約20冊の絵本を紹介するにあたっては、アートディレクター、映像作家、建築家ら多才なクリエイターが参加し、原画、朗読、アニメーション、インスタレーションなどさまざまな表現で展示します。そのほか会場では、車やトンネルなど「谷川さんがすきなもの」に唐突に遭遇する新作『すきのあいうえお』も発表。手元でページをめくる絵本の世界から飛び出した、子どもから大人まで誰もが楽しめるおもしろい展覧会です。
★★絵本から飛び出した展示:原画の展示
「絵本★百貨展」でとりあげる約20冊の絵本のうち、原画を展示するのは7作品。PLAY! MUSEUMならではの、ひと工夫を施した鑑賞体験を紹介します。
展示の前半に並ぶ『オサム』『おならうた』『ここはおうち』『これはすいへいせん』『ままです すきです すてきです』の5作品は、アートディレクター/デザイナーのminnaが展示デザインを担当。 例えば子どもに人気の『おならうた』は、ただならぬ気配の「おならドーム」の中に原画がうやうやしく置かれます。ページをめくるたびに文章が積み重なり話が進む『これはすいへいせん』は、 文が積み上がっていく様子を展示に取り入れます。原画を軸にしながら絵本から絵や言葉が飛び出したPLAY! MUSEUMならではの空間をお楽しみください。
『オサム』(文・谷川俊太郎、 絵・あべ弘士)童話屋 2021
展示の後半に登場するのは、『かないくん』『ぼく』の2作品。「生」と「死」をテーマとする特殊な絵本の原画と言葉を、アルミニウムのひんやりとした壁面に展示します。また、特別な信頼関係にあった谷川俊太郎と和田誠が一緒に作った数多くの絵本を、2人の共作絵本『あな』をイメージした、角材を組み上げた立体的なベンチで読むこともできます。2つのコーナーの展示デザインは、建築家の張替那麻が手掛けます。
『ぼく』(作・谷川俊太郎、絵・合田里美)岩崎書店 2022
「谷川俊太郎 絵本★百貨展」会場写真(撮影:高橋マナミ) 『あな』(作・谷川俊太郎、画・和田誠) 福音館書店 1976年
★★絵本から飛び出した展示:アニメーション、インスタレーション
展覧会全体の空間構成は、建築家の手塚貴晴が担当。約20冊の絵本から飛び出した、原画、立体物、 映像などの多種多様なコンテンツを「百貨店」のように見せながら、随所に谷川の好きなものを無秩序に配します。「意味があるより、おもしろく」。本展のテーマを体現するような会場を作り上げます。
・身体で味わう
展示室に足を踏み込むと、しゃん、しゃん、しゃん、と鈴の音が。瀬川康男との名作『ことばあそびうた』から、「けん・けん・ぱ」のリズムで、体をジャンプさせながら言葉遊びを体感することができます。リズミカルに部屋を進んだ視線の先には、何やら大きな「こっぷ」が目に入ってきて…。これらの不思議な展示はアートディレクターの柿木原政広がデザインを担当します。
「谷川俊太郎 絵本★百貨展」会場写真(撮影:高橋マナミ) 「谷川俊太郎 絵本★百貨展」会場写真(撮影:高橋マナミ)
・動き出す「まる」と「とき」
粟津潔のカラフルなグラフィックデザインが冴える最初期の絵本『まるのおうさま』。図形の「まる」どうしが主張しあう様を、映像作家の坂井治が正方形のアニメーションに仕上げました。太田大八との『とき』は映像作家の新井風愉が担当し、ビッグバンからいまに至る雄大な時の流れとその移り変わりを、巨大なスクリーンに投影します。
「谷川俊太郎 絵本★百貨展」会場写真(撮影:高橋マナミ) 「谷川俊太郎 絵本★百貨展」会場写真(撮影:高橋マナミ)
・聞いて見る
少女と人形の共存と別れを描いた写真絵本『なおみ』は、講談師の神田京子の朗読を聞きながら、 写真家・沢渡朔の写真を味わいます。
・新しい写真絵本
展覧会のために作った新作の写真絵本『すきのあいうえお』も展示作品として登場。「あられ」「いるか」「う」。「あ」から「ん」まで、谷川氏が好きなものを五十音順に記し、それらを写真家の田附勝が日本各地を撮影して応えた作品です。
『すきのあいうえお』より「いるか」 『すきのあいうえお』より「さか」 『すきのあいうえお』より「すな」 『すきのあいうえお』より 「そら」 『すきのあいうえお』より「ほね」 『すきのあいうえお』より「もくもく」
・谷川俊太郎の朗読、絵、光、もこもこ
最後の展示室は、元永定正との人気作『もこ もこもこ』の部屋。靴を脱いで紫色の床に上がると、谷川の名朗読が響き渡る中で、絵や光が360度ぐるりと「もこもこ」「ぎらぎら」「ふんわふんわ」 します。映像作家の岡本香音による映像インスタレーション作品で、言葉のリズムと絵の響き合いが楽しい『もこ もこもこ』の世界を体験できる空間です。
「谷川俊太郎 絵本★百貨展」会場写真(撮影:高橋マナミ) 2023年3月ご自宅にて『もこ もこもこ』朗読の様子(撮影:岡本香音)
参加クリエイター
キュレーション・解説:林綾野(キュレーター)
アートディレクション:有山達也(アートディレクター)
空間構成:手塚貴晴(建築家)
『ことばあそびうた』『こっぷ』インスタレーション:柿木原政広(アートディレクター)
『まるのおうさま』のアニメーション:坂井治(映像作家)
『オサム』『おならうた』『これはすいへいせん』『ここはおうち』『ぴよぴよ』『ままです
すきです すてきです』展示デザイン:minna(アートディレクター/デザイナー)
『とき』のアニメーション:新井風愉(映像作家)
『なおみ』の朗読:神田京子(講談師)
『かないくん』『ぼく』、和田誠との絵本 展示デザイン:張替那麻(建築家)
『もこ もこもこ』部屋の映像:岡本香音(映像作家)
『すきのあいうえお』の写真:田附勝(写真家)