2024年1月18日(木)、歌手、作詞家、俳優、キャスター、司会者など、多様な活躍を続ける櫻井翔の「言葉」に注目した展覧会が開幕しました。
PLAY! プロデューサーの草刈大介、会場デザインを手掛けた鈴野浩一さん(トラフ建築設計事務所)、アートディレクションを担当した田部井美奈さんをはじめ、参加作家の岡本香音さん(映像作家)、松山真也さん(siro Inc.)そして、イラストレーターのAYAKA FUKANOさん、クリハラタカシさん、秦直也さんが出席したプレス内覧会の様子をお届けします。
取材・執筆:宮崎香菜
撮影:白石和弘
PLAY! らしくない展覧会なのか?
草刈 PLAY! らしくない展覧会、という声も、確かに聞きます。「アイドルの」櫻井さんがいったい何を展示するのか。なぜPLAY! MUSEUMで開催するのか。
PLAY! MUSEUMのテーマは「絵とことば」です。これまで絵本の展覧会を数多く企画してきたのは、絵と言葉が結びついて、大人も子どもも、誰もが民主的に楽しめるメディアだと感じているからです。だから、漫画やアニメーションにも同様の可能性を感じて、展覧会を開催してきました。そんな歩みの一方で、ぼくは昨年、別の場所で開催するために櫻井さんの展覧会を企画したのですが、実は当初から、PLAY! MUSEUMでも開催することを思い描いていたんです。
櫻井さんは皆さんがご存知の通り、歌手、作詞家、俳優、キャスター、司会者などさまざまな活動をしていますが、その傍らにはつねに「言葉」がありました。15年間以上連載しているブログ、ニュース誌『Newsweek 日本版』での記事執筆などは、知らない方も多いかもしれませんね。そんな彼の言葉には、いつだって「伝える」という目的がある。「表現者・櫻井翔」の言葉に、クリエイターがさまざまな形を与えていくことで、櫻井さんの表現は発展し、より伝わっていく。
面白いこと、楽しいこと、シリアスなこと、社会のこと……櫻井さんが残してきたさまざまな言葉を、PLAY! MUSEUMでひとまとまりに表現したなら、こんなに面白い展覧会ができました。ぜひ浴びるように、楽しんでいただきたいと思います。
本展は、PLAY! プロデューサーの草刈らが制作し、2023年4〜5月に六本木ミュージアムで開催した「櫻井翔 未来への言葉展 SHO SAKURAI: WORDS FOR THE FUTURE」に、PLAY! MUSEUMならではの新たなコンテンツを加えた展覧会です。鈴野浩一さん、田部井美奈さんは六本木の展覧会に続き本展に関わっています。
草刈 櫻井さんの言葉を展覧会という場でどう見せて、どのように体験してもらったらいいか、まずはじめに鈴野さんに相談させていただきましたよね。
鈴野 櫻井さんの言葉にはさまざまな領域がありますね。壁で仕切るのはやめて、大きなオブジェのようなものを壁の代わりにしていこうと決めました。会場に入ったら、まず言葉がもつ雰囲気を感じてもらって、そこからグラフィックと言葉が影響しあって、実際に読んでみようということになればと考えています。
草刈 言葉をグラフィックで表現するなら色や形が大事な要素になるので、田部井さんしかいないね、ということになりましたね。
田部井 展示空間の中でグラフィックを使いたいということが明確にあったので、イメージが共有しやすかったです。什器の形も幾何学的で、グラフィックと互換性もありました。
会場で味わう言葉の体験
それでは展示室に入っていきましょう。まず会場で迎えてくれるのは、短冊のように長く続いた、たくさんの言葉。櫻井さんがウェブサイトで連載中のブログ『オトノハ』の展示です。ブログが始まった2008年から2023年までに投稿した244本の中から15本をピックアップして大きく展示されています。
草刈 仕事や日々の出来事、気づいたこと、感じたことが書かれています。実は15年分のブログからピックアップしたもの以外も、すべてを出力していて展示してあります。
鈴野 短冊状になっていてすべて読み切れないのですが、圧倒的な文字量に包まれる感覚を見せたいと思いました。それらを展示している高く積み上がった木枠は、櫓(やぐら)のようなイメージでつくりました。
『オトノハ』のブログのエピソードを読みながら奥に進むと、軽快なラップが聴こえてきて、不思議な装置があるのに気づきます。
草刈 皆さん、これは本当にびっくりしますよ。『ことば工場』というPLAY! MUSEUMならではの新たなコンテンツです。お客さんにも言葉を使って展覧会に参加してほしくて、櫻井さんのラップ詞で、新たな言葉が生まれていく展示を考えました。岡本香音さんがアイデアコンセプトをつくり、松山真也さんがデジタル実装とデザインを担当しました。どのようにこの展示を考えていったのですか?
岡本 最初に思ったのは……櫻井さんに会えるんだ!ということでした(笑)。企画の段階からとてもいいものになる予感がしていましたが、櫻井さんも本当に楽しそうに取り組んでくださって、体温が高い作品になったと思います。
松山 お客さんが入場するときに1枚ずつカードが渡されます。そこにQRコードがあって、装置にかざすと言葉がひとつ落ちてくる。そして、5つ貯まると何かが起こります(笑)。全部で100種類の言葉によってラップが生成されるので、組み合わせはものすごい数になります。つまり毎回違う曲になるわけです。
岡本 装置を動かすのには、体験者と櫻井さんの対話だけでなく、体験者同士の協力が必要です。この場にしか生まれない言葉や体験をつくりました。
次のコーナーは「NO MORE WAR」と「来年も再来年も」。『Newsweek日本版』への寄稿や櫻井さんがキャスターを務める報道番組『news zero』(日本テレビ系)で取材した映像を展覧会用に特別編集したものを見ることができます。
草刈 『Newsweek日本版』には太平洋戦争で戦没した大伯父さんについて取材を重ねた寄稿文が載っており、実際に読んでいただくことができます。『news zero』の映像は東日本大震災以降、櫻井さんが取材を続けている被災地について、言葉と映像をコラージュしています。
続いて、PLAY! MUSEUMならではの大きな楕円の展示空間へ。そこにあるのはなんとサウナのような空間。階段状になったベンチに座って櫻井さんが作詞したパワフルな楽曲を同じ空間にいる人たちと一体になって楽しむことができます。
草刈 ここでは櫻井さんの熱い一面を感じていただきたいと思っています。鈴野さんはサウナが大好き(笑)。サウナストーンも置いているし、蒸気をイメージしたものも浮いてますね。ちゃんと水風呂効果のある仕掛けも用意しています。7.1.4chという12個のスピーカーシステムを使っていて、全身で浴びるように貴重な音源を楽しむことができます。
言葉を巡る多彩なコラボ
熱気のある空間でリフレッシュしたあとは、『すきのあいうえお』の展示へ。2023年4月にPLAY! MUSEUMで開催された「谷川俊太郎 絵本★百貨展」で、谷川さんが取り組んだ新作絵本『すきのあいうえお』に櫻井さんもチャレンジしました。
草刈 谷川さんは自分の「好き」を知るのは面白いことだから、『すきのあいうえお』をぜひ皆にやってもらいたいとおっしゃっていました。櫻井さんにも「あ」から「ん」まで好きなもの45個をあげていただき、イラストレーターのクリハラタカシさんに描いていただきました。なかには櫻井さんの過去の作品などを深く知らないと描けないものがあるようで、「櫻井さんに届け!」という気持ちで取り組んでくださったのですか?
クリハラ そうですね。自分なりの愛を櫻井さんに向けて。同時に、ファンの方にも喜んでいただけるような要素を入れたいなと思いました。
草刈 やってみてご自身の中に発見があったとおっしゃっていましたよね。
クリハラ そうなんです。思っていたよりも自分が櫻井さんファンだったことに今回気づきました。櫻井さんの出ている番組は娘が生まれてから一緒に見ていたのですが。
草刈 いちばん驚いたのは「ち」の挑戦です。
クリハラ テレビ番組でバク転に挑戦する企画があって、それに失敗したところを描きました。櫻井さんのお仕事はチャレンジの連続だと思うのですが、めずらしく失敗したチャレンジを取り上げてしまいました。そういうときのおちゃめな櫻井さんも魅力のひとつだと思うので。もしかしたらご本人は嫌かなと心配したのですが……。
草刈 大笑いして喜んでいらっしゃいました。この展示は、絵と言葉の本『すきのあいうえお』として刊行しています。
後半の展示に向かう通路には、オリンピックや報道番組での取材メモや嵐のラップ詞を書き溜めたノートなどを紹介したコーナー『SHO ROOM』も。櫻井さんの言葉が生まれる源となった貴重な品々を見ることができます。
草刈 次の『僕です。』というコーナーもPLAY! MUSEUMから表現を変え、櫻井さんのブログにイラストレーターの秦直也さんに動物の挿絵をつけていただきました。秦さんはPLAY!MUSEUMで2022年に開催した「どうぶつかいぎ展」の参加アーティストです。
秦 ストレートにブログを読んだ印象で絵をつけてみました。ハプニングが起きたときに櫻井さんが引いた視点で楽しんで文章を書いているのが、僕が動物を描くときと似てるなと思いました。
草刈 秦さんが描いてくださった動物の挿絵は、すぐには文章とのつながりがわからないものだけど、どこかにヒントが隠されていて、発見できたときの嬉しさがありますね。
最後の展示は櫻井さんが文章を書き下ろし、イラストレーターのAYAKA FUKANOさんがイラストを描いた絵と言葉の本『ありがとうの交換。的な。』を巨大な絵本型にしたスクリーンです。
FUKANO 最初は本のテーマ自体決まっていなかったので、まずは「愛を感じる瞬間」を日記みたいにして持ち寄り、ラリーのように進めていくことになりました。そこに本のタイトルにもなっている櫻井さんの「ありがとうの交換。的な。」というエピソードがあり、方向性が決まっていきました。
草刈 櫻井さんの文章に絵をつけるのはいかがでしたか?
FUKANO 私は似顔絵のようなものは得意ではないので緊張したのですが、くだけた絵もいいじゃんとオープンに受け入れてくださって、楽しみながらできました。
草刈 PLAY! MUSEUMではこの本の制作のメイキングを絵巻のようにしたものも展示しています。
最後に、PLAY! MUSEUMの上にある子どもの遊び場PLAY! PARKでも櫻井さんの言葉の展示を見ることができます。子どもが自由に遊びを見つけていくところなのですが、詩を書き下ろしてくださいました。PLAY! PARKのことを深く理解してくださっている詩です。大人のみの入場はできないのですが、展示は見ていただくことができますので、ぜひ。
AYAKA FUKANO(あやか・ふかの)
アーティスト。東京で生まれ育ち、思春期の多感な時期をドイツで過ごす。海外生活を通して、想いや考えをあらゆる方法で表現することの楽しさを学び、この頃の経験がベースとなりアーティストへ。不規則ながらも迷いのない線とポップなカラーリングを持ち味に様々なアート作品を制作。愛をテーマに描かれる暖かい世界観は国内外の幅広い層から支持されている。
岡本香音(おかもと・かのん)
東京都小金井市生まれ。早稲田大学基幹理工学部で、是枝裕和監督らの元映像表現を学ぶ。在学中から映像作家・インスタレーション作家として活動。2022年4月、電通に入社。プランナーとしての業務と並行して、カメラマンやエンジニア等、領域にとらわれない表現を続けている。
クリハラタカシ
1977年、東京都生まれ。マンガ家、絵本作家、イラストレーター。主な作品に、マンガ絵本『ゲナポッポ』(白泉社)、『きょうのコロンペク』(福音館書店)、マンガ『冬のUFO・夏の怪獣【新版】』(ナナロク社)、絵本『これなんなん?』(くもん出版)、『ポケモンとんとんとん』(小学館)などがある。
鈴野浩一(すずの・こういち)
2004年に禿真哉(かむろ しんや)とトラフ建築設計事務所設立。建築の設計をはじめ、インテリア、展覧会の会場構成、プロダクトデザイン、空間インスタレーションやムービー制作への参加など多岐に渡り、建築的な思考をベースに取り組んでいる。主な作品に「港北の住宅」「空気の器」「Big T」「TOKYOBIKE TOKYO」など。
田部井美奈(たべい・みな)
グラフィックデザイナー・アートディレクター。2003年より有限会社 服部一成に勤務。’14年に独立、田部井美奈デザインを設立。広告、パッケージ、書籍などの仕事を中心に活動。主な仕事に『大河ドラマ 光る君へ』『ファミリーマート 「BLUE GREEN」』『マティス展』『山崎ナオコーラ「ミライの源氏物語」』、『石川直樹 奥能登半島』、展示『光と図形』など。2019 年ADC賞受賞。
秦直也(はた・なおや)
イラストレーター。1981年兵庫県生まれ。大阪芸術大学建築学科卒業。2011 年よりイラストレーションを描きはじめる。書籍の装画や挿絵、商品パッケージ、広告などを中心に活動。主に動物をモチーフとしたイラストレーションを制作している。
naoyahata.com
松山真也(まつやま・しんや)
プランナー/デザイナー/エンジニア。2015年にsiro Inc.設立。アイデアからアウトプットまでのすべての工程を主体的に組み、見た人をワクワクさせるものを作る。デザイナーやアーティストとのコラボレーションも多く、心地よい体験を軽やかに実現する。
草刈大介(くさかり・だいすけ)
朝日新聞社勤務を経て、2015年に展覧会を企画し、書籍を出版する株式会社「ブルーシープ」を設立して代表に。PLAY! MUSEUMのプロデューサーとして展覧会、書籍のプロデュース、美術館や施設の企画・運営などをてがける。