PLAY! インタビュー 加藤久仁生さん がまくんとかえるくんが動くまで

特別なアニメーション「一日一年」について

建築家、グラフィックデザイナー、アーティスト。PLAY! には、たくさんのクリエイターたちが関わっています。そんなクリエイターの皆さんに、PLAY! の舞台裏の話を聞くインタビューシリーズです。

PLAY! MUSEUMで始まったアーノルド・ローベル展。会場では、アニメーション作家の加藤久仁生さんによる新作「一日一年」が特別上映されています。絵本から飛び出したがまくんとかえるくんが自然のなかでのびのびと暮らす、楽しくて温かいアニメーション。制作の秘密について、加藤さんにたっぷり聞きました。

撮影: 高橋マナミ

「ふたりを動かしてみたい」 

ローベル作品との出会いはいつですか。

加藤 小学生の時、国語の教科書に載っていた「おてがみ」です。大人になってから、がまくんとかえるくんシリーズすべてを読みましたが、「ふくろうくん」などほかの作品は今回の話があって初めて読みました。どの作品もちょっと間の抜けたキャラクターがいて、ゆったりとした時間が流れていますよね。僕もそういうトーンで作ることが多いので、共通しているかなと思いました。

作品によって絵柄が変わるところも、加藤さんと共通しているかもしれませんね。

加藤 そうですね、僕も割と意図的に変えるので。その時の自分のなかで描きたい絵を描くという感じなんです。

展覧会側からアニメーション制作の依頼があった時、どう思いましたか。

加藤 ローベルさんの原画のタッチと、僕の絵のタッチが合うのではないか、ということで声をかけてもらったんです。ふだんはオリジナルのキャラクターから作ることが多いので、すでにある絵本を動かすこと自体に興味をもちました。 「おてがみ」に出てくるかたつむりくんにスポットを当てる企画もあったのですが、せっかくならがまくんとかえるくんのふたりを動かしたいと思いました。

まず始めたことはなんですか。

加藤 がまくんとかえるくんのシリーズ4冊をすべて読み直して、それからスケッチを描きました。ローベルさんのタッチで描くのは、シンプルなようですごく難しかったです。4冊が作られた年代によって、がまくんとかえるくんのタッチも変わるし。読者がイメージできそうなちょうどいいところを探しながら、自然に描けるようになるまでたくさんスケッチしました。模写というよりは、アニメーションで動かすために今一度形を作ったという感覚です。  

「がまくんとかえるくん」のたくさんのスケッチ

できあがったアニメーション「一日一年」では、がまくんとかえるくんシリーズのハイライトの場面が流れるようにつながっていきます。構成については。

加藤 ひとつひとつのエピソードがおもしろくて季節感もあるので、場面を選りすぐって1年の話にまとめたらいいかなと思いました。シリーズのなかで僕が描きたい場面や印象的な絵を中心に選びました。

クラシカルなサイレント映画のイメージ

どのように動きをつけていったのでしょう。 

加藤 長回しでふたりの動きがつながっていくので、最初から順番に描いていきました。その前に、がまくんとかえるくんが歩くだけのテストを描いてみたらけっこう難しくて。似たもの同士だけれど、性格も身体の特徴も違う。かえるくんは積極的で、がまくんは少しついていく感じかな。実際に描きながらふたりの感じをつかんでいきました。

加藤さんの頭のなかでふたりが動くのですか。それとも紙の上で動いているイメージですか。 

加藤 頭のなかにあるイメージをそのまま写しとるというよりは、手を動かすうちに浮かびあがってくるほうが近いかもしれないですね。

Courtesy of the Estate of Arnold Lobel. Frog and Toad Copyright © by Arnold Lobel. ©️Kunio Kato

手紙を届けにきたかたつむりくんが子犬みたいな動きをするのは驚きました。

加藤 原作ではかたつむりくんも喋るし、あの世界のなかではかえるも虫も同じ立場で交流しているはずなんです。でもなんとなく、かえるとかたつむりはちょっと差があったほうがおもしろいんじゃないかなと思って、ああいう、ちょっと犬っぽい感じになりました。 

アニメーションにセリフはなく、サイレント映画を思わせます。

加藤 ローベルさんの娘さんが雑誌のインタビューで、「お父さんは映画が好きで、昔のディズニー映画、バスター・キートンやフレッド・アステアなどを一緒によく観にいきました」と語っていたのを読んで、全体のトーンをクラシカルなサイレント映画の雰囲気にしたいと思いました。がまくんとかえるくんが雨のなかで遊ぶシーンは、映画「雨に唄えば」の個人的なオマージュです。 

軽やかなジャズも映像に合っていますね。

加藤 サイレントでもよかったのですが、スタッフやプロデューサーから「音があった方がいい」と意見をもらって。音を探すなかで「Tea for Two(ふたりでお茶を)」を見つけたんです。がまくんとかえるくんがお茶を飲むシーンもあるし、ふたりの関係性にぴったりだなと思って。音楽家の烏田晴奈さんに相談して、軽やかなトーンに仕上げてもらいました。

Courtesy of the Estate of Arnold Lobel. Frog and Toad Copyright © by Arnold Lobel. ©️Kunio Kato

「この世界いいな」と思いながら描いた

大変だったことはありますか。

加藤 雨のシーンがうまく描けなくて、立ち止まったり戻ったりしましたね。ふたりがはしゃぎはじめて、止まらなくなっちゃって(笑)。途中でカットしようかと思ったけれど、なんとか試行錯誤して次のシーンへつなげることができました。

手で描いた原画をどのように映像化するのですか。

加藤 原画は、だいたい鉛筆とシャープペンシルで線を描きます。僕の場合は1秒の映像に10枚の絵を描くので、今回は2000枚くらいかな。それをパソコンに取り込んで色つけ作業をします。4人のスタッフで制作しました。

Courtesy of the Estate of Arnold Lobel. Frog and Toad Copyright © by Arnold Lobel. ©️Kunio Kato

映像を2バージョン作ったそうですね。

加藤 アニメーションの構成は変わらないのですが、デジタル上で色が濃いものと淡いものを2種類作りました。関係者のチェック用には濃いバージョンを出したのですが、会場で流してみたら淡いほうが雰囲気に合うと思ったので差し替えました。薄いグリーンの布がレイヤーになっている優しい感じの空間だったので、淡いほうが良かったんです。

今回の制作を通じて感じたことはありますか。

加藤 がまくんもかえるくんも、お互いに失敗も多いけどいつも一緒にいる、そこがすごくいいんですよ。ゆったりとした感じや地味な絵柄も含めて、ずっと「この世界いいな」と思いながら描いていました。

小さな生き物に目を向ける機会

制作期間中はコロナ禍でもありました。

加藤 ふだんから自宅で作業しているのであまり大きな変化はなかったのですが、ローベルさんも家で過ごす時間が長かったと聞いて親近感を覚えました。コロナ禍では家族もずっと家にいるし、庭を眺めたり、周りの景色を見たりという時間が増えたような気がします。
子どもの頃はよく地面を眺めて、アリンコの行列なんて大好きだったんですよ。今だって足元には小さな生き物たちが生きているわけで。改めてそういうものに目を向けるようになった時期に、この仕事にとりかかれたのはとてもよかったです。

展覧会の感想を教えてください。

加藤 今回初めてPLAY! MUSEUMを訪れて、展示空間を含めてすごくいい美術館だなと思いました。ローベル展の展示も、がまくんとかえるくんの世界に自然に入っていけるようなデザインがいいですね。原画、朗読、アニメーションがひとつの空間にあっても邪魔することなく、自由に行き来できてとても見やすい展覧会になっていると思います。

最後に。加藤さんはがまくんとかえるくんどっち派ですか。

加藤 割と出不精で、家のなかで生活することが多いので、僕はがまくんに近いのかな。かえるくんが近くにいて外に連れ出してくれたらいいなと(笑)

ありがとうございました。

加藤 久仁⽣(かとう くにお)| アニメーション作家

多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。2009年に短編アニメーション「つみきのいえ」で第81回アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞。ほか絵本、イラストレーションなどを制作している。主な作品に「或る旅人の日記」「つみきのいえ」「情景」など。

TOPICS

企画展 「がまくんとかえるくん」誕生50周年記念 アーノルド・ローベル展
2021年1月13日、1月27日、2月10日、2月24日、3月3日、3月10日、3月17日、3月24日 各14:00-
企画展 「がまくんとかえるくん」誕生50周年記念 アーノルド・ローベル展
企画展 「がまくんとかえるくん」誕生50周年記念 アーノルド・ローベル展