コジコジ万博の公式図録『COJI COJI FAN BOOK コジコジのすべて』に収録されているクリエイターインタビューから、本に載せきれなかった「こぼれ話」を紹介します。
コジコジにまつわるお話や、展示作品のひみつをたっぷり。読めばもっと展覧会が楽しくなります!
インタビュー本編は、ぜひ図録をご覧ください。
図録は、PLAY! SHOPで好評発売中!全国書店では5月13日(金)から販売開始します。
取材・執筆:いまむられいこ
コマ撮りとの出会い
―小林監督は大学で舞台美術を学んだそうですね。
小林 武蔵野美術大学に舞台美術とディスプレイデザインのコースがあって、僕は舞台美術を専攻しました。主な進路はテレビ局とかCM、舞台(ステージ)の美術ですね。
僕もテレビの世界に進むつもりでしたが、ある時CMディレクターの中島信也さんが講演に来て、CMの話がすごくおもしろかったんです。
ちょうど1993年に、カップヌードルのCM「hungry?」がカンヌ国際広告祭でグランプリを取った時で、そのメイキングを見せていただいて。
コマ撮りみたいな手法にえらく感動して、「CMってこういうことができるんだな」と、ガラッと方向転換してCMの世界に入りました。
―その頃、コマ撮りは映像のジャンルとしてどんな感じだったのでしょう。
小林 「ひつじのショーン」で知られる英国アードマン・スタジオの「ウォレスとグルミット 危機一髪!」がアカデミー賞を取るなど(1996年)、クレイアニメというジャンルとして注目を集めていましたよね。
その手前では、ヤン・シュヴァンクマイエルに代表されるチェコアニメがあって、僕はどちらかというとそっちのほうが好きでした。
日本でもコマ撮りはゼロではなかったけれど、あまり表舞台には出てこないというか。まあ、今もですが(笑)。歴史的には、古くは人形浄瑠璃からの流れがあると思っています。円谷プロによる特撮の流れもありますよね。
―そんなコマ撮り好きの監督が、ドワーフに入ったきっかけは。
小林 CM制作会社に就職して、2DアニメーションのCMをドワーフと作ったことが最初の出会いです。
その後「どーもくん」の8K映像を一緒に作って、それが僕自身にとって最初のコマ撮りの仕事でした。すごくおもしろくて、ハマったって感じ(笑)。自然な流れでドワーフに加入しました。
コジコジ万博のための作品「コジコジと次郎の不毛な会話」を担当したアニメーター根岸純子をはじめ、今も一緒にやっているスタッフたちと出会って、いろいろパンチを喰らいながら(笑)やってきました。
コマ撮りの魅力とは
―図録のインタビューで監督は、「2Dアニメとコマ撮りの違いは、映るものを全部手でオーダーメイドの立体物として作らないといけないこと」と話しています。「大変だけどそれが一番の魅力」だと。
小林 例えば、スタッフに「小道具のお茶碗作ってください」って発注すると、その人が乗っけてくるものがあるんですよ。「私の好きな○○焼の○○という釉薬使ったやきものです」みたいな。
作品に関わる作り手の数だけ、そういった「前向きな意味でのノイズ」がたくさん乗っかってきて、画面にすべて入り込んでくる。そこがコマ撮りの魅力に繋がっているのかな。
キャラクターの動きもそうです。人形に直接触れて、動きをつけていくアニメーターの個性は、必然的に仕上がりに反映されます。コマ撮りって手数が多い分、人の気持ちや想いが入っていっちゃう。むしろ、入らざるを得ない手法なのかもしれません。
今回コジコジと次郎の動きをつけた根岸は、本人もかなり自由な精神の持ち主なので(笑)、彼女の個性が人形と共振して、どんな新しいコジコジが生まれるのかとても楽しみにしていました。
―確かに今回の大きな見どころは、コジコジの動きですよね。アニメでも漫画でも描かれていない部分をどう作るか、大変だったのでは。
小林 最初のテストで、2Dアニメーションと同じようにコジコジを歩かせてみたら、生きていない感じがするというか、ちょっと地味だったんですよ。
2Dアニメーションは当時の時代性や事情もあったと思うのですが、割りとリミテッドな様式を取られていて、見る人が想像で動きを補っているように思うんです。
今回僕たちがコマ撮りで目指したのがコジコジの実存感みたいな部分だったので、アニメをつける時には、2Dに比べ動きを少しずつ盛っています。やりすぎると皆さんのイメージから離れてしまうので注意が必要ですが。
また、コジコジはヒョイっと飛ぶのか、ふわりと浮かぶのか。次郎はノシノシ歩くのか、スタスタなのか、などなどテストを重ねて、さくらプロダクションさんにも相談をしながら、コマ撮りならではのコジコジらしい動きを追求していきました。
会場の映像に隠れキャラ?!
―監督ご自身が脚本と絵コンテを描きました。
小林 展覧会のためのコマ撮りはやったことがなく、どういうものがいいのか悩みました。家でテレビを観る時と、美術館やギャラリーで映像を観る時では、マインドも違いますよね。
なので今回は起承転結のあるお話というよりは、基本的にはループして何度見ても楽しいものにしました。
―ボツ案のなかには、空を飛べない半魚鳥の次郎をコジコジたちが協力して飛ばそうとするものがありました。見たかったです!
小林 自分でもお気に入りの案です。
次郎くんを吊り上げる装置は、オートマタみたいなオブジェとしてもおもしろくできそうだなと思いながら描きました。
―監督がこれからやりたいことを教えてください。
小林 今回作った人形がすごくかわいくできたので、別のお話をつけてみよう、という話があったらぜひやってみたいですね。
それこそ、次郎くんが飛ぶお話とか。僕の好きなやかん君が動くコマ撮りもいいな(笑)。
個人的な展望については、僕はCMという実写映像の世界出身ということもあるので、将来的にはコマ撮りと実写が組み合わさったようなものをやってみたいですね。
―最後に、コジコジ万博に来場する方へのメッセージをお願いします。
小林 会場の映像のなかに、「イースターエッグ」といって、隠れキャラや、見つけた人だけがうれしいものを盛り込んでみました。
カエルのトミーとか、頭花君のきのことか、いくつかあるので、ぜひ繰り返し見返して探してもらえたら嬉しいです!
―何回見ても発見がありそうですね!ありがとうございました。
展覧会をみた小林さんに、改めて感想を聞きました。
小林 コジコジ万博の会場に足を踏みれた瞬間に何か身体に染み込んでくるエネルギーみたいなものを感じました。チャクラが開くって言うんですかね。きっとそれはこの空間を作り上げたコジコジを愛してやまない人たちのパワーであり、さくらももこさんご自身のものでもあるのでしょう。
コジコジたちに元気をもらいにまた遊びに行こうと思います。
小林雅仁(こばやし・まさひと)
2013年ティー・ワイ・オー入社、現在xpdドワーフ所属。数々のテレビCMや番組などの演出を手がける。主な作品にNHKの8K映像「DOMO!WORLD」、Netflixオリジナルシリーズ「リラックマとカオルさん」、「リラックマと遊園地」(2022年配信開始予定)など。