【絵本★百貨展ミニインタビュー】柿木原政広さん(アートディレクター)
会場入口すぐの『ことばあそびうた』(絵・瀬川康男 福音館書店 1973)の展示と、続く、写真絵本『こっぷ』(写真・今村昌昭 福音館書店 1972)の展示を手がけたアートディレクターの柿木原政広さんに話を聞きました。
取材・執筆:天田泉
会場撮影:高橋マナミ
ポートレート撮影:高見知香
―『ことばあそびうた』の展示について、おしえてください。
柿木原 まず、『ことばあそびうた』でやることは、決まっていたんです。絵本の原画展ではない「谷川俊太郎 絵本★百貨展」の世界を、入口のこの場所で表現してほしいというお話からのスタートでした。
―「けん けん ぱ」のリズムで、「かっぱ」の詩を体感するのですね。
柿木原 子どもが無邪気にあそぶようすを想像して、何の説明がなくてもやりたくなるものとして、「けん けん ぱ」はいいなと思いました。『ことばあそび』を全部読み返したときに、いちばんリズムを感じたのが「かっぱ」の詩で、それを「けん けん ぱ」で表現したんです。
―床に書かれた文字もかわいい。
柿木原 今回の展示のためにつくったタイポグラフィです。最初は、絵本の瀬川康男さんの文字でそのままやろうとしたのですが、あそぶ気分というよりもクラシカルな印象が強くなってしまった。次に瀬川さんの文字をもとにタイポグラフィをつくろうとしましたが、結局、いつもの自分の感じでつくったタイポグラフィがいちばんあそぶ気分に合っていたんです。
―民族楽器を手にもって「けん けん ぱ」をするのが、とてもたのしい。
柿木原 「かっぱ かっぱ らった かっぱ らっぱ かっぱ らった」と、子どもたちが声に出しながら「けん けん ぱ」をやってくれるといいなと思ったのですが、少しハードルが高い気もしました。それで、民族楽器の鈴の音でたのしさが出せたら、と考えました。ペルーの「チャクチャス チャフチャス」という民族楽器で、かわいい音がするんですよ。
―『ことばあそびうた』を作品にするなかで、何か発見はありましたか?
柿木原 今回『ことばあそびうた』を読み返したときに、谷川さんが相当意識してつくっているのだと感じました。ことばを口に出したときの気持ちよさを追求するために、ことばのリズムや語感を因数分解して、出てきた詩なんだと思います。すごくむずかしいことだと思うけれど、谷川さんは天才だから簡単にできてしまうのかもしれませんね。
それから、今回のほかの展示で谷川さんの朗読を聞くと、相当なニュアンスを込めてことばを選んでいるんだって、すごく思いました。
―もうひとつの絵本、『こっぷ』の印象は?
柿木原 『こっぷ』はアートディクレクターの日下弘さんの立ち位置がすごくいいなと思っていて、ずっと見ていた絵本なんです。担当できて、うれしかったですね。
柿木原 日常にあるこっぷというものが、ちょっとした視点の変化で別のものに変わるというのが、谷川さんがこの絵本のなかで言いたかったことなのかな、と思いました。同時に、無理してこっぷの捉え方のバリエーションを出そうとしているわけでもないと感じました。
―大きなこっぷを3つ、展示しているのですね。
柿木原 ひとつ目のこっぷは、シンプルに棚の上に飾りました。ふたつ目は逆さまにして、「こっぷは あなたを つかまえる」とことばをそえました。
―2つ目のこっぷは、中に入れるんですね。
柿木原 絵本のなかでは、こっぷが煙や虫をつかまえたりするんですよ。展示は絵本の延長線上にしたいと思っていて、それを無理せず自然な形でできる方法を考えたときに、いちばん視点が変わるのはコップにつかまえられて、その中から外を見ることだと思ったんです。
大きなコップの中に入ることで、自分がちいさくなった気分を感じられるのも、おもしろい体験だと思います。
―3つ目のこっぷは、ボックスの中にある?
柿木原 そうなんです。ボックスには「こっぷは みらいへ つれていく」と文字をおきました。解釈がいろいろできる展示だと思います。ぜひ、会場で体感してもらえたらうれしいですね。
柿木原 政広(かきのきはら・まさひろ)
アートディレクター。1970年広島県生まれ。ドラフトを経て、2007年に10(テン)を設立。 主な仕事に、singingAEON、富士中央幼稚園、R.O.U、藤高タオル、 静岡市美術館、信毎メディアガーデン、NEWoMan YOKOHAMA、角川武蔵野ミュージアムなど。また、美術館のポスターを多く手がける。カードゲーム「Rocca」をミラノサローネに2012年から出展。絵本『ぽんちんぱん』『おっととっと』『ひともじえほん』など。