「オバケ?」展、はじまりました!

PLAY! 内覧会のようす

2024年7月13日(土)、史上初のオバケ万博「オバケ?」展が開幕しました。

PLAY! プロデューサーの草刈大介、展覧会の企画やデザインを担当した髙田唯さん(Allright Graphics)、オバケ研究所の特別研究員として展覧会に参加した絵本家の広松由希子さん、アートディレクターの祖父江慎さんが出席したプレス内覧会の様子をお届けします。

取材・執筆:宮崎香菜
撮影:田附勝

プレス内覧会のようす 左から髙田唯さん、祖父江慎さん、広松由希子さん、草刈大介

「見る・感じる・知る・なる」がキーワード

草刈 「オバケ?」展はPLAY! MUSEUMの夏の企画です。お子さんや家族連れはもちろん、カップルでもおひとりでも、何人で来ても楽しんでいただけるユニークな展覧会です。受付には、オバケカウンターもあります。もしオバケの方が来られたら、「実はオバケなんです」と言っていただければ、粗品をご用意しています。

今回の展覧会は「見る・感じる・知る・なる」という4つのキーワードで構成しており、髙田さんには企画段階から入っていただいています。展覧会を通して、見えないものに触れたり、考えたりしてもらうにはどうすればいいのだろうと話し合うなかで、「見る・感じる」だけを形にするとテーマパークみたいになってしまうので、これまで絵本、漫画、落語、アニメーション、音楽、写真、映画などさまざまな表現の中でオバケがどう表されてきたか。皆さんに知っていただくためにオバケ研究所も作り、作家やクリエイターの方々に研究員として成果を発表していただきました。

広松由希子さんにはオバケ研究所の特別研究員として、古今東西のオバケ絵本を500冊選んでいただきました。もうひとりの特別研究員は日本美術史学者の安村敏信さんで、日本美術における、妖怪や幽霊を含むオバケの歴史を紹介していただいています。研究所と言っても、大げさなものではなく、オバケと聞いたとき、怖いけどついつい楽しい気分になってしまう気持ちを大切にしています。最後の「なる」というキーワードに関しては、オバケの気持ちに近い方の協力がほしかったので祖父江慎さんにお願いした次第です。

オバケってなんだろう?

髙田 僕はずっとグラフィックデザインをやってきたのですが、オバケについて考え始めると、オバケの概念とデザインは近いと感じるようになりました。個人的にはデザインは工夫することだと思っていて、その工夫は日常のいろいろなところから感じることができます。オバケも同じで、生活の中でこの現象はオバケの仕業じゃないかと思えることが増え、だんだん両者がリンクしていきました。

広松 私はオバケの絵本500冊選ぶというミッションをいただいたのですが、何よりもオバケ研究所の特別研究員を拝命するという、なんとも味わったことのない魅力的なお誘いがあって引き受けることにしました。

オバケ?絵本500冊

この展覧会はオバケに「?」がついていますよね。オバケってなんぞやというところから考えて、1日5冊と自分に課して、時間をかけて少しずつ選んでいきました。化け物みたいなものをオバケっていうけれど、亡くなった人が幽霊になって出てくるのもオバケというし、ただ得体の知れないものだってオバケと呼ぶこともある。自分の気持ちがオバケを作り出していたり、もしかしたら影のことだったり? オバケって面白いワードだなと思いました。

それでは会場に入っていきましょう。ちなみに、入口手前には子どもだけが入れる「オバケ工場」があります。ここで子どもたちはオバケに変身して会場を歩くこともできます。まず最初の部屋では、詩人・グラフィックデザイナーのウチダゴウさんの詩と、絵本作家・美術家のザ・キャビンカンパニーさんの大きな絵が待っています。

草刈 ウチダゴウさんが寄せたオバケの詩「せんめんじょできっちんで」に、ザ・キャビンカンパニーのおふたりが絵を描いてくださいました。この詩と絵によって皆さんの感度が高まるのではないでしょうか。次の部屋からはヒューという不気味な音も聴こえてきますが、オバケ屋敷なんです。ただ、普通のオバケ屋敷と違うのは、オバケの姿が見えないこと。詩と絵の部屋も、オバケ屋敷もはっきり姿は見えなくても、自分の記憶を結びつけて、そこに何かが宿っていると感じるスイッチを入れていただきたいです。

「せんめんじょできっちんで」詩:ウチダゴウ、絵:ザ・キャビンカンパニー

オバケ屋敷には、古井戸、古箪笥、振り子時計に割れた鏡台……。いかにもオバケが出そうなアイテムが並べられた道を抜けると、明るい音楽とともにかわいいバーバパパが出迎えてくれます。

「会いたいオバケ」と「会いたくないオバケ」

草刈 バーバパパは「会いたいオバケ」ですよね。かわいくてかわいくて抱きしめたい。そういうオバケの代表選手として入ってもらいました。でも、フランス生まれのバーバパパって厳密にはオバケではないとされています。フランスで生まれ、1972年に日本でやましたはるおさんが訳した際に「おばけのバーバパパ」と名付けられました。この展覧会は、オバケかオバケでないか、その曖昧な境目に注目しているので「オバケ?」というタイトルをつけています。バーバパパは土から生まれて、姿形を変えることができるオバケのような、そうでないような存在です。そんな不思議な様子がわかる映像インスタレーションを展示しています。楽しんでいただいたあとは「会いたくないオバケ」の部屋に入っていただきます。

真っ暗な部屋には、寄席の「高座」をイメージした舞台があり、せなけいこさんの人気オバケ絵本『ねないこだれだ』(福音館書店、1969年)を落語家の春風亭一之輔さんが朗読します。そして最後には背筋がぞくっとするような演出が待っています。

草刈 『ねないこだれだ』は、シンプルな絵本ですが、本当に怖いんですよね。大人は子どもに読み聞かせをするとき、声色を変えて思いっきり怖がらせたくなる。僕自身そういう経験があります。せなさんの夫は落語家で、そのことがこの絵本を作るきっかけにもなったと聞いたので、現代の売れっ子落語家の一之輔さんにお願いしました。すごく怖く仕上がったので、小さな子は泣いてしまうかもしれません(笑)。「来なきゃよかった」「もう帰る〜」なんて言ってもらえるほど怖がってもらえたら嬉しいです。

オバケ落語「ねないこだれだ」せなけいこ、春風亭一之輔

続いて、アニメーション作家の加藤久仁生さんの新作アニメーション「オバケズ」が上映されています。

草刈 男の子と犬が遊びながらだんだん姿形を変えて、たくさんのオバケがあらわれる、そんな不思議なアニメーションです。とても素晴らしくて、誰もが子どものころに頭の中に当たり前にあったへんてこなことが表されている気がしました。オバケという言葉が加藤さんの表現を引っ張り出すことができたんじゃないかと思います。

オバケを作り出す人間の想像力

さて次はオバケ研究所です。世界各国のお墓の書き割りが置いてある暗い通路から明るい空間に開けてきました。真ん中にはビニールハウスのような建物があります。

草刈 ここが先ほど紹介した研究所の中核です。白い床に蛍光灯。研究所っぽいでしょう? ホワイトボードにオバケ研究員の方々の研究成果が貼られています。さまざまな表現分野に登場するオバケについて、その道の専門家のみなさんが研究員となって論考や作品を寄せてくださいました。さらにはオバケ研究員でもある髙田さんが中心になって、これはもしかしたらオバケなんかじゃないか?と思う何かを集めています。

髙田 日常生活の中にあるオバケらしいものをピックアップしました。たとえば、ゴム手袋はたくさん集めて並べると、おどろおどろしくなります。木目もよく見ると、なんだか人の顔みたいな気がして嫌ですよね。それからいろんなサイズのりんごの置物を並べてみたのは、極端に大きいものをよく「オバケ××」と言うからです。あとは道路標識に、懐かしいおもちゃ「おばけけむり」、ぶら下げたこんにゃく、顔のパックとか……。

会期中も少しずつ増やしていきたいと思っていて、皆さんも日常でオバケを感じられるように感覚を研ぎ澄ませていただいて、もしかしてこれもオバケなんじゃないか?というものがあったら教えていただけるとさらに充実すると思っています。

草刈 髙田さんはいつもこういうこと考えているんですね?(笑)

髙田 デザインするときはいつもそうです。そういうモードになるとすべてがそのように見えてきます。皆さんもオバケのフィルターを通して生活していただけると、いろいろな反応がある思います。小さな子たちも、そういう感覚をここから持ち帰ってもらって、そういう感性が世の中に散らばっていってほしいですね。

草刈 それこそ今回の展覧会のテーマのひとつですよね。

髙田 「オバケ?」展の「?」の部分がここにあるかなと思います。人間の想像力の途方もなさというか。

研究所をぐるっと囲むように、オバケ・クリエイターの皆さんの作品も展示されています。谷川俊太郎さんの詩「けいとのたま」に、息子で編曲家・ピアニストの谷川賢作さんがメロディをつけたインスタレーション、空想地図作家の今和泉隆行さんによる「決済端末」、イラストレーター・グラフィックデザイナーの小林千秋さんの連作「water」など、オバケの存在をテーマにした作品が並びます。
オバケ研究所の特別研究員である安村さんや広松さんの研究成果もここで見ることができます。広松由希子さんが選んだオバケ絵本500冊が壁に沿ってずらりと並ぶ姿は圧巻です。

広松 オバケをテーマにした絵本は本当にたくさんあります。オバケとして明言されているわけではないけれど、異形のものたちが描かれているなど「オバケ」という意味の範囲は広く設定しました。

基本は現代の絵本から選んでいます。宮沢賢治とか小川未明などの古典文学や昔話の絵本も広く見直すと、あっという間に何十冊も増えてしまうので、そこは抑えることにしました。昔話だけでも500冊選べたかもしれません。

草刈 何か予想を超えるようなことはありましたか?

広松 日本だけでなく世界中から探したのですが、それぞれの国の特色が面白いですね。これからオバケ絵本の世界地図でも作ろうかなと思うくらい。たとえば北欧は夜が長いので、夜の間に生まれてくる独特なオバケ像がある。メキシコの場合は、インカやアステカの時代から異形のものが描かれてきたので造形的に面白いんですね。ほかにも、アップリケだけで作られたアフリカの絵本など日本では紹介されていないものもたくさん集めてもらいました。

オバケって実はものすごく絵本に棲みついていますね。500冊って多いようで少ないです。今回は入らなかったけど、会期中に入れ替えてでも紹介したいと思うものも。未練たっぷりです(笑)。

展示されている絵本のうち下3段は実際に手に取って読むことができます。『ねないこだれだ』など、貴重な絵本原画も展示されています。

オバケ湯の番頭・ソビーの登場

「見る・感じる・知る」と体験して、いよいよ最後は「なる」コーナーに向かいます。展覧会のいちばん最後の部屋にあるのは、祖父江慎さんが作った銭湯「オバケ湯」です。内覧会では大きなお風呂の中から、オバケに扮した祖父江さんが迎えてくれました

祖父江 いらっしゃいませ〜。ブックデザインをしております祖父江ですが、本来の姿は「ソビー」といいます。

祖父江慎さん

草刈 湯加減はいかがでしょうか?

祖父江 いいぬる加減ですよ。つかっているとだんだん暖かくなってきます。ところで、じつはオバケって水が苦手なんですって。だからここのお風呂は「カワキミズ(乾き水)」で作ってみたんです。オバケも大喜びなんですよ。ぜひ皆さん入ってみてください。壁には双子富士がございます。通常の富士山よりひとつ多いのですが、この世とあの世の「不死(フジ)」が2つも並ぶめでたい絵なんです。不治(フジ)の病にも効くいいものでございます。そして、この「カワキミズ」はなんと併設のPLAY! SHOPでも販売しております。何に使えるのかはよくわからないんですけども。

「オバケ湯のもと」としてPLAY! SHOPで販売しているカワキミズ

草刈 祖父江さん、最初に展示のご相談をしたときのお題は「オバケの美術館」でしたよね?

祖父江 そうだ、そうでした。なぜかお風呂になっちゃいました。でも、なぜこうなっちゃったかというとちゃんと理由があるんですよ。恐怖と不安で涼しくなるなんて時代まちがいでしょ? 今は不安だらけの人間世界だから、暖まったほうがいいんです。それとね、すばらしいアートの鑑賞よりも体験型の「ごっこ遊び」を大切にしたかったんです。最近は用意されたものを用意されたように味わうってことが多いんですけど、何も用意されていないところでいかに遊ぶか。身近にありそうなどうでもいいような紙くずや日常品を使って何かに見立てて遊べる力。そういう部分を育んでもらうために、作ったんです。なるべくお手軽に、おうちにあるようなもので遊ぶ力をつけてほしいと思っています。遊ぶ力をつけるためには少々「雑」くらいがいいのです。だからこのオバケ湯もなるべく丁寧に雑さを大切につくってるんですよ。

そういえば、ロッカーの横には「シオ」という文字が書かれた故障中のボタンがあります。オバケは水とともに塩が嫌いなんですよ。これを押すとオバケガ逃げていくためのボタンです。でも、シオボタンを押していただいてもいいのですが、何も起こりません。「シオ、コショウ」中ですから。向かうべき先に意味は、ほぼないんです。だからオバケ湯は、うれしさ楽しさ、おもいやり優先の「ごっこ遊び」育成部屋でもあるんです。もうやりたい放題!

疲れた大人もここに入って子どもにいじられながら、オバケになって楽しむのもいいかなと思っているわけでございます。はい、最初のプランを極めていったら全然違うのになっちゃいました!

最後に用意されていたのはなんとオバケのためのお風呂でした。皆さんも乾いた湯船に浸かりながら、オバケの気分を味わってみませんか?

髙田唯(たかだ・ゆい)

桑沢デザイン研究所卒業。株式会社Allright取締役。2011年JAGDA新人賞、2019年東京ADC賞、2020年TDC賞受賞。AGI会員。東京造形大学教授。

広松由希子(ひろまつ・ゆきこ)

編集者、文庫主宰、ちひろ美術館学芸部長を経て、現在フリーで本の文、評論、 翻訳、展示企画などを手がける。ボローニャ国際絵本原画展、ブラチスラバ世界絵本原画展など国際絵本コンペの審査員を歴任。朝日新聞「子どもの本棚」選者。近著に『日本の絵本 100年100人100冊』(編著)『かえりみちとっとこ』(文)『旅するわたしたち On the Move』『ナイチンゲールのうた』(訳)『ちきゅうパスポート』(編集)など。絵本の読めるそうざい屋83gocco共同主宰。JBBY副会長。

祖父江慎(そぶえ・しん)

すべての印刷されたものに対する並はずれた「うっとり力」をもって、ブックデザインの最前線で幅広いジャンルを手がけている。コズフィッシュ代表。著書『おはようぷにょ』(ぺぱぷんたすBOOK小学館)が絶賛発売中。

草刈大介(くさかり・だいすけ)

美術館や文化施設の運営、展覧会企画、アートブックの出版を手がけるブルーシープ代表。

TOPICS

『ねないこだれだ』55周年記念イベント/「オバケ?」展関連企画
2024年7月13日(土) ― 9月29日(日)/ 10:00-18:00(入場は17:30まで)
2024年7月13日(土)ー9月29日(日)
2024年8月11日(日)、8月12日(月)/「オバケ?」展 関連イベント
「オバケ?」展関連企画/2024年7月20日、8月3日、8月17日、8月31日(いずれも土)の閉館後
2024年8月1日(木)ー9月29日(日)/「オバケ?」展 関連企画