PLAY! インタビュー「ミッフィー展」特別展示参加アーティスト ②クリエイティブ・ユニット SPREAD

ブルーナさんの絵本を解きほぐし、自由に想像する面白さを取り戻したい

PLAY! MUSEUMで開かれている「誕生65周年記念 ミッフィー展」に参加しているアーティストに、らびが連続インタビューしています。今回、お話を伺ったのはSPREAD。小林和弘さん山田春奈さん夫妻のクリエイティブ・ユニットです。2人は会場入り口に大きな抽象画のような色のパネルを並べ、天井には黒い綱をうねらせました。「物語はあなたの中にある」と題されたこの展示。仕上がりもコンセプトも、かなりクールです。

取材・執筆:らび
撮影:清水奈緒

SPREADのおふたり

-はじめまして。らびです。入り口付近に並ぶ正方形のパネル。大きいですね。

小林「1枚あたり3.6メートル四方の大きさ」

(撮影:吉次史成)

―床にもディック・ブルーナさんが絵本で使っている6色の「ブルーナ・カラー」が張りついていますね。天井の黒い綱のようなものがうねっています。あれは何でできているのですか?

山田「布の中に紙をくしゃくしゃにして詰めています。長さは200メートルあって、展示会場の最後のところまでつながっています」

小林「ブルーナさんの線には微妙な凹凸があるでしょう。あの線の感じが紙を入れることでうまく表現できました」

線と色を解きほぐす

―ということは、これは絵本の線?

小林「そうです。そうです」

―ミッフィーの絵本の線と色をばらばらにして、線は天井に、色の部分は壁や床に展示したということですね。

小林「色は記憶を呼び起こすスイッチみたいなものだと思っています。色が感情に訴えかけるインパクトは想像以上に大きいと思うのです。お花見を想像してみてください。桜の花のかたちを楽しんでいるのではありません。桜のピンク色が一面に広がっているなかで、たくさんの人が気持ちを高ぶらせているわけですよね。色がもっている力です」

山田「一方で、線はストーリーを説明しています。線でかたちをつくり、そのかたちを並べていくことでストーリーを展開していくのです」

―ブルーナさんの絵本から線を取り除いたのが、壁や床の色というわけですね。抽象画のように見えます。

(撮影:吉次史成)

小林「実は、どれもうさこちゃん絵本の一場面ですよ」

―これは『ゆきのひのうさこちゃん』で窓から外をながめている場面のように見えますし、こっちはスケートをしている場面でしょうか?

小林「うさこちゃんの絵本は広く親しまれており、ある種のイメージができ上ってしまっています。固定観念、先入観といってもいいかもしれません。そのイメージをいったん解きほぐそうと考え、線を除いて色だけの抽象的な表現にしていきました」

物語を紡ぎなおす

山田「私たちは線も解体して天井に這わせてみました。線を解体することでかたちもなくなりますよね。そうすることで、うさこちゃんの絵本のストーリーそのものもばらばらにできたらいいなと考えたからです」

―ブルーナさんの絵本をまるごと解きほぐしてみたのですか?

小林「そうなのです。僕たちの展示のタイトルを『物語はあなたのなかにある』としたのも、頭の中で固まってしまっているうさこちゃん絵本のイメージを紡ぎなおしてみたかったからです」

―子どものようなまっさらな心と目に戻って、ブルーナさんの線や色に向き合ってみようというわけですね。

山田「ブルーナさんの絵本はシンプルなので抽象的な仕上がりになっています。私たちの子どもは5歳で、ときどきうさこちゃんの絵本を読んでいるのですが、面白いことに同じ絵本を読んでも感想がその日によって違うのです」

―その日の気分によって絵本から受ける印象が変わってくるということですか?

山田「そうですね。子どもの想像力をうんと刺激する絵本なのです。シンプルで抽象的だからでしょうね。でも今の社会を生きている大人は、ブルーナさんの絵本を自由に感じ取ることが難しくなっているように思います」

小林「今の社会の状況が難しくしているよね」

山田「情報が多すぎるというか、過剰なサービスが提供されてしまっているので、自分で想像力を広げていくことが難しくなっています。でも、これからの時代を生きていく子どもたち、そして若者たちには、想像することの重要性に気づいてほしいな。そんなことを意識して展示をつくっていきました」

楽しく遊べる工夫も

(撮影:吉次史成)

―天井を這う黒い綱に話を戻しますと、会場の最後で垂れ下がってきて、ブランコのようになっています。

小林「ええ、ブランコのようにして遊ぶこともできます」

―展示会場の天井に沿って200メートルも伸ばしていくのは大変だったでしょうね。

山田「なるべく長くしようと考え、展示会場の模型をつくって200メートルと決めました。ここは『PLAY! MUSEUM』という名前が示すように、遊び心にあふれる楽しい場です。その雰囲気に合うようにも考えました」

―クールなコンセプトでありながら、楽しい仕掛けもあります。亡くなったブルーナさんがもしもここに来られたら、きっと喜んだでしょうね。

山田、小林「わあ!それだと、うれしいな」

SPREAD

小林和弘さん山田春奈さん夫妻によるクリエイティブ・ユニット。あらゆる記憶を取り入れ「SPREAD=広げる」クリエイティブを行う。生活の記録をストライプ模様で表す「Life Stripe」を国内外で発表。主な仕事に「国立新美術館開館10周年」記念ビジュアル。「燕三条 工場の祭典」など。

らび
自ら「らび」と名乗る初老のおじさん。うさぎが好きで「ぼくは、うさぎの仲間」と勘違いしています。著書に『ディック・ブルーナ  ミッフィーと歩いた60年』 (文春文庫) 。『ちいさなぬくもり 66のおはなし』(ブルーシープ)のテキストも執筆。