建築家、グラフィックデザイナー、アーティスト。PLAY! には、たくさんのクリエイターたちが関わっています。そんなクリエイターの皆さんに、PLAY! の舞台裏の話を聞くインタビューシリーズです。
「かおてん.」のグラフィックと会場デザインを担当したデザインチーム、minna(みんな)の長谷川哲士さんと角田真祐子さん。一児のパパ&ママでもあるふたりが、「かおてん.」を楽しむヒントから、展示のマニアックなこだわりポイントまでたっぷり教えてくれました!
撮影: 高橋マナミ
―minnaのふたりは、どのタイミングから「かおてん.」の制作に加わったのですか。
長谷川哲士 2019年の秋くらい、展覧会のプロジェクトが実際に動き出してからですね。「グラフィックをやってください」という決まった役割ではなく、もっとふわっとしたかかわり方からスタートしました。
角田真祐子 「どんな展覧会にしようか」という構成のところから一緒に入らせてもらったので、tupera tuperaさんから「こんなことをしたい」という話を聞きながら、「じゃあ、それをどうやって魅力的にしていけるかな」と、アイデアを出しあいながら進んでいきました。
絵本の体験を拡張したい
―会場全体はどんな構成になっているのでしょう。
長谷川 大きく分けて、前半が絵本の「原画」ゾーン、後半がかおにまつわる巨大「新作」ゾーンです。僕らに話がきた時も、それだけが決まっていました。「大きな作品が会場のうず巻きの内側にあって、原画はそのまわりにある」というざっくりしたイメージからスタートしたんです。
―原画ゾーンには、minnaのアイデアがたくさん詰まっているそうですね。
長谷川 原画をどう見せようかと考えはじめて、まずtupera tuperaさんが「(自分たちの)絵本の原画は未完成」と言ったのが衝撃だったんです。僕らは、原画って世界に1枚しかないオリジナルの価値があると思っていたので、tupera tuperaさんの考えは真逆でした。「絵本が完成で、原画は未完成」。
であれば、皆さんが絵本を手に取って開いた時の体験を、絵本と同じか、それ以上に拡張しないといけない。
角田 その役割は、原画を展示する空間の方に求められる、と考えたんです。それでたくさんアイデアを考えました。
長谷川 特に最初の部屋に入った時のインパクトは、その先のワクワク感にもつながるのでかなり重視しましたね。
ここで展示するのは『かおノート』の原画。tupera tuperaさんが「顔」をテーマにしていくきっかけとなった絵本です。これは、読者がシールを貼って顔を完成させるシールブックなので、原画はのっぺらぼうなんです。でも、それを言葉で説明するのではなく、体感してもらいたい。
というわけでこの部屋のコンセプトは、「ビッグバン」ならぬ「ビッグ顔(ガン)」。顔の宇宙みたいに、原画からパーツが飛び出してきたような空間にしました。
ルーペで顔を探してみよう
―ここではどんな楽しみ方がありますか。
長谷川 受付でもらった「かおルーペ」を使って、顔を探してみてください。実は、かおノートゾーンには5つの顔を隠してあるんです。
角田 子どもってどんなに楽しくても、ただ見るだけだとすぐ飽きちゃいますよね。自分から展示を楽しめるように、ルーペのようなアイテムがあった方がいいんじゃないかなと思って。
大人が「これでかお探してごらん」と声をかければ、会話やコミュニケーションのきっかけにもなることを期待してデザインしました。
長谷川 ルーペのアイデアは、tupera tuperaさんから「かおてん.の体験を持ち帰ってほしい」という話を受けて提案したんです。かおてん.でルーペを使って楽しんでもらい、家に帰ってからも「身近なところに顔ってたくさんある」ということに気づいてもらいたくて。
ちなみにルーペの真ん中をくり抜いたパーツは「顔(ガン)メンコ」になっています。本当は、顔メンコスタジアムを作ってみんなでバトルしたい、というアイデアもあり、かなり盛り上がりましたが、泣く泣く一旦保留になっています。PLAY! MUSEUMの名前の通り、会場の外にも遊びをどんどんつなげていきたいと思ったんです。
―「ビッグ顔(ガン)」に「顔(ガン)メンコ」。ダジャレのようなネーミングから展示のアイデアが生まれていくんですね。
角田 tupera tuperaさんとのやり取りは冗談みたいな言葉やアイデアの交換から始まったりするのですが、話しているうちにチーム全体がシンクロし始める瞬間があり、そこから実現へと向かっていく。そういうことの連続でした。
長谷川 メールの文末が、顔にまつわる言葉…というかダジャレでしめくくられたりするんです。そんな細かいところまでとにかく楽しんでいて(笑)「かおてん.」は作り上げられていく過程も含め全てに楽しいが詰まっていたように感じています。
角田 仕事っていうより、子ども同士で遊びあっている感じなのに、いつもみんな本気っていう(笑)でも、それだからこそ高められたクオリティがあると思っています。
額縁にも絵本の世界観を
―こちらは『こわめっこしましょ』の原画です。
長谷川 tupera tuperaさんから「この原画は表裏の関係で見せたい」というアイデアがあって、絵本のページをめくったら劇的な変化にびっくりする感覚を、展示台の表面と裏面を使って再現することになりました。
加えて僕らは、絵本にある「ギャアー」とか「ヌウーー」といった文字も含めて1ページの怖さがあると思ったんです。そこで原画のフレーム(額縁)といっても、絵をただ真四角に切り取るものではなく、それぞれの世界観を表すプロダクトとしてデザインしました。
角田 絵本の内容を踏襲しながら、フレームの形やグラフィックを考えました。フレームの構造は、職人さん泣かせなこだわり形状になっています(笑)。展示壁面は、空間の間仕切りも兼ねた自立型にすることで、常設展とかおてん.の原画ゾーンがゆるやかに分割され、ゾーンとしてのまとまりが出せたかなと思っています。
―『やさいさん』『くだものさん』の原画のフレームは斜めになっていますね。
長谷川 普通のフレームは、素材や色を原画の雰囲気に合わせることが多いと思いますが、これも『こわめっこしましょ』の時と同様に、フレームを絵本の世界観を拡張するためのプロダクトと捉えてデザインしました。この斜めのフレームが、デザイン関係者の方たちに意外と好評で(笑)。ページをめくったら野菜や果物が落ちてくる、下から飛び出すといった絵本のアクションを斜めの角度に集約して表現している、と。
角田 『やさいさん』『くだものさん』の2冊は仕かけ絵本なので、最初は絵本と同じアクションを付けようとか、いろいろなアイデアを行ったり来たりしました。でも本当に開けたり閉めたりすると、絵本のまねごとになってしまうし。絵本とは違う方法で、でも絵本の世界観を感じられるような展示方法を検証し続けた結果、これにたどり着きました。
会場も顔に見えてくる!
―空間デザインでこだわったところを教えてください。
長谷川 最初は展示作品を一番いい方法で演出しよう、というバックアップの姿勢でいました。でも途中で「それでは『かおてん.』らしくない」と気づいたんです。『かおてん.』は来場者の顔までもが作品の一部になって楽しめる展覧会。それであれば、僕らも空間全体を顔化するつもりで、細部にこだわっていくことが不可欠だと。
例えば、作品を説明するキャプション、気づいてくれていますか。実は、キャプション部分は鼻で、絵本を置いてある台は唇とベロなんですよ。
―あ、顔ですね!
角田 大人も子どもも思わず読みたくなるような仕組みをキャプションに持たせられないかと考えて。
長谷川 大人は言われなければ気づかないけれど、子どもはちゃんと気づいているのがおもしろいんです。
角田 このキャプションに気づくことで、遠くから見ると壁自体が大きな顔に見えたりして、ミュージアムの空間自体も楽しんでもらえると思います。
―確かに、この壁が顔に見えてきました(笑)。ホクロもある!
長谷川 あれは「かおてん.」が開幕してから追加されたキャプションで、せっかくなのでホクロにしてみました。なかなか気づかない上級者レベル。ぜひ、探してみてもらいたいです。
―ところで、minnaの専門はグラフィックデザインなのですか。さっきから空間の話が多いような・・
長谷川 グラフィックデザインの仕事の割合は多いですが、もともと僕はインテリアデザインで、角田は空間デザインの出身なんです。プロダクトや空間、ブランディングなど、デザインに垣根は設けず、ボーダレスにデザインの仕事をしています。
角田 グラフィックはグラフィック、空間は空間で別々ということではなく、それがどういう空間に置かれて、どう見えて、どう使われるか、ということまでかなり意識しますね。今回の展覧会のような場合は、1つの体験をデザインする意識で、グラフィックも空間も含め全てを連動させるように心がけています。
のぞいている人も展示の一部です
―原画ゾーンのラスト、『モノモノノケ』の原画は、壁のすき間からのぞき込んで見ます。とても人気のある展示だそうですね。
角田 壁のなかは真っ暗で、絵本の写真撮影に使われた立体原画のモノモノノケが並んでいます。
長谷川 絵本の表紙が家なので、それをモチーフにしつつ覗き穴をつくりました。そこにも、もちろん顔の要素を散りばめていて、コンクリートブロックの穴を顔に見たてています。
―ここはどうやって楽しむのがオススメですか。
長谷川 のぞく位置によって、見えるモノノケが全く変わるんですね。大人と子どもで違う場所からのぞき込んで、「あそこに怖いのがいたよ」とか教えあったら楽しいかも。
角田 全体が見えず、一部だけ視界に入るといきなり怖く感じたりするんです。こちらが原画を見るというより、原画の方がこっちを見ているという感じ。なかには本当に怖がる子どももいると聞いて、ちょっとニヤリ(笑)。
―のぞき込んでいる人の姿を眺めるのも楽しいです。
長谷川 tupera tuperaさんが、「見る側、見られる側が入れ替わっていく展示にしたい」とも言っていて。受付で渡される「かおシール」もその仕掛けの1つです。面白い顔になっている人や、変な体勢でのぞいている家族も、展示の一部と思って楽しんでもらいたいですね。
minna
2009年、角田真祐子と長谷川哲士によって設立。デザインをみんなの力にすることを目指し、ハッピーなデザインでみんなをつなぐデザインチーム。「想いを共有し、最適な手段で魅力的に可視化し、伝達する」一連の流れをデザインと考え、グラフィックやプロダクトなどの領域に捉われない活動を様々な分野で展開している。グッドデザイン賞、日本パッケージデザイン大賞金賞、SDA賞優秀賞、キッズデザイン賞、TOPAWARDS ASIAなど受賞。武蔵野美術大学、昭和女子大学非常勤講師。