「鹿児島睦 まいにち」展、はじまりました!

PLAY! 内覧会のようす

2023年10月7日(土)、陶芸家でアーティスト・鹿児島睦 初の大規模個展「鹿児島睦 まいにち」展が開幕しました。

鹿児島睦さんをはじめ、PLAY! プロデューサーの草刈大介、会場デザインを手掛けた柴田祐希さん、アートディレクションを担当した吉田昌平さんが登場したプレス内覧会の様子をお届けします。

取材・執筆:宮崎香菜
撮影:植本一子

「まいにち」を通じて見る、その先にある暮らし

草刈 今回は、展覧会のために鹿児島さんがつくった約200点の器、さまざまな領域でのコラボレーションから生まれたプロダクツや作品、そしてご自宅やアトリエなど身の回りに置いてあるものをお借りして構成しています。

展覧会タイトルを「まいにち」としたのは、それらに対して、デザインやグラフィック、あるいは映像、写真、文章を加えることで、制作に向かう姿勢やその先に見ている暮らし、さらに展覧会を見る僕たち、私たちの毎日や日々の生活に思いを潜らせるような場所になっていると思います。展覧会タイトルを「まいにち」としたのはそういう意図からのことです。

鹿児島 「鹿児島睦 まいにち」展というタイトルで、市立伊丹ミュージアムからはじまり、今回PLAY! MUSEUMがあって、佐野美術館(静岡・三島)、福岡県立美術館と巡回しますが、関わってくださった皆さんのご協力で展覧会が成り立っています。だから、私は、「鹿児島睦の仲間たち」展だと思っています。

草刈 鹿児島さんは陶芸家、アーティストとしてよく知られていますね。でも、本当の鹿児島さんってどんな人なんだろう?と僕自身、気になっていました。今回いろいろお話を聞いたり、制作の現場を見せていただきましたが、鹿児島さんはありのままなんだな、というのがわかりました。皆さんが持っていたイメージと、これまであまり知られてなかったイメージが会場で重なって楽しんでいただけたら、というのが展覧会のねらいのひとつです。

会場に入ると、小ぶりのテーブルに黄色い器が並んでいます。壁にはゆらめく朝の光や木々の葉が見える窓辺が投影され、鳥たちのさえずりも聴こえてきます。

草刈 はじめに、「あさごはん」というシチュエーションで器を並べました。200点の器を朝昼晩と分けることで、それぞれ違う表情を見てもらえたらと思いました。

鹿児島 器という形を持っている以上、道具という宿命があるわけですから、「使える」という前提でつくらなきゃいけないと私は思っています。作品でもあるけど、道具でもあるので、器には主義主張やストーリーなどはまったく必要ない。そういうものをできるだけなくして、お皿に柄やデザインを落とし込むという仕事に専念していて、カテゴリーを分けたことがなかったので、新鮮で面白いですね。

草刈 鹿児島さんがおっしゃったことは、とても大事なことだと僕らも気づかされました。イギリスの芸術家で思想家のウィリアム・モリスが「役に立たないもの、美しいと思わないものを、家に置いてはならない」と言っています。役に立ち、かつ美しい、それらを備えているものを鹿児島さんはおつくりになっています。

続いて、鹿児島さんが手掛けたテキスタイルや、「ワンピースを着たミッフィー」など、さまざまなコラボレーションから生まれたプロダクトや作品が展示されたコーナーを通って、明るく開けた場所へ。大きなテーブルの上にはたくさんの器が並んでいます。

草刈 「ひるごはん」と題して、広いところに大きな仮設のテーブルを並べて、屋外での大勢での賑やかなランチをイメージしました。

草刈 今回、会場のいろいろな場所で、鹿児島さんの言葉を紹介しています。日々思っていることとか、独特な表現で語っていることを緑色の文字であしらっているのですが、展覧会のビジュアルをつくってくださった吉田昌平さんに文字のデザインについて意図をお聞きします。

吉田 例えば今回は、新聞書体を使用しています。昔は毎日目にする方は多かったと思うのですが、小さい文字でも読みやすい書体です。少しでも「まいにち」を連想させるきっかけになればと思い選びました。また、色は記憶に残るものなので、展覧会ビジュアルには緑の色をポイントで使用しています。意味を込めた色を使いたくて、器との相性、そして今回写真家の田附勝さんに鹿児島さんの内面を引き出してくれるドキュメントを撮っていただいたので、その写真に合う色にしています。

草刈 今回の展示空間はすごく早い段階から、吉田さんや会場の設計を担当した柴田祐希さんと検討していきましたね。

吉田 鹿児島さんの「まいにち」を落とし込むために、柴田さんにいろいろ相談して、会場のさまざまなところで鹿児島さんのご自宅やアトリエにある素材やものを使っています。例えば、鹿児島さんがご自宅やアトリエの壁にいろいろなメモをマスキングテープで貼っていたのを見て、同じように展覧会のキャプションもマスキングテープで貼ることにしました。

器の中から物語を生み出す

次は一転して薄暗い展示空間へ。小さな灯りで照らされたテーブルに鹿児島さんの器と作家・梨木香歩さんの言葉が並んでいます。

草刈 ここにあるのは、『蛇の棲む水たまり』という作品です。朝昼晩のほかに、何か器をいつもと違う視点で見るきっかけをつくりたいと思っていたときに、本展の図録制作した編集者の永岡綾さんからアイデアが出ました。「谷川俊太郎 絵本★百貨展」(PLAY! MUSEUM、2023年4〜7月)の図録も担当していた編集者で、すでに画家が描いた絵から谷川さんが選んで言葉をつけた『シモーヌ』(作・谷川俊太郎、絵・円池茂、CBS・ソニー出版 1979年)という絵本があったね、と。鹿児島さんは器には物語や意味を込めないとおっしゃっているので、同じような方法で器の中から話を生み出すことができたらと考えました。

文章は作家の梨木香歩さんにお願いしました。梨木さんは「クマのプーさん」展(PLAY! MUSEUM、2022年7〜10月)で、書き下ろしの文章を展示させていただいたことがあります。イギリスに住んでいた時期があり、鹿児島さんもまたイギリスのウィリアム・モリスの影響を受けていらっしゃいます。おふたりは面識はありませんでしたが、お受けいただけることになり、梨木さんが30 点くらいの器を選んで物語をつくってくださいました。

鹿児島 器の中にストーリーはいらない、一コマ漫画になっちゃいけないと思っています。動物をよく描いていますが、目が合わないようにしているんですね。同じ動物でも微妙に姿形や色が違うので、見る人は感情移入はできないはず。だから、物語をつけていただくのは無理だろうと思っていました。

でも、梨木さんの原稿を見せてもらったとき、衝撃を受けました。梨木さんのお話に私が拙い挿絵的なお皿をつくったようにも思えてしまって、清々しく打ちのめされたというか。文学の力を感じました。

草刈 鹿児島さんと梨木さんは一度も会わずに制作を進行していき、絵本として出版しました。制作をめぐる過程について、版元のブルーシープのウェブサイトにおふたりへのインタビューを載せていますのでぜひお読みください。
『蛇の棲む水たまり』ができるまで 梨木香歩『蛇の棲む水たまり』ができるまで 鹿児島睦

シチュエーションを分けた器の展示空間の最後は「ばんごはん」。暗がりの中で器が並んだ丸いテーブルがライトアップされています。

草刈 夜に素敵なレストランで食事をするイメージで黒い器を中心に展示しています。今回、コーナーごとに表情を変える会場の設計を中心になって担当してくださったのは柴田祐希さんです。

柴田 はじめに鹿児島さんの器を見たときに、白い台に置かれているだけで成立する強いものを持っていると思いました。でも今回はシチュエーションをつくった展示をめざしていたのでディスプレーでもショーウィンドーでもない、リアルな見せ方を探って皆さんと対話を重ねました。

鹿児島 「ばんごはん」の器を置いたテーブルは私のアトリエや自宅に貼っている壁紙と同じものを使っていたり、会場のさまざまなところで使っているトタン板は、アトリエの外壁に使っているものと同じだったりして我が家を再現しているかのようです。柴田さんの仕事はシンプルで知的。つくってくださった什器もとてつもなく美しい。

草刈 それから鹿児島さん、この空間だけ音楽をつけていますね。

鹿児島 はい、バッハの「14のカノン」です。カノンは同じフレーズをちょっとずらしたり、楽譜を上下反転させたりしてできている。同じことが繰り返されるけど、ちょっとずつずれながら成り立っていくというのが、展覧会タイトルにある「まいにち」と似ているなと思ったのです。

「まいにち」をかたちづくるものたち

最後のコーナーは鹿児島さんの「お気に入り」を展示した空間。カイピアイネンの貴重な器から、蚤の市で見つけた置物や家族がつくった小物まで、普段は自宅やアトリエにあるさまざまなものを、鹿児島さんのコメントとともに展示しています。また、制作に密着した映像も見ることができます。

鹿児島 ここに展示しているのは、仕事をするときに参考にしているもの。仕事に集中すると細かくなりがちなので、もっと楽しく大胆に仕事をしなくてはという「戒め」です。そのお手本になるようなものが自然と集まってくるんですよね。

鹿児島 それと、福岡県立美術館からお借りして、鹿児島寿蔵という大伯父にあたる紙塑人形師の作品も展示しています。数ある作品の中でも特に私が好きなのが、「有間皇子」です。「家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る」という歌を詠み、万葉集に収められている悲劇の皇子の人形で、ディテールまで美しいのでぜひご覧になってください。

*鹿児島寿蔵 「有間皇子」 の展示は11月29日(水)まで。11月30日(木)からは「珠裳」を展示します。

草刈 映像はふたつあって、ひとつは鹿児島さんの制作する様子を手元に寄るなどして間近で撮影させていただきました。もうひとつは鹿児島さんのアトリエで午前10時から午後6時まで8時間カメラを回しっぱなしにしたものを流しています。

鹿児島 素を出したり、少し演じてみたり、面白い映像を撮っていて。3時にいらした方は、同じ時間の私を見ることができます。そろそろ6時になるかなと思って、掃除を始めたら早々に終わってしまってなかなか6時にならず困っている私の姿も見ることができますね(笑)。

鹿児島睦さんの「まいにち」から生み出されていく器たちを通して、その先にある私たちの暮らしを見つめる展覧会。ぜひ、楽しんでください。

開幕前に制作した壁画の前で

鹿児島睦(かごしま・まこと)

陶芸家・アーティスト。1967年福岡県生まれ。美術大学卒業後、インテリア会社に勤務しディスプレイやマネージメントを担当。2002年より福岡市内にある自身のアトリエにて陶器やファブリック、版画などを中心に制作。日本国内のみならず、L.A.、台北、ロンドンなどで個展を開催、近年では世界中にファンが広がっている。作品制作の他、国内外のブランドへ図案の提供も行っており、陶器にとどまらずファブリックやペーパーなど様々なプロダクトを発表。また、国際的なアートプロジェクトへの参加や、空間への壁画制作など活動の幅は多岐に渡る。

柴田祐希(しばた・ゆうき)

1986年静岡生まれ。前橋工科大学建築学科卒業後、施工会社、設計事務所POINTを経て、2010年TANK入社。国内外で活躍する建築家、デザイナーの方々の手掛ける施工を担当。また、施工側からのアプローチも踏まえ、展示会の会場構成や店舗/住宅等の空間設計にも携わる。2016年「RARIO&C」にてJCD Design Award 2016 銀賞受賞。

吉田昌平(よしだ・しょうへい)

デザイン事務所 株式会社ナカムラグラフを経て、2016年「白い立体」として独立。雑誌・書籍のデザインや展覧会ビジュアルのアートディレクションなどを中心に活動。その他に、紙や本を主な素材としたコラージュ作品を数多く制作発表する。作品集に 『 KASABUTA 』(WALL 2013年)、『 Shinjuku(Collage) 』(numabooks 2017年)、『 Trans-Siberian Railway 』(白い立体 2021年)など。

草刈大介(くさかり・だいすけ)

朝日新聞社勤務を経て、2015年に展覧会を企画し、書籍を出版する株式会社「ブルーシープ」を設立して代表に。PLAY! MUSEUMのプロデューサーとして展覧会、書籍のプロデュース、美術館や施設の企画・運営などをてがける。