PLAY! インタビュー「ミッフィー展」特別展示参加アーティスト ①コスチュームクリエーター・イナドメハルヨさん
PLAY! MUSEUMで開かれている「誕生65周年記念 ミッフィー展」に参加しているアーティストを、らびがインタビューしました。まずはコスチュームクリエーターのイナドメハルヨさんです。イナドメさんはミッフィー(うさこちゃん)のお耳をかたどった12のヘッドピース(帽子)を展覧会場に用意してくれました。どれもかぶって、記念写真を撮ることができますよ。
取材・執筆:らび
撮影:清水奈緒
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―イナドメさん、おはようございます。ここが、イナドメさんのつくった帽子が並ぶ「kakurenbo(かくれんぼ)」のコーナーですね。白いお耳が穴からひょっこり。なんとも楽しい展示ですね。
「そうなんです。この展覧会には写真家の川島小鳥さんも参加していて、ウサギが野原で遊んでいる写真が展示されているでしょう。アナウサギが地面の巣穴から耳だけを出してかくれんぼをしているイメージです」
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―らびはウサギと暮らしているので、ウサギのやんちゃな感じがよく出ていると感心しました。数えてみると帽子の数は12。
「素材もそれぞれ違います。段ボールやチュール布、毛糸やプリーツ、かつて正装用のカクテルハットに使われていた素材などでもつくってみました」
ミッフィーになった気分で
―よく見ると、先がまるいのがあれば、とんがっているのもあります。素材の違いもいろいろあって、それぞれに個性が感じられます。
「ディック・ブルーナさんが描いた時期によっての耳のかたちが違いますよね。人によって、好きな耳のかたちがあると思います。自分の好きな耳を選んで、うさこちゃんになった気分を楽しんでください」
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―らびは、先のとがった耳の絵本を読んで育った世代です。でも、自分の子どもに絵本を読み聞かせていた1990年代のまるくてずんぐりした耳にも愛着があります。これなんかは、片方の耳が垂れています。絵本『うさこちゃんとたれみみくん』に出てくる男の子「だーん」の耳です。
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「こっちには王冠をつけてみました」
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―『うさこちゃんは じょおうさま』の絵本に出てくる女王様ですね。
「もともとのヒントは『うさこちゃんと ふがこちゃん』です。あの絵本は、ぶたのふがこちゃんが、うさこちゃんみたいなお耳だったらいいのになと願うところから始まりますよね。おばさんのうたこさんに相談したら、紙でそっくりの耳を作ってくれました。私はコスチュームデザインをしているので、かぶれる帽子みたいな耳にしたのです」
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違う自分に変身
―かぶって、みんなで記念写真を撮ってもいいし、ひとりで自撮りしてみるのもいい。なんだか、気持ちが解き放たれるような、うきうき気分になりますね。
「それはね、帽子をかぶることで違う自分に変身できるからですよ」
―えっ、どういうことですか?
「私は舞台衣装も手がけているのですが、舞台だけでなく日常の暮らしでも、帽子をかぶって気分を変えることができますよ」
―ボルサリーノのソフト帽をかぶると、なんだかマフィア映画のボス役になったような気分がします。あの感じですね。
「(笑)。かぶれば、一瞬で違う人に変身できますよ」
―そのものずばり「ボルサリーノ」という仏伊共同制作の映画がありました。1930年代のフランスのマルセイユを舞台に、アラン・ドロンとジャン=ポール・ベルモンドがスーツに帽子でバシッときめてかっこよかったです。あれは1970年の映画ですが、50年代や60年代の映画を見ると男性の俳優はよく帽子をかぶっていましたね。
「そうですね。映画のなかだけではなく、普段の暮らしでも帽子はよくかぶられていました。私のおじいちゃんも帽子をかぶっていましたね」
―それがだんだん、帽子をかぶらなくなり、特に男性のスーツに帽子というスタイルは見られなくなりました。いちいち帽子をかぶったり脱いだりするのが面倒だということもあると思います。
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絵本の世界に入っていこう
「でも、帽子は便利ですよ。髪の毛が乱れていても隠せます」
―そうか。寝ぐせがついていても帽子をかぶればOKですね。
「そうそう」
―若い人たちは女性も男性も帽子のおしゃれを楽しんでいます。
「とはいえ、帽子の文化が消えつつあります。特にフォーマルな場面で、かぶられることが少なくなりました。ですので、帽子づくりに使われていた素材そのものが絶えてしまったという例もあるのです」
―えー、そうなんですか。ちょっと、しんみりした話になっちゃいましたね。
「消えゆく帽子文化を守りたいという気持ちはあります。それよりもここでは、ちょっとずつ違う耳を試してみてください。いろいろなうさこちゃん絵本の世界に入っていけます。かわいくつくってあるので、かぶればだれでも、うさこちゃんになれますよ」
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イナドメハルヨ
コスチュームクリエーター。Atelier Inadome代表。文化服装学院ファッション工芸科卒業。帽子メーカーでの企画、オートクチュールのアトリエを経て独立。ヘッドピースを中心にCM、広告、アーティスト、舞台、幼児向けテレビ番組の衣装全般を手掛ける。
らび
自ら「らび」と名乗る初老のおじさん。うさぎが好きで「ぼくは、うさぎの仲間」と勘違いしています。著書に『ディック・ブルーナ ミッフィーと歩いた60年』 (文春文庫) 。『ちいさなぬくもり 66のおはなし』(ブルーシープ)のテキストも執筆。