「谷川俊太郎 絵本★百貨展」は、おもしろい!

PLAY! 内覧会のようす

PLAY! MUSEUM、4年目の最初となる展覧会「谷川俊太郎 絵本★百貨展」が、2023年4月12日(水)に開幕しました。本展は、谷川俊太郎さんの絵本から約20冊に注目し、多彩なクリエイターとともに原画展示やインスタレーション作品に取り組みました。

プレス内覧会には、展覧会を企画したPLAY! プロデューサーの草刈大介、キュレーターの林綾野さん、空間構成をした建築家の手塚貴晴さん、そして8組のクリエイターが集合しました。

取材・執筆:天田泉
会場撮影:高橋マナミ
ポートレート撮影:高見知香

展覧会タイトルの「百貨展」とは?

草刈 谷川俊太郎さんは詩人ですが、たくさんのいろいろな仕事をされていて、そのなかのひとつが絵本なんですね。約200冊くらい絵本をつくられています。

谷川さんは絵本の文章を担当されていますが、文章と絵やイラストレーション、写真との組み合わせによる表現がとにかく多彩である。テーマに関しても、いろいろなことに取り組まれている。そういったバラエティを表現することばとして「絵本百貨展」と名づけました。

手塚 谷川さんっていろんなことをやるんですよね、それがおもしろい。昔からデパートに行くとたのしかったじゃないですか。それで「よし、百貨店だ」と言ったら、草刈さんが勝手に「百貨店」の「店」を「展」に変えてしまいました(笑)。

展覧会のたのしみ方

 ことばと絵を組み合わせることによって生まれる新しい世界の可能性を探究し続けたのが、谷川さんの絵本の世界じゃないかと思います。今回の展覧会は、この時代に今を生きるわたしたちが、谷川さんが表してきたものを今の表現でたのしむ、という構成になっています。それぞれみなさんの感覚で、心を開いて向き合っていただけたらうれしいです。

いよいよ会場へ。入り口の「けん けん ぱ」は、アートディレクター・柿木原政広さんによる『ことばあそびうた』((詩・谷川俊太郎、絵・瀬川康男)福音館書店 1973年)のインスタレーションです。

柿木原 あそびうたのリズムにあわせて、子どもが「けん けん ぱ」をする姿はすごくかわいいと思い、このインスタレーションをつくりました。ペルーの民族楽器を手に持って、けん けん ぱと鈴の音にあわせて、「かっぱ かっぱらった……」のリズムを体感してください。

『こっぷ』((文・谷川俊太郎、写真・今村昌昭)福音館書店 1972年)のインスタレーションも、柿木原さんが手がけています。

続いて、映像作家の坂井治さんによる『まるのおうさま』((文・谷川俊太郎、絵・粟津潔)福音館書店 1971年)のアニメーションです。

坂井 おさらやレコードが何を考えて自分は『まるだ!』と言っているのか、そうしたことを動きと音で表現したいと思いました。運動会の徒競走の感じで、『おれがまるだ!』と、みんながちいさな争いをしている雰囲気を出そうと心がけました。

原画の展示コーナーは、『おならうた』((原詩・谷川俊太郎、絵・飯野和好)絵本館 2006年)『オサム』((文・谷川俊太郎、絵・あべ弘士)童話屋 2021年)などの6冊の絵本をアートディレクター/デザイナーのminnaの角田真祐子さんと長谷川哲士さんが担当しました。

長谷川 『おならうた』の絵本に、おならがばーんと爆発したみたいなページがあって、「このおならの中に入ってみたい」と素直に思って、このドームをつくってしまいました(笑)。

角田 『オサム』は、谷川さんが先に詩を書いて、あべ弘士さんが絵をつけたそうです。「いいひと」を絵に描いたら、ゴリラになったのがおもしろい。どっしり構えたゴリラのシルエットに「いいひとの存在感」を込めて展示にしました。

ビッグバンから、今にいたる「とき」の流れを描いた絵本『とき』((文・谷川俊太郎、絵・太田大八)福音館書店 1973年)。大きなスクリーンに映し出される映像作品は、映像作家の新井風愉さんがつくりました。

新井 この絵本がすごいのは、読んでいくうちに自分が今、という時間に含まれていることを体感するところ。原始時代や恐竜の時代があったけれど、今、現在はその状況はもうなくなっている。そうやって生じては消え、生じては消え、というような物理現象のなかでわれわれが生きていることを映像で表現しようとしました。

奥の展示会場へと続くスペースには、写真家の沢渡朔さんがこの展覧会のためにプリントした『なおみ』((作・谷川俊太郎、写真・沢渡朔)福音館書店 1982年)の写真が。講談師・神田京子さんの朗読が静かに響きます。

神田 最初は、童心に戻って明るい声で「なおみ」と言おうか声のトーンに悩みました。でも、絵本を読むほどに『この作品は孤独を描いているんだ』と感じて。子供から大人へ…。孤独を受け入れた先の前向きな決意を表したくてあの様な声になりました。

展覧会の後半には、「生」と「死」をテーマにした『かないくん』((作・谷川俊太郎、絵・松本大洋)ほぼ日 2014年)と『ぼく』((作・谷川俊太郎、絵・合田里美)岩崎書店 2022年)の原画展示が。アルミ材を束ねた壁面の外側と内側に対比するような展示は、建築家の張替那麻さんが手がけました。

張替 『かないくん』は、余白がすごく大きな原画だなと思ったのと、お話にも余白を感じたので、大きな壁面を用意して素直に原画を飾る手法をとりました。『ぼく』は、「ぼく」というひとつの視点だけで見ているようなお話だと思い、一枚の原画に焦点が当たるような構成にしています。

張替さんは、和田誠さんが絵を担当した絵本『あな』((作・谷川俊太郎、画・和田誠)福音館書店 1976年)をモチーフにしたベンチも手がけており、座って谷川さんと和田さんコンビの数々の絵本をたのしめます。

次のコーナーは、この展覧会のための新作、写真絵本『すきのあいうえお』の映像です。谷川さんがすきなものを「あ」から「ん」まで記し、それを写真家の田附勝さんが日本各地を旅しながら撮影しました。

田附 PLAY! で展示するので、見る人に何かたのしいと思わせることが大事なんじゃないかと、草刈さんと林さんと話し合いながら、写真を撮りました。どうしても譲れないことばもあって、「そら」「むかし」「れきし」の3つは、自分のなかで撮りたいと思うことで撮っています。

最後の展示室は、谷川さんの朗読と元永定正さんの絵、そして光に包まれる『もこ もこもこ』((作・谷川俊太郎、絵・元永定正)文研出版 1977年)のインスタレーション。手がけたのは、映像作家の岡本香音さんです。

岡本 谷川さんの朗読を聞いたら、谷川さんの声と、絵本の絵と文字だけでこの絵本の世界が成立すると思いました。何かを足せば足すほど、この絵本のもっている力やスケールがちいさくなってしまう気がして、声と絵と文字だけでシンプルにやってみようと試みました。

クリエイターたちが、谷川さんの絵本の世界を今に表現した展覧会。ぜひ、たのしんでください。

林 綾野(はやし・あやの)

キュレーター、アートライター。アートキッチン代表。展覧会の企画、美術書の執筆などを手掛ける。企画した展覧会に「おいしい浮世絵展」(2020年)「堀内誠一絵の世界展」(2021年より巡回)など、著書に『画家の食卓』(講談社)、『浮世絵に見る江戸の食卓』(美術出版社)などがある。

手塚 貴晴(てづか・たかはる)

建築家。手塚建築研究所代表。OECD(世界経済協力機構)とUNESCOにより世界で最も優れた学校に選ばれた 「ふじようちえん」を始めとして、子供の為の空間設計を多く手がける。 近年ではUNESCOより世界環境建築賞(Global Award for Sustainable Architecture)を受ける。手塚貴晴が行ったTEDトークの再生回数は2015年の世界7位を記録。 国内では日本建築学会賞、日本建築家協会賞、グッドデザイン金賞、子供環境学会賞などを受けている。現在は建築設計活動に軸足を置きながら、OECDより依頼を受け国内外各地にて子供環境に関する講演会を行なっている。その子供環境に関する理論はハーバード大学によりyellowbookとして出版されている。

新井 風愉(あらい・ふゆ)

映像作家。武蔵野美術大学映像学科卒。広告映像を中心に、展示映像などさまざまな映像を手がける。主な受賞に、文化庁メディア芸術祭新人賞、アヌシー国際アニメーション映画祭広告部門クリスタル賞など。

岡本 香音(おかもと・かのん)

映像作家。東京都生まれ。早稲田大学卒。基幹理工学部土田是枝研究室で映画制作を学ぶ。在学中からフリーランスのカメラマン・エンジニアとして活動。『美と、美と、美。 資生堂のスタイル展』(2019年、日本橋髙島屋)ではロボットを使ったインスタレーションで展示も手掛けた。2022年4月に電通入社。

柿木原 政広(かきのきはら・まさひろ)

アートディレクター。1970年広島県生まれ。ドラフトを経て、2007年に10(テン)を設立。 主な仕事に、singingAEON、富士中央幼稚園、R.O.U、藤高タオル、 静岡市美術館、信毎メディアガーデン、NEWoMan YOKOHAMA、角川武蔵野ミュージアムなど。また、美術館のポスターを多く手がける。カードゲーム「Rocca」をミラノサローネに2012年から出展。絵本「ぽんちんぱん」「おっととっと」「ひともじえほん」など。

神田 京子(かんだ・きょうこ)

講談師。1999年二代目神田山陽に入門。山陽他界後は神田陽子に師事。2014年日本講談協会・公益社団法人落語芸術協会にて真打昇進。寄席や講談会、独演会の出演の他、「講談+α」のコラボ公演も各地で開催。2021年度(第76回)文化庁芸術祭賞優秀賞(「金子みすゞ伝~明るいほうへ~」他)、2021年度岐阜県芸術文化奨励賞受賞。夫は詩人桑原滝弥。一児の母。2020年より山口へ移住。山口⇄東京の二拠点の視点を持ちながら新たな講談の可能性を模索している。

坂井 治(さかい・おさむ)

アニメーション・絵本作家。アニメーションに、国立科学博物館地球館「地球史ナビゲーター」映像演出、NHKおかあさんといっしょ「オナカの大きな王子さま」など。絵本に「13800000000ねん きみのたび」(光文社)、「もりのゆうびんきょくのおはなし ぽすくまです!」(共著、白泉社)、かがくのとも「みずだらけ」(福音館書店)など。

田附 勝(たつき・まさる)

写真家。富山県生まれ。1998年から2006年にかけてデコトラとそのドライバーを撮影し『DECOTORA』(2007、リトルモア)を発表。2006年頃から東北に通い、土地や人と交流しながら『東北』を発表(2011、リトルモア)。本作で2012年、第37回木村伊兵衛写真賞受賞。その後も東北に通い続け、釜石での震災後初の鹿猟を捉えた『その血はまだ赤いのか』(2011、SLANT)、鹿猟師たちの最後の猟の日々とその名残を追った『おわり。』(2014, SUPER BOOKS)、八戸の漁師や浜の暮らしに迫った『魚人』(2015、T&M Projects)等を発表。2012年から撮りためた《KAKERA》をもとに『KAKERA』(2020、T&M Projects)を発表。見えるもの見えないものの「あいだ」を問うように現在まで撮影を続けている。

張替 那麻(はりかえ・なお)

建築家。デザイン会社DRAFT、藤本壮介建築設計事務所を経て、2016年クリエイティブスタジオHarikaeを設立。建築やインテリア、展覧会のデザイン、ブランドの企画から空間にわたるディレクション、自社によるファッションブランドHarikaeのプロデュースなど多岐に活動を展開。主な仕事に、K保育園、クリスチャンダダ南青山店、JINSあべのウォーク店、資生堂のスタイル展、和田誠展、junaida展「IMAGINARIUM」等。JID日本インテリアデザインアワード、空間デザインアワード等受賞。

長谷川 哲士(はせがわ・さとし)、角田 真祐子(つのだ・まゆこ)

アートディレクター、デザイナー。2009年、角田真祐子と長谷川哲士によってminna設立。デザインをみんなの力にすることを目指し、ハッピーなデザインでみんなをつなぐデザインチーム。「想いを共有し、最適な手段で魅力的に可視化し、伝達する」一連の流れをデザインと考え、グラフィックやプロダクトなどの領域や分野に捉われず活動をしている。グッドデザイン賞、日本パッケージデザイン大賞金賞、SDA賞優秀賞、キッズデザイン賞、TOPAWARDS ASIAなど受賞。武蔵野美術大学非常勤講師。

草刈 大介(くさかり・だいすけ)

朝日新聞社勤務を経て、2015年に展覧会を企画し、書籍を出版する株式会社「ブルーシープ」を設立して代表に。PLAY! MUSEUMのプロデューサーとして展覧会、書籍のプロデュース、美術館や施設の企画・運営などをてがける。

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2023年6月17日(土)・18日(日)、7月1日(土)・2日(日)10:00-18:00/「谷川俊太郎 絵本★百貨展」関連企画