。

PLAY! では、遊びの発見や失敗もふくめて子どもの自発性を尊重しながら、いろんなことにチャレンジしていきたいんです。そのためには既存の基準や規制からはみだしていかないと。だからこれは遊具製品ではなくて、「アート作品」という位置づけなんですよ。

PLAY! PARKで遊具を制作する手塚貴晴さんと学生たち

手塚由比 もちろん安全性はものすごく気をつけています。

子どもの知覚と安全性を研究している専門家が入って、「どうしたらケガをしにくい床や手すりにできるか」といった助言をもらいながら、細心の注意をはらってひとつひとつ作っています。

ファッションみたいな遊具も!?

なるほど。「バルーン・モンスター」の後は、どんな遊具、遊べるアート作品が登場するのでしょう。

手塚貴晴 風船の次はダンボールの予定です。その次は、今、あるファッションデザイナーと話をしているところなんです。どこまでが人で、どこまでが服で、どこまでがアートなのか、というような不思議なものができるはず。
今はまだ詳しく話せないけれど、楽しみにしていてください!

建築、グラフィック、アート、ファッション。本当にさまざまなジャンルが、PLAY!を通じて融合しているんですね。

手塚貴晴 そう。何ひとつ「私はここまで」みたいなことはありません。だから私たちも建築「とか」なんですよ。

私はずっと「建築は主役じゃない」って言い続けているんです。建築家は劇場を作ることはできるけれど、劇場で一番大事なのはパフォーマンスですよね。そこで起きるパフォーマンスが楽しくなるような劇場を作ったり、仕かけを考えていくことが私たちの役割です。

PLAY! では、これからいろんなクリエイターがやってきてパフォーマンスをくり広げます。彼らが思い切りクリエイティブを発揮した時、ここでいったい何が起きるのか。私たちはそれを考え続けていきたいんです。

PLAY! PARKの「音楽室」

“できごと”をデザインしている

幼稚園や子どものための施設を数多く手がけてきたおふたりにとって、PLAY! はどんなプロジェクトですか。

手塚由比 PLAY! は、建物を作るのではなく、その内部を作る仕事。いつもは建築を通じて起こしている“できごと”を、今回はインテリアを通じて起こしていく、みたいな感じでしょうか。

建築という長きにわたって残るものを作るのとはちがって、ある意味どんどん変わっていくものを作っているという意識。それは幼稚園のプロジェクトともちがうところですし、おもしろいなと感じているところでもあります。

手塚貴晴 私たちは建築だけを作っているわけではないんです。

例えば、「チャイルド・ケモ・ハウス」という小児癌の病院と家の中間のような施設では、「子どもたちに家をプレゼントする」というコンセプトで組織作りから関わりました。

チャイルド・ケモ・ハウス(FOTOTECA)

沖縄にある不妊治療のための施設「空の森クリニック」では、まずは沖縄の森を復活させる、というところからはじめました。すると医療行為も変わってくるんです。

空の森クリニック配置図(手塚建築研究所)

私たちが作っているのは、そこで起きる“できごと”なんですよね。PLAY! は、まさにそうした“できごと”のデザインに関わることができるので、本当にやりがいのあるプロジェクトなんです。

最後に。立川ってどんな場所ですか。

手塚由比 私たちが設計したふじようちえんって立川にあるんです。それからPLAY! のある建物の1階には、ふじようちえんが運営する新しい保育園が入ります。

「ふじようちえんの子どもたちが休みの日に遊びにくる場所なんだな」って、なんとなく親しみやご縁を感じている街ですね。

手塚貴晴 立川って、東京のファイナルフロンティアだと思う。かつては陸軍の航空機工場や飛行場があって、戦後にGHQが接収して米軍基地を作った。それが日本に返還されて。そういう土地がこの数十年、ものすごい勢いでいろんなかたちに変換されていますよね。

立川って、開発の仕かた次第ではつまらない街にも、ものすごくおもしろい街にもなり得る。そういう場所で、私たちに何ができるのか。それはすごく気にしています。

PLAY! がみんなにとってワクワクするような場所になって、これからの立川がおもしろくなるきっかけになればいいなと思っているんです。

ますますオープンが楽しみになってきました。ありがとうございます!

当初予定していた、風船遊具「バルーン・モンスター」をはじめとする「7つの遊びのゾーン」を使った遊びはしばらくの間中止し、新型コロナの状況をみながら再度スタートします。

2020年5月29日

手塚建築研究所(手塚貴晴+手塚由比)

OECD(世界経済協力機構)とUNESCOにより世界で最も優れた学校に選ばれた 「ふじようちえん」を始めとして、子供の為の空間設計を多く手がける。
近年ではUNESCOより世界環境建築賞(Global Award for Sustainable Architecture)を受ける。手塚貴晴が行ったTEDトークの再生回数は2015年の世界7位を記録。
国内では日本建築学会賞、日本建築家協会賞、グッドデザイン金賞、子供環境学会賞などを受けている。手塚由比は文部科学省国立教育政策研究所において幼稚園の設計基準の制定に関わった。
現在は建築設計活動に軸足を置きながら、OECDより依頼を受け国内外各地にて子供環境に関する講演会を行なっている。その子供環境に関する理論はハーバード大学によりyellowbookとして出版されている。