PLAY! インタビュー 津村耕佑さんと手塚貴晴さん、小栗里奈が語る「プチプチ遊具」ができるまで。(前篇)
PLAY! PARKに現れた、「プチプチ遊具」。普段はものを守ったり、緩衝材として使われているエアーキャップ。通称「プチプチ®︎」が、大きなブランコや傘、柱になって〈大きなお皿〉を占領しています。
これを手掛けたのは、「Let’s! PLAY! PUTIPUTI! プロジェクト」のメンバー。武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科の津村耕佑さんと、各学科から集まった学生たちです。そこにPLAY! PARKの内装を担当した館長の手塚貴晴さんとそのゼミ生たちが加わり、2ヵ月かけて企画から本制作、設置を行いました。
紆余曲折ありながらも、なんとか設置まで漕ぎ着けた2021年9月某日。その様子を眺めながら、制作をずっと見守ってきた津村耕佑さんと手塚貴晴さん、そしてPLAY! PARKのキュレーター小栗里奈にインタビューを行いました。
前篇では、津村さんにご自身とプチプチの関係と、プチプチに込められた「魅力」について質問しました。
取材・執筆・撮影:ヤマグチナナコ
ものの持つ「滞空時間」
ー津村さんは、なぜプチプチをモチーフに選んだんですか?
津村耕佑 好きか嫌いかは別にして、プチプチって日常に意識せず存在してるじゃないですか。けれど、大概は包まれている中身に興味があって、梱包材には興味がない。だから、剥いだあとは普通に捨てられていきますよね。そういう存在に逆に興味が湧いてしまったんです。
津村 最終廃棄するという意味では、あらゆるものが廃棄されますよね。けれど、捨てられるまでの時間を考えたときに、長いものと短いものがある。その後者が主役になれば、いきなりゴミにならずに「滞空時間」、つまりこの世にある時間が伸びるんじゃないかと。
手塚貴晴 津村先生はファッションデザイナーで、そう考えると服も人の梱包材って考えられますよね。そしてプチプチは、「守る」っていう意味ではめちゃめちゃ優秀だと思います。ここまで柔らかくて、あったかいものはない。
津村 もっと言うと、被服と体の間にある空気が、保温性とか通気性をコントロールしている。極端に言えば空気が人を守っている。プチプチも、入ってる空気がクッションになって物を守るから、似ているとも言えますね。
手塚 じゃあ、衣服にしろこの遊具にしろ、先生は空気をデザインされているんだ。
津村 そうなりますかね。これは日本製なんですが、プチプチにはその土地の空気が梱包されているんですよ。割ったときに出てくる空気の匂いが、排気量の多い国だと臭いんですって。
手塚 その土地の空気がパッケージされているんだ。そしたら、もしかしてここに高級ブランドの空気が入っててもいいわけですね。「いい匂いのプチプチだね、高かったね~」みたいな。
津村 将来的にあるかもしれない。違った活用法で言うと、この中にヘリウムを入れられないかって、メーカーに聞いたことあるんです。そうしたら、梱包したらものを浮かせて、軽く輸送できるかなって。
小栗里奈 なるほど。それはすごいかも。
津村 そしたら、既にメーカー側でやったことあるんですって。けれど、浮かないらしい。ヘリウムは外気に左右されやすいから暑いと浮かないし、入れても微妙に漏れていってしまうそうです。
プチプチはゴージャス?
手塚 プチプチは、英語だと「バブルラップ」と訳されますよね。確かに泡っぽいし、もっと言うと真珠っぽい。一個ずつに反射があるから、ゴージャスに見えますね。
小栗 確かにキラキラしてますね。
津村 先入観として、素材がケミカルだと、チープに思えるっていうのがあるじゃないですか。プチプチもケミカルな素材なはずなのに、ある種のゴージャス感を見出せる。そして、これをボリューミーな感じで表してあげると、エレガンスさが出る。
手塚 例えば、古代エジプト文明では、鉄の方が金より高級だった。なぜなら精製するのが難しかったから。そうやって、時代によって「高級なもの」というのは変化していきます。けど津村先生が言っている「ゴージャス感」とか「エレガンス」っていうのは、値段や時代に左右されない、もっと根本的なものな気がするんです。
津村 ただのビニールはフラットだけど、これは凹凸があることで陰影が出るから、その分情報量が多いですよね。その情報量ゆえに惹かれるんだとも思っています。プリーツや絞り生地みたいな凹凸がある布も、陰影があるぶん情報量が多く感じますしね。
津村 平家物語の一節で『盛者必衰の理』と歌われているように、どんなに栄えても最後は追いやられていく。私がしてるのは、その追いやられるまでの滞空時間を少し引き伸ばすこと。そこに儚さを感じることもありますね。
手塚 津村先生はこのプチプチに儚さをみているんですね。
津村 だって、すぐ捨てられちゃう。ゴミの代表みたいなもんじゃないですか。あとコンビニ袋、ビニール傘にも儚さがある。例えば昔のように和紙で包まれていたら、そうそう捨てなかったと思うんですよ。
手塚 和紙は時代性が生まれますよね。けどこのプチプチは時代性だけじゃなくて、場所の空気まで詰まってる。そう考えると恐ろしく現代的で、豊かな素材かもしれない。
ー和紙は「植物をすいてできている」っていう製造過程を容易にイメージできる。けれど、ビニールになると、製造過程が思考から乖離しやすい。有機的な素材と無機的な素材の違いで、それ故に今の先入観があるのかなと思いました。
手塚 それで言うとね、プチプチで作ったファッションって外に着ていけないし、役に立たないじゃないですか。敢えて言葉を極端にするけれど、「役に立たないもの」を作るって言うのはどういう意味があるんですか?
津村 役に立たないというのは、確かに極端ですね(笑)。服の場合だと、ウェディングドレスって一回着たら終わりじゃない。あれを毎日着てたらおかしい。けれど、存在しています。むしろ一回だから存在している、とも考えられる。
津村 ウェディングドレスもこのプチプチも、夢のように瞬間あらわれるんだけど、次には消える。そういう服っていうか…コスチュームがあってもいいのかなと。それを成り立たせるのが、それを着て、その瞬間を体感する人間だと思います。
手塚 それがどれだけ「保つか」、つまり長期間使用できるかという見方をすると、役に立つ・立たないって表現になる。けれど「出来事」で見れば、それは役に立っている。だからこの遊具も、出来事と考えるとめちゃめちゃ役に立っているわけだ。
めくるめく、「プチプチ」談義はまだまだ続きます。
後篇では学生の制作との向き合い方や、今回制作したプチプチ遊具について話題に上がりました。
後篇はこちら
津村耕佑
武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。文化服装学院非常勤講師。生き方や、ものづくりのあり方に独自の方法論でアプローチするファッションデザイナー、アートディレクター。1983年三宅一生氏のもと、クリエイションスタッフとしてパリコレクションに関わる。1994年「服は究極の家である」という考えを具体化した都市型サバイバルウェアFINAL HOMEを考案し、ファッションブランド「KOSUKE TSUMURA」「FINAL HOME」を立ち上げる。
手塚建築研究所(手塚貴晴+手塚由比)
OECD(世界経済協力機構)とUNESCOにより世界で最も優れた学校に選ばれた 「ふじようちえん」を始めとして、子供の為の空間設計を多く手がける。 近年ではUNESCOより世界環境建築賞(Global Award for Sustainable Architecture)を受ける。手塚貴晴が行ったTEDトークの再生回数は2015年の世界7位を記録。 国内では日本建築学会賞、日本建築家協会賞、グッドデザイン金賞、子供環境学会賞などを受けている。手塚由比は文部科学省国立教育政策研究所において幼稚園の設計基準の制定に関わった。 現在は建築設計活動に軸足を置きながら、OECDより依頼を受け国内外各地にて子供環境に関する講演会を行なっている。その子供環境に関する理論はハーバード大学によりyellowbookとして出版されている。
小栗里奈
PLAY! PARKキュレーター。 2019年名古屋芸術大学デザイン学部スペースデザインコース卒業。愛知県春日井市にて、工房兼ギャラリー「NoSiA」を共同運営。子どもや家族に向けたワークショップを中心に、イベントの企画、空間・プロダクトの制作を行う。第26回日本インテリア学会卒業作品展優秀賞。デザイン女子No.1決定戦2019インテリア・プロダクト部門1位、オーディエンス賞受賞。趣味は、旅先でみみかきを集めること。