PLAY! インタビュー 「柚木沙弥郎 life・LIFE」広報物・会場グラフィックを担当 吉田昌平さん
染色家でアーティストの柚木沙弥郎さんの展覧会「柚木沙弥郎 life・LIFE」(2022年1月30日(日)まで開催)のポスターやチラシなどをデザインしたのは「白い立体」の吉田昌平さんです。
1985年生まれの吉田さんは若手のアートディレクターでありグラフィックデザイナー。まもなく100歳を迎える柚木さんとは60歳以上の年齢差があります。吉田さんが語る柚木さん作品の魅力を、らびが聞きました。
取材・執筆:らび
撮影:平野太呂
―― このチラシ、読んでいて楽しい。読みごたえあります。
吉田 柚木さんがこの展覧会用に描いてくれたイラストを、展覧会をPRするテキストにからませてみました。
―― 青いうさぎのイラストがあるし、バケットみたいなパンも描かれている。なんだか絵本みたいですね。
静かなポスター、華やいだチラシ
吉田 展覧会のポスターと対にしてチラシを見てくれるとうれしいです。
―― どれどれ、えーと。
吉田 ポスターは柚木さんのイラスト2点を大きくあしらい、余白をとっています。
―― 本当だ!
吉田 ポスターでは余白をいかし、チラシではたっぷりと文字でうめてみました。文字をベースにしたデザインになっています。
―― 静けさを感じるポスター。それに対して華やぎ感じるチラシですね。
吉田 そうです。チラシでは文字とイラストがリンクするように置いてみました。文字を多くして情報量を増やしています。
―― それはどうしてですか?
吉田 PLAY! MUSEUMで開かれるということを意識したからです。
ここには親子連れや若い人たちといった、これまで柚木さんの展覧会にはあまり足を運ばなかった人たちが見に来きます。柚木さんのことをよく知らない人もいると思います。
テキストを読んで、まずは柚木さんを知ってほしいと考えました。文字と絵柄でわくわくするような感じが表現できたらいいなと。
―― そうか。それで、見ているだけで心弾む感じがするのですね。あたたかな雰囲気が伝わってきます。わかりやすくてリズムがあって、いい文章だと思います。
写植文字みたいな手づくり感
吉田 文字といえば、今はパソコンでつくれてしまいます。それはそれで、きれいで完璧に仕上がるのですが、パソコンができる前の写植の時代の文字にも味わいを感じます。
―― らびの学生時代にはタイプライターというものがあって、英文のレポートを打ち込んだ記憶がよみがえってきました。
文字ごとに微妙な濃淡が出たり、横一列に並ぶのだけれどもどこかでこぼこしていたり。
確かにいまのパソコンの文字とは違う手触りを感じます。写植にもそんな味わいがあるのでしょうね。
吉田 写植の文字が持っている、いい意味で完璧には仕上がっていない質感。「機械ではなくて、これは人間がつくったのだぞ」という。あの質感が柚木さんの作品全体から感じるのです。
吉田 そうなのです。今の時代だから、人がつくったような柚木さんの作品の質感が若い世代にも魅力なのだと思います。
―― デジタルだとかバーチャルだとかが礼賛される今の時代だからこその新鮮さなのでしょうね。
吉田 そこが不思議な魅力なのです。柚木さんはもうすぐ100歳ですよね。でも、昔にデザインされた柄や色づかいを見てもぜんぜん古くさい感じがしません。それにポップで、どこかかわいいところもあります。
―― 民藝の大御所なのにね。
吉田 そうです。若い世代からすれば、民藝というのはすごくかしこまった世界です。「ちゃんと勉強して知識を仕入れておかないと理解できないのではないか」と思い込んでいました。
でも、柚木さんの作品を見ていると、そんな知識なんてどうでもいいですよね。展覧会に来たいと思っている人たちに「柚木さんは、もう何十年もこんなモダンなことをしてきたよ」ということが知ってもらえて、伝えられるきっかけになるチラシにできたらなと思いました。
かわいらしくて凛としたポスター
―― ポスターのことも聞かせてください。さっき、余白をいかしたデザインと話していましたね。
吉田 かわいらしい中にも凛とした世界は残したいので余白を活かしています。色づかいはポップにしてみた一方で、文字組みはきれいに、大人の雰囲気が感じられるようにしました。
年配の人には「かっこいい」と思ってもらいたいですし、若い人には「かわいい」と言ってもらえるようなポスターに見えたらいいなと思いながらデザインしました。
―― 二兎を追っているのですね。
吉田 ポップで明るく、かわいいというのを目指しましたが、あくまでも柚木さんのイメージを壊さない点には気をつけました。
―― 展覧会のオリジナルグッズのデザインもいくつか手がけましたね?
吉田 そうです。グッズにはこれまであまりかかわる機会がなかったので、今回は自分が欲しくなるようにデザインしてみました。
暮らしの一部になるように
―― 展覧会の報道関係者向け開幕セレモニーで、PLAY! プロデューサーの草刈大介さんが「グッズのなかでも特に傘にご注目を」と推していましたね。
吉田 普段は傘の柄を意識して過ごしていなかったので今回とても勉強になりました。柚木さんらしさもあり、素敵な傘になったと思います。
―― 傘作家イイダヨシヒサさんが主宰する個人オーダーの傘屋「イイダ傘店」とのコラボレーションですね。生地(傘地)デザインは「ハナ」「人生」「スプーン」の3種類があり、どれも柚木さんの描いた模様をベースにしています。
吉田 そうです。「スプーン」では、柚木さんの描いたスプーンの模様をあえて大きくして傘地にあしらってみました。
そうすると遠目には抽象的な模様になるのですが、近づいてよく見るとスプーンだなとわかる。そんな楽しいデザインになりました。
―― 色づかいにもそれぞれ味わいを感じます。
傘はミュージアムショップでの受注販売だそうですね。傘地のデザインを選び、持ち手の部分も5つのデザインのなかから選びます。税込み3万3千円とやや値は張りますし、手元に届くのにしばらく時間はかかるものの、セミオーダーメイドならではの待つ楽しみがあります。
吉田 デザインをしているうちに暮らしのなかの一部になるような傘になったらいいなと思えてきました。
―― そうですね。長く愛おしみながら使いたくなる傘ですよ。
吉田 柚木さんもそう願いながら、いろいろなものづくりを続けてきているのでしょうね。きっと。
吉田昌平(よしだ・しょうへい)さん
アートディレクター、グラフィックデザイナー。デザイン事務所勤務を経て2016年「白い立体」として独立。ポスター、チラシ、本、雑誌など紙媒体デザインのほか、Webデザイン、展覧会ビジュアルのアートディレクションなどを手がける。紙や本を主な素材としたコラージュ作品も数多く制作発表。作品集に『Trans-Siberian Railway』(白い立体、2021年)など。
らび
自ら「らび」と名乗る初老のおじさん。うさぎが好きで「ぼくは、うさぎの仲間」と勘違いしている。著書に『ディック・ブルーナ ミッフィーと歩いた60年』 (文春文庫) 、『ちいさなぬくもり 66のおはなし』(ブルーシープ)など。