【絵本★百貨展ミニインタビュー】張替那麻さん(建築家)

「谷川さんは、相反することをひとつのものに表現していると感じました」

谷川さんが「生と死」を描いた絵本『かないくん』(絵・松本大洋 ほぼ日 2014)と『ぼく』(絵・合田里美 岩崎書店 2022)。その原画の展示を手がけ、和田誠さんとの絵本『あな』(画・和田誠 福音館書店 1976)を家具で表現した、建築家の張替那麻さんに話を聞きました。

取材・執筆:天田泉
会場撮影:高橋マナミ
ポートレート撮影:高見知香

―壁面の外側に『かないくん』、そして内側に『ぼく』の原画を展示したのですね。

張替 「生と死」って表裏の関係というか、『かないくん』と『ぼく』を対照的な合わせ鏡のような関係の展示にできたら、良いのではないかと思いました。

張替 『かないくん』は、読む側がいろいろと考えられる余白を感じ、原画自体も余白の多いドローイングだったので、原画を中心に背景が外側に広がっていくような空間をしつらえました。壁の形は「生と死に関する子供の物語」というところから、直感的に半円にしたんです。ふつうに直線の壁を建てると、右から左まで全部の絵が見渡せますが、半円状にするといちばん右の絵を見たときには、左端の絵は見通せない空間になるので、そういう意味でも広がりが出ると思いました。

『かないくん』は、中盤から後半にかけて物語がガラッと切り替わるのですが、その部分の谷川さんの文章を読んだとき、すごく視界がひらけた気がしたんです。それを形にできないかと思って、半円の直線の部分の壁に文字だけを書いて、視界がひらけるような感覚を体験できるようにしました。 『ぼく』のほうは、視点が広がっていくというよりは、少年がひとつの視点でまっすぐに見ているようなお話だと思いました。『かないくん』とは対照的に、ひとつの視点に収斂していくように、壁の一番奥に少年の背中が描かれた原画を象徴的にひとつ展示しました。

アルミの建材を使ったことにも意味があるのでしょうか?

張替 建材については、通常は壁の中に入っているので、ふだんは見えないものです。2冊の絵本は「生と死」をテーマにした、とても深くて本質的なお話なので、ふだん覆い隠してしまう建材を露にして、素材そのものを展示壁としてしつらえることで、絵本の物語と空間をどこか関連づけることができるかもしれないと考えました。

アルミの建材はひとつひとつにムラがあり、光によって表情も変わります。この建材によってつくられる背景が、人生のムラというかグラデーションというか強弱みたいなものと直感的に重なると良いなと思いました。

―谷川さんと和田誠さんコンビの絵本、『あな』をモチーフにしたベンチも、張替さんの作品ですね。

張替 『あな』の絵本で象徴的なのは、やはり「あな」の断面なので、その中に入れるような構造であり、かつ座れる部分もあるベンチにしました。

絵本の文章は、前半と後半で同じような会話を反復する構造になっていて、それを家具として表現できないかと考えたんです。4メートルの角材を2つ並べて、8メートルのベンチにしたのですが、左側の角材には絵本の前半の会話パートを、右側には後半の会話のパートを書いて、端っこは穴の断面形状になっていて実際に座れるようにしました。そして、2つの角材を合わせると端っこの半分の穴が合わさって、真ん中には、絵本の表紙のような「あな」が開きます。

張替 谷川さんと和田さんの絵本って、いつもたのしくてユニークなものなので、絵本のようなユーモアのある家具になるといいなと思いながら、デザインしました。

―ここに座って、谷川さんと和田さんがコンビを組んだ、数々の絵本をたのしめるのですね。最後になりますが、今回、谷川さんにはどんな印象をもちましたか?

張替 実のところ有名な方すぎて、そんなにきちんと読んだことがなかったんです。お話をいただいてから『こっぷ』(写真・今村昌昭 福音館書店 1972)やいろいろな絵本を読んで、平易な言い方で恐縮なのですが、軽くて重い、狭くて広い、短くて長い、小さくて大きい‥‥いろんな相反することをひとつのものに表現されているように感じて、当時のものを今読んでも、古くて新しい感じがするような気がして不思議な気持ちになりました。

張替 那麻(はりかえ・なお)

建築家。デザイン会社DRAFT、藤本壮介建築設計事務所を経て、2016年 クリエイティブスタジオHarikaeを設立。建築やインテリア、展覧会のデザイン、ブランドの企画から空間にわたるディレクション、自社によるファッションブランドHarikaeのプロデュースなど多岐に活動を展開。主な仕事に、K保育園、クリスチャンダダ南青山店、JINSあべのウォーク店、資生堂のスタイル展、和田誠展、junaida展「IMAGINARIUM」等。JID日本インテリアデザインアワード、空間デザインアワード等受賞。

TOPICS

「谷川俊太郎 絵本★百貨展」関連企画/2023年5月18日(木)−6月18日(日) OPEN:木・金・土・日の12:00−17:00
「谷川さんが、気持ちいいことばを追求した『ことばあそびうた』を、体感する展示に」
「谷川さんと粟津さんが絵本のなかでやろうとした、雰囲気をアニメーションに」
「谷川さんは、変化する自分をたのしんでいて、絵本ごとにチャレンジしていると感じました」
子どもから大人まで誰もが楽しめるおもしろい展覧会
谷川俊太郎の、絵と⾔葉の豊かな響きあいを味わう
2023年6月17日(土)・18日(日)、7月1日(土)・2日(日)10:00-18:00/「谷川俊太郎 絵本★百貨展」関連企画
「谷川さんが『とき』を絵本にしたら、どんなVR(バーチャルリアリティ)よりもVRでした」
企画展示「谷川俊太郎 絵本★百貨展」
「俊太郎さんに『孤独を受け入れて、自分を愛でなさい』と、言ってもらった気がします」