PLAY! インタビュー 津村耕佑さんと手塚貴晴さん、小栗里奈が語る「プチプチ遊具」ができるまで。(後篇)

遊具を作るのは遊んでいる子どもたち

PLAY! PARKに現れた、「プチプチ遊具」。普段はものを守ったり、緩衝材として使われているエアーキャップ。通称「プチプチ®︎」が、大きなブランコや傘、柱になって〈大きなお皿〉を占領しています。

これを手掛けたのは、「Let’s! PLAY! PUTIPUTI! プロジェクト」のメンバー。武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科の津村耕佑さんと、各学科から集まった学生たちです。そこにPLAY! PARKの内装を担当した館長の手塚貴晴さんとそのゼミ生たちが加わり、2ヵ月かけて企画から本制作、設置を行いました。

津村耕佑さんと手塚貴晴さん
プチプチ遊具を制作中の学生たち

紆余曲折ありながらも、なんとか設置まで漕ぎ着けた9月某日。その様子を眺めながら、制作をずっと見守ってきた津村耕佑さんと手塚貴晴さん、そしてPLAY! PARKのキュレーター小栗里奈にインタビューを行いました。

後篇では、学生が行う制作との向き合い方、ファッションデザイナーと建築家の考える「重力」の違いが話題に。これから訪れる方にもぜひ読んでもらいたい、ここにある遊具の可能性にも言及しています。

取材・執筆・撮影:ヤマグチナナコ

学生の制作は「仕方ない」の連続

手塚貴晴 学生の制作って、思うようにいかないですよね。

津村耕佑 うん、いかないです。

手塚 それをみてね、先生は「なんとかなるさ」と思って見てる。その時の辛抱強さってすごいなって。僕だったら無理かもしれない。

津村 自分が全部やるならね、やり方は全然違うと思いますよ(笑)。

小栗里奈 学生に委ねてここまでの形になりましたもんね。

津村 そのほうが新しいシーンが見えたりすることもあるんですよ。大学教授になりたての頃は、腹立って仕方なかったけど。

手塚 自分もです(笑)。

津村 学生が制作したものを「いいのかもな?」みたいに、こちらが理解していく。そうすると、いいかなって思い始めて、一年後にはもっと良く思えてくる。「なぜあのとき気が付かなかったんだろう」と思うこともあるくらい。だから、一通り教えるけれど、あとは仕方ない。

プチプチをくしゃくしゃしたり
天井に吊るしてみたり

手塚 仕方ないってのがいいですよね。

津村 それぞれに身体性もあるじゃないですか。各々で力が弱いとか、目が悪いとか、手先が不器用とか。だから仕方がないんですよね。

手塚 だから一個ずつ出来上がりが違う。

小栗 そうなんですよね。学生の裁量でサイズが変わるから、それぞれバラバラなんですよ。そしてすぐ変化していくんです。子どもたちが遊んでるうちに解けてきたり、取れたり、ズレたり。置いた瞬間から変わっていくから、一週間後また全然違う様子になってると思います。

ー小栗さんは学生がプチプチで制作をしていて、驚いたこととかありますか?

小栗 「プチプチってサブ的な存在だな」と私は思っていたんですが、学生は全然違う。逆に大興奮していました。「プチプチ=面白いもの」って思ってる。ここに来る子どもも同じで、飛びついていく。想像以上です。

手塚 プチプチって衝動的になりますよね。「潰したくなる」アフォーダンスがある。どう潰すかを教えなくても、勝手にプチプチ始めるし。根源的に興味を持つ形なのかもしれません。

津村 目の前のものに対して、理解できるまで時間がかかりすぎると嫌になっちゃう。だけど、わかりすぎてもつまらない。人間は適度な分からなさに冒険心が湧くものです。そういうものに解明したいとか、好奇心がわく。プチプチは、誰にとってもそういうものなんじゃないかな。

建築とファッションに共通するのは「構造」

手塚 実はね、津村先生に頼んだ当初はちょっとだけ心配してたんです。「12月にできればいいかなあ」って先生がのんびり言っていたのもあるし、もともとファッションがご専門だっていうのもあって。けれど、ある出来事で払拭されたの。

ーそれはどんな…?

手塚 制作期間中、学生たちは言うことを全然聞かずに作っていくわけですよ。先生がそれをみて「いいじゃん」とか言いつつ、「構造的に考えること、目の前のものがどうできているかを考えることは、ものを作る上で大事」という話を学生にしていたんですよ。そのときに「これは、ファッションも建築も同じだ」って感じました。正直、建築以外の人が構造の話するって思ってなかった(笑)。

〈大きなお皿〉にプチプチ遊具がどんどん増えていきます

手塚 もう一つ面白いことがあって。建築は地面からものを考える。けれど、津村先生は逆なの。全部ぶら下がってるんです。僕らは地面から、重さなどを計算しつつ自立するように構造を考える。津村先生は上から構造物を見ている。つまり、重力に対する考え方が違うんです。

津村 ファッションデザイナーの中でも、僕は特殊な方かもしれないんですけれど。

手塚 それは知ってます(笑)。

津村 ファッションデザイナーって色がどうとか、ギャザーがあるとかわいいとか、トレンドだとか、そっちに考えが行く職業。僕の場合はそこが違って。体という支持体があって、そこに布がかかる。なんなら体がないと潰れてしまう。そこをずっと考えている。だから上から見る考え方になるんでしょうね、布を上から被せるから。

津村 程度によっては、布が垂れる具合はコントロールできる。また、布や材料が持っている特性によっても、ある程度は自立が可能。けれどある程度を超えると自立しない。確実に自立しないからこそ、そのバランスや関係をディレクションしているんです。そうすると、おもしろい。

手塚 津村先生をみていると、人間の根本的なところをいじろうとしている気がします。プチプチを目にして「おもしろいじゃん」って感じるのは、トレンドとは全然無縁なこと。衣服と体の関係も、十二単の着物の具合を美しいとしていたころから変わらない。普遍的な話ですよね。

遊具を作るのは子どもたち

津村 この遊具は子供によって、さらに形が変わるじゃないですか。我々はそれを壊れたとか思ってしまうけど、「造形物ができている」という考えもある。向かう先を目指すわけじゃなくて、結果としてその形が現れるのは、自然現象とも近いですね。

手塚 この形を作ってるのは我々でも学生でもなくて、それを遊んでる子どもたち。

ひらひらプチプチ(撮影:吉次史成)
ぐねぐねプチプチ(撮影:吉次史成)

津村 そう。彼らが造形家として、遊んだ結果「できちゃってる」。その風景も、味わい深い光景で、狙ってできるものじゃないんです。見る人の視点で汲み取れれば、どのタイミングでもある種の美や感動、アクションとかになっていくんじゃないかな。

ーここに来るのは、「大人に連れられた子どもたち」じゃないですか。大人と子どもの違いってなんなんですかね。

小栗 プチプチに限った話じゃないんですけど、大人はここに来ると動揺するんですよ。どうしたらいいかわからないんです。例えば、家で目にするプチプチって大きくてもたかが知れてる。けれど、ここにきたら「こんなに大きいものがある、どうしよう!」って。

小栗里奈

小栗 一方で子どもは、プチプチの常識的なサイズとかは、どうでもいい。ここに入った瞬間、考えるよりも先にここで何をするかが決まってるんでしょうね。直感で「こうしたい!」がある。

手塚 人には根源的な欲求があって、この場所ではそれが出せるんじゃないかなって。この空間自体もそういう場所なんです。子どもたちを放っておくと、このお皿の縁をずーーっとグルグル走る。「こう走ってね」とか言わなくても、走り出すわけですよ。プチプチを渡すときも「こうやってね」と教えなくても、勝手に指で潰していく。

小栗 大人はそういう様子を見て「なるほどね」と動揺が消えていくんです。子どもが遊具を崩しちゃったりすると、保護者はすごい謝るんですね。けれど、その横で子どもは気にせず遊んでいたりする。それをみて「あ、これでいいんですね。大丈夫なんですね」って大人側が自己解決していくというか(笑)。 これは形を変えていっていいもんなんだって納得していく。なんなら、帰る頃には子どもよりも遊んでいたりしますし。

 

手塚 大人も子どもに戻れるんですよね。

津村 人間が身体性を回復するというか、そういう感じですね。

ーここで何かを崩したり、落としても怒られない。その経験がある子どもは、大人になったとき何か変わるかも知れないですね。

手塚 やっちゃいけないことって、実は「やりたいこと」なんですよね。だから禁止する。

津村 今はなんでも「やっちゃダメ」。けどそうすると、自分のアクションが小さくなる。この言い方も変だけど、少なくともここでは壊したり、破ったり、崩すことを「やっちゃってもいい」んです。そうすることで、社会の許容性の範囲を学んでいくんだと思います。

武蔵野美術大学の学生と東京都市大学手塚研究室の学生たち

津村耕佑

武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。文化服装学院非常勤講師。生き方や、ものづくりのあり方に独自の方法論でアプローチするファッションデザイナー、アートディレクター。1983年三宅一生氏のもと、クリエイションスタッフとしてパリコレクションに関わる。1994年「服は究極の家である」という考えを具体化した都市型サバイバルウェアFINAL HOMEを考案し、ファッションブランド「KOSUKE TSUMURA」「FINAL HOME」を立ち上げる。

手塚建築研究所(手塚貴晴+手塚由比) 

OECD(世界経済協力機構)とUNESCOにより世界で最も優れた学校に選ばれた 「ふじようちえん」を始めとして、子供の為の空間設計を多く手がける。 近年ではUNESCOより世界環境建築賞(Global Award for Sustainable Architecture)を受ける。手塚貴晴が行ったTEDトークの再生回数は2015年の世界7位を記録。 国内では日本建築学会賞、日本建築家協会賞、グッドデザイン金賞、子供環境学会賞などを受けている。手塚由比は文部科学省国立教育政策研究所において幼稚園の設計基準の制定に関わった。 現在は建築設計活動に軸足を置きながら、OECDより依頼を受け国内外各地にて子供環境に関する講演会を行なっている。その子供環境に関する理論はハーバード大学によりyellowbookとして出版されている。

小栗里奈 

PLAY! PARKキュレーター。 2019年名古屋芸術大学デザイン学部スペースデザインコース卒業。愛知県春日井市にて、工房兼ギャラリー「NoSiA」を共同運営。子どもや家族に向けたワークショップを中心に、イベントの企画、空間・プロダクトの制作を行う。第26回日本インテリア学会卒業作品展優秀賞。デザイン女子No.1決定戦2019インテリア・プロダクト部門1位、オーディエンス賞受賞。趣味は、旅先でみみかきを集めること。 

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