PLAY! MUSEUMで開催中の「どうぶつかいぎ展」(2022年2月5日〜4月10日)は、ドイツの詩人・作家、エーリヒ・ケストナーの絵本『動物会議』がテーマ。大人も子どもも楽しめる展覧会です。娘のなまこちゃん(愛称)とともに鑑賞したミュージシャンの坂本美雨さんに、お話を聞きました。
取材・執筆:永岡綾
撮影:高見知香
ビーバーとモモンガとツキノワグマと
— なまこちゃんと一緒に見た「どうぶつかいぎ展」、いかがでしたか?
坂本 まさに、今、必要なメッセージだと思いました。原作の絵本が書かれてから70年以上経つのに、人間の愚かさは何も変わっていないという。
— なまこちゃんとときどき会話をしながら鑑賞されていましたね。
坂本 会場の壁のところどころに絵本からの引用があったので、それを読んであげたりしました。娘は特に感想はいってくれないんですけど(笑)。でも、写真はたくさん撮ったよね。
なまこちゃん ……。(スマホで撮った写真を反芻中)
坂本 中でも「会議があるよー」ってみんなに伝えるシーン(第2幕「動物ビルで会議があるぞ!」秦直也さんによる作品)は最高でした!
手紙がいっぱいついている木を齧ってるビーバーとか、手紙を渡しながら小さいワニに噛まれてるモモンガとか。動物たちの特性をつかんだ、クスッと笑えるかわいい絵ばかりで。
なまこちゃん そのビーバーの写真が見つからないなぁ。
坂本 娘は「動物ビル」(第4幕「世界一へんてこな動物ビル」植田楽さんによる作品)も好きでしたね。
あの動物たち、紙とセロハンテープでできてるんですよね?娘は工作が好きで、紙とセロハンテープをたくさん使うんです。
だから、わが家はいつもセロハンテープを切らしているんですよ。でも、同じ材料であんな作品がつくれちゃうなんて。
— 作家の植田さんは、6歳のときに紙とセロハンテープでバットとボールをつくったのが最初だったそうですよ。
坂本 娘の工作の先生になってほしい……弟子入りをお願いします(笑)。
あと、たくさん写真を撮っていたのは、うんちの模型(第6幕「連中もなかなかやるもんだ」鴻池朋子さんによる「どうぶつの糞 模型」)ですね。気づいたら、奥の暗がりにあるツキノワグマのまで激写してました。
— 扉をくぐってからの空間は照明も落とし気味で、中には「恐る恐る……」といった感じで足を踏み入れるお子さんもいるようですが。
なまこちゃん あんなの怖くないよ。(「もう一回見てくるー」と展覧会場へ)
動物たちは、ものすごく怒っている
— この展覧会の楽しみ方を、お友達の親子に提案するとしたら?
坂本 お子さんの年齢にもよりますが、小さい子なら「かわいい動物がいっぱいいるよ!」というだけでも楽しいと思います。でも、子ども向けというわけでもないので、小学校の高学年くらいなら、戦争のことを含めて物語を詳しく説明してもいいと思います。
やっぱり、最後のヨシタケシンスケさんの作品(エピローグ「動物会議はつづく」)がものすごく刺さるので。あれは、娘と一緒にちゃんとひとつひとつ読みました。
— ヨシタケさんの作品「動物会議の最終日」には、「人間に変化をせまるための、人間以外のものによる会議」がまた開かれるかもしれない……とあります。
坂本 この絵本が生まれた時代から、世の中がどんどん悪いほうに加速しているんだなということを考えさせられます。
人間は、動物たちを絶滅させていますからね。動物たちも、もうそんなやさしくはないかも。すっかり怒らせていると思います。
— さきほど話にでた「動物ビル」には絶滅動物も混じっているのですが、作家の植田さんも近いことをおっしゃっていました。坂本さんは、動物の保護活動にも力を入れていらっしゃいますね。
坂本 家畜からペットまで、人間にとって都合のいいように、手間が省けるように、より短時間でお金になるように、残酷な仕打ちをされている動物たちがたくさんいるんです。この状況を改善するには、人々の意識と、法律もしっかり変えていかないといけないですよね。
私はニューヨークで育つなかで、動物を飼いたいときはシェルターに行ったり、動物保護のボランティアをしたりするのが当たり前だと思っていました。
その後、日本に帰ってきて仕事をするようになったとき、ペットショップなど、動物たちの置かれている過酷な状況に驚いてしまって。少しずつ変わってはいますが、まだまだ日本は遅れていると思います。
— なまこちゃんとそういう話をすること、ありますか?
坂本 改まって話すというより、私が毎週ボランティアに出かける姿を見ているし、娘の中では自然なことになっているんじゃないかな?と思います。
戦争も政治も、日常から切り離さない
— みんなが世の中をよりよくしていこうとするのは、本来、当たり前のことですものね。
坂本 そう。問題意識をもつという以前に、子どもたちにとって日常の一部になったらいいなと思います。戦争のことも、ジェンダーのことも、自分の国の政治がこれでいいのかということも。
「さあ、〇〇のことを話そう」と構えるのもときには必要だけど、それについて考えることが日々の生活の中に溶け込んでいくといいのかな、って。
— そのためには、どうしたらいいでしょう?
坂本 私はアメリカの教育しか知らないのですが、子どものころから、身近な大人たちも有名人も政治について意思表示するのを目の当たりにしていたし、学校の授業では擬似裁判みたいなこともやるし、世の中の問題について「あなたはどう思うのか?」ということを当たり前に問われてきたんですよね。
一方、日本では、例えば性教育など、「まだこれを教えるには早すぎる」といった感覚が根強くあるように感じます。
だけど、子どもたちも当然ながら世の中の動きに巻き込まれる当事者なわけで、大人が決めたことにただ従うだけじゃなく、意見を求められるのは自然なことだと思います。
娘も、コロナ禍で公園が封鎖されてしまったときはすごく怒っていました。
そういうとき、「こう決まったから、その通りにしてね」というんじゃなく、ちゃんと説明していきたいなと思っています。
それでも納得がいかないときは、「じゃあ、こういう方法もあるかな」とか、「こういう運動をしてみたらどうかな」とか、提案したりして。
— まさに日常会話の中で、ですね。
坂本 例えば、ペットショップに並んでいる子犬を見かけたときに、「こんな小さいのにお母さんから離されて、どういう気持ちかな?」って話したりします。
逆に娘から「あの子、男の子なのにピンクの服着てる」って言葉を聞いたときは、「なんでおかしいと思うのー?」って聞き返したり。
戦争も政治もジェンダーも環境問題も、特別なことにせず、日常から切り離さないように意識はしています。
ネコの人とネコの人は、きっと仲よくなれる
— 最後に「どうぶつかいぎ展」のお話に戻って……坂本さんは、アメリカで暮らしていたころに絵本『動物会議』を読まれたとか?
坂本 ええ、確か10代のときに英語で読みました。なぜこの絵本を手にしたのかは忘れてしまいましたが。
娘には、もう少し大きくなってから、ちょっとずつ読んでもらえたらいいかなと思います。長いお話なので、小分けにしてね。
ケストナーは、ほかに『飛ぶ教室』も読んだかな。
— そのケストナーと坂本さんには“ネコの人”という共通点があるのをご存知でしたか?
ケストナーも猫好きで、『動物会議』の打ち合わせには愛猫のミッキーを肩にのせて登場したそうです。
打ち合わせが行きづまると「ミッキー、おまえは、この先どうなるか知っているんじゃないかい?」なんて話しかけたりして。
坂本 肩にのせてって! そうかー、ケストナーさん、いい人だったんでしょうね。友達になれそうです(笑)。
「どうぶつかいぎ展」関連イベント
【PLAY! NIGHT】「おお雨」(おおはた雄一+坂本美雨)けものと奏でる音楽会のようす
坂本美雨(さかもと・みう)さん
東京都生まれ。9歳のときに家族で渡米し、ニューヨーク郊外で10代を過ごす。1997年、16歳で「Ryuichi Sakamoto feat. Sister M」名義で歌手デビュー。以降、本名で本格的に歌手活動をスタート。音楽活動に加え、執筆、ナレーション、演劇など表現の幅を広げ、ラジオでは「ディアフレンズ」のパーソナリティや村上春樹さんの「村上RADIO」のDJを務める。2021年、ニューアルバム『birds fly』をリリース。2022年1月29日、デビュー25周年を迎え、アニバーサリーイヤーに様々なプロジェクトが計画中。動物愛護活動をライフワークとし、“ネコの人”としても知られる。児童虐待を減らすための「こどものいのちはこどものもの」の発起人の一人。2015年に長女を出産し、猫と娘との暮らしを日々綴っている。
永岡綾(ながおか・あや)
編集者・製本家。「どうぶつかいぎ展」企画メンバーの一人。編書に『アーノルド・ローベルの全仕事』『かえるの哲学』『ちいさなぬくもり 66のおはなし』『柚木沙弥郎 Tomorrow』(ブルーシープ)など。著書に『本をつくる』(河出書房新社)、『週末でつくる紙文具』(グラフィック社)など。