PLAY! インタビュー 手塚建築研究所(前篇)

「PLAY! MUSEUMは、そこで起きた"できごと"が積み重なっていくような場所」

PLAY!には、建築家、グラフィックデザイナー、アーティストなど、たくさんのクリエイターたちがかかわっています。皆さんに、PLAY! の舞台裏のお話を聞くインタビューシリーズです。

第1回目は、PLAY!の内装設計を担当する手塚建築研究所(手塚貴晴+手塚由比)。「PLAY! は建築ではなくイベント!」と言い切るふたりに、PLAY! MUSEUMとPLAY! PARKの楽しいコンセプトや仕かけについて聞きます。

会場写真: 吉次史成

手塚建築研究所(手塚貴晴+手塚由比)

みんなが「とか」の精神でPLAY!にかかわっている

手塚建築研究所は、PLAY! の内装設計だけではなくPARKの遊具作りまでかかわっているそうですね。

手塚貴晴 PLAY! は、美術館のPLAY! MUSEUMと、子どもの遊び場であるPLAY! PARKというふたつの施設でできています。

私たちは両方の設計を手がけていますが、特にPLAY! PARKについては中身にもかなり踏みこんで関わっています。私たちの役割は、建築だけではなくて、建築「とか」。

プロデュースやグラフィック、ショップなどもふくめて、PLAY! を作っているメンバーが、それぞれの専門や立場を超えて「とか」の精神でクロスオーバーしていくといいな、と思っているんですよ。なので、ひとつのチームとして、みんながおたがいの話に混ざりながら進めています。

PLAY! MUSEUMのうず巻き

PLAY! を構成するふたつの施設について教えてください。まず、PLAY! MUSEUMから。

PLAY! MUSEUMのエントランス

手塚貴晴 PLAY! の大きなコンセプトが「ありそうでない」なんですよ。とにかく今までなかった美術館や遊び場を作っていこうと。

PLAY! MUSEUMについては、最初に、PLAY! プロデューサーの草刈大介さん(ブルーシープ)が「展覧会のたびに壁に貼ったものをはがして、白いペンキで新品みたいに塗りなおすのはやめようよ」って言ったんです。そんなのエコロジカルじゃないし、文化って本当は積み重なっていくものだよね、って。その考え方ってとてもいいな、って思いました。

私たちね、ときどき、ベネツィアビエンナーレで展覧会をやるんですよ。アーセナル(アルセナーレ・ディ・ヴェネツィア)っていう造船所跡のギャラリーで、レンガの壁にクギを打ったり、床に穴をあけたり、何をしてもいいの。

PLAY! MUSEUMも、そのくらい自由で勢いのある美術館になったらいい。PLAY! MUSEUMのうず巻き状の展示スペースの壁に、ぐるっと細い木の板を張りました。幅の狭い木材って、間伐材からとれるのでエコロジカルなんです。

展覧会が終わって、木の板の上にいろんな貼りあとが残っても、必ずしもきれいにしなくてもいいじゃない。そこで起きた“できごと”が重なっていくような、そういう場所にしていきたいな、って。

PLAY! MUSEUMの模型。中央の展示室は「うず巻き」状

うず巻き状の展示スペースっておもしろいですね。

手塚貴晴 昔、カーネギー美術館で個展をやった時にうず巻きの会場を作ったことがあって。PLAY! MUSEUMについては、「これから絵本の展覧会もやる」という話を聞いた時、いつのまにか夢の世界に入り込んでいくようなスペースを思い描いたんです。

夢の世界って、現実との境い目がなくて、誰も夢がはじまる瞬間なんて覚えていないですよね。だから展示室の扉はないの。
目の前のうず巻きをどんどん進んでいって、気づいたら夢の世界に取り囲まれていた!そういう感じがいいな、と思ってデザインしました。

手塚貴晴さん。うず巻きの展示スペースで

PLAY! には真ん中がない

サイン計画(ロッカーやトイレなどの場所を示すグラフィック)は、PLAY! のロゴマークなどのグラフィックを手がけている菊地敦己さんがデザインするそうですね。

手塚貴晴 おもしろいサインを作ってね、とオーダーしました(笑)。サインも展示作品のひとつみたいになるといいよね、と話していて。
PLAY! のサインは積み木やバケツといった変わったものなんです。

おもしろいですね!なぜふつうのサインではないんでしょうか?

手塚貴晴 だって、ふつうのサインがあったら、まるで“建築”みたいじゃないですか!

(笑)!?

手塚貴晴 私たちは建築ではなく、「場」を作ろうとしているので。PLAY! はイベントなんですよ。私たちがいつも言っているのは、アーキテクチャーはモノではなくてイベント。そこで起きている“できごと”が一番大事なんです。

おふたりはそのスタンスでほかのプロジェクトにも関わっているのですか。

手塚由比 そうですね。建物を作る時も同じ感じで、その形がどんな“できごと”につながっていくかということをいつも考えています。

私たちが設計した「ふじようちえん」は、あの特徴的な屋根を「ドーナツ」と呼んでいるんだけれど、ドーナツ型を作りたかったわけではなくて。あのような形にしておけば、子どもたちがずっと走り回れるかな、って考えたからなんですよね。

ふじようちえん (FOTOTECA)

手塚貴晴 ドーナツみたいに真ん中に何もない、というのは禅の考え方に近い。中心がない、ということはなんでも受け入れられるんです。


輪になっていると、みんなが平等になって、いろんな関係性やイベントが生まれる。PLAY!も真ん中がないの。中心がないことはいいことなんです。

(後篇はこちら)

手塚建築研究所(手塚貴晴+手塚由比)

OECD(世界経済協力機構)とUNESCOにより世界で最も優れた学校に選ばれた 「ふじようちえん」を始めとして、子供の為の空間設計を多く手がける。
近年ではUNESCOより世界環境建築賞(Global Award for Sustainable Architecture)を受ける。手塚貴晴が行ったTEDトークの再生回数は2015年の世界7位を記録。
国内では日本建築学会賞、日本建築家協会賞、グッドデザイン金賞、子供環境学会賞などを受けている。手塚由比は文部科学省国立教育政策研究所において幼稚園の設計基準の制定に関わった。
現在は建築設計活動に軸足を置きながら、OECDより依頼を受け国内外各地にて子供環境に関する講演会を行なっている。その子供環境に関する理論はハーバード大学によりyellowbookとして出版されている。

TOPICS

「PLAY! PARKは、子どもと大人が一緒にいて楽しい動物園のような場所」
「あの空間にどんな文字があったら楽しいか」