PLAY! インタビュー 「コジコジ万博」展示空間デザイン・広報物アートディレクション担当 福田哲丸さん

「馬鹿メルヘンの国にみんなで行きたい」

PLAY! MUSEUMで開催中の「コジコジ万博」には10の展示エリアがあり、わくわくしたり、ドキドキしたり、癒やされたり……色々な角度から「コジコジ」の世界を堪能できます。今回は、展示空間デザインを手がけたCEKAIの福田哲丸さんに、制作秘話を聞きました。

取材・執筆:揚石圭子
ポートレート:清水奈緒
会場写真:Yutaro Tagawa

展示空間はみんなで盛り上がりながらつくりあげた

―今回の展示では漫画やアニメでは体験できない、斬新な「コジコジ」の世界が体験できました。どんなチームで制作したのですか?

福田 展示空間デザイン、広報物アートディレクションはぼくが担当し、映像やデザインの制作は、CEKAIに所属するクリエイターが担当しました。各展示室で流れている音楽制作には、いつも音楽の仕事をご一緒している鈴木歩積さんにエンジニアとして参加していただきました。dwarfさんの制作したコマ撮りアニメ「コジコジと次郎の不毛な会話」の音楽は、自分で制作し、コーラスもぼくの声です。

福田哲丸さん(CEKAI)

福田 造作物の制作は、制作会社アートビークルーさんにお願いしました。テレビ番組の美術制作でいつもお世話になっていて、一緒にものづくりをしてくれる頼れる仲間という感じです。

「哲丸さん、今回はどんなことを考えているんですか?」とこちらの意図をよく汲み取り、「こうしたくて、材質はこんな感じを考えているんですが」と相談すると、「こんな素材を使うといいんじゃない?」とアイデアがぽんぽんと出てきて、すごいスピードでイメージが具現化していくんです。

―さくらプロダクションさんとの関わりはいかがでしたか?

福田 キャラクター使用の承諾をいただくなど、お世話になりました。さくらプロダクションの方々には、何を大切にするべきかがちゃんと見えていて、あたたかさのようなものもあり。「みんなが楽しいのが一番だよね」という気持ちが、キャラクターを使用したものづくりに対する許諾の寛大さにつながっているのではないかと感じました。

今回は、まずさくらプロダクションの方々によろこんでいただきたいという思いがベースにあったからこそ、いいものづくりができたのだと思っています。

―展示のイメージは、どんなところからふくらんでいったのですか?

福田 「コジコジ」は色々な見方ができる作品だと思うので、あえてあまり作品の解説はせず、“メルヘンの国に遊びに行こう!”というイメージをつくろうと思いました。

造形物も、「コジコジ」から連想されるのは、ハイクオリティーなツルンとしたものではなく、お菓子の箱やダンボールを組み合わせたような質感です。制作のアートビークルーさんに「ラフな感じに仕上げてください」とお願いし、紙粘土の雲に手あとを残したり、わざと破く部分をつくったり、本来なら隠さなければならないものを隠さなかったりして、張りぼて感を強調しています。

―制作中も、楽しそうですね。

福田 楽しかったですね。「すごくお金をかけた、大規模な文化祭みたいだね」と言いながら、スタッフみんなで「わーっ!」と盛り上がりながら制作しました。

展示中盤の「モヤモヤトンネル」はいかに「モヤモヤ」を表現するかアイデアを出し合い、最初に考えていたイメージより100倍モヤモヤした空間をつくることができました。

アートビークルーさんは色々な素材を熟知していて、「モヤモヤ」という単語を聞いただけで、「メッシュ素材を使ってこうすると、もっとモヤモヤするんじゃない?」とか、「こうして素材を重ねて層をつくると、浮いているようにできるかもしれない」などと、どんどんアイデアを出してくれます。ぼくが「わーすげー! そういうことなら、こうしたらもっとこうなりますか?」と聞くと、「それはおもしろいかもしれませんね! やってみましょう」とどんどん盛り上がっていくんです。そんなふうに、予想していなかったいい方向に転がって形になっていった部分が、たくさんあります。


無駄をたのしんでほしい!

―どの展示室も、見るたびに発見がありますね。とくに「ギャグ50連発」では、目にも耳にも楽しい仕掛けがたくさんありました。

「ギャグ50連発」 

福田 展示室の情報量が多くて、振り回される感じもあるかもしれません。

漫画の展示を考えるときは情報整理をする方向に行きがちなのですが、でも今回、漫画って整理されていいものだっけ、と思ったんです。漫画も、伝えたいことはひとつではないはずです。展示するために無駄を省き、こちら側が伝えたいことだけを発信することは、結構あぶないことではないかな、と。

ものづくりをするとき、広告のように無駄を省いて伝えたいことだけ伝えることは、とくに子どもに対してはやってはいけないことだと思っています。ものをつくる人は、「赤より青のほうがいいんだよ」ではなく、「赤も青もあるんだよ」と言わないといけないのではないかな、と思うんです。

最近は、音楽や映像などのエンターテインメントでも、無駄なものを排除して整理していこうという風潮があります。でも、「コジコジ」の一番の核になっているのは、「無駄」じゃないですか。ぼくも無駄なものが大好きなので、無駄を愛する気持ちは、よくわかります。ある人にとっては役に立たないゴミのようなものも、「これ、かわいい」と思った時点で、ぼくにとってはゴミではない。「なんかいいな」と思った時点で、それはぼくの役に立っているんです。

だから今回の展示では、できるだけ無駄なものをそぎ落とさず、「コジコジ」の世界を、見る人が自由に感じられるようにと心がけました。「ギャグ50連発」の展示室でも、あえて無駄な動きをしてもらえるよう、振り返らないと見えない場所にも見どころをつくるなどの仕掛けをしています。

―つくる側が見る側に何かを押し付けようとせず、見る側の自由を残すということですね。

福田 たとえば、社会の中では「しあわせとは、こういうものだ」と、押し付けている部分がありますよね。もしかしたらお金に頓着しないで、ぶらぶらしているだけでしあわせな人もいるかもしれないのに、なんとなくみんなして「しあわせとは、こういうものだよ」と働きかけるのは違うんじゃないかなと。何に関しても言えることかもしれませんが、一見無駄にも思える別の可能性や選択肢を、もっと残すべきなのではないかと思っています。

「コジコジ」の漫画に出てくる教室のシーンでも、コジコジと次郎くんが話をしているとき、コマのすみのほうで、ストーリーに関係のないキャラクターがおしゃべりをしていることがよくあります。それは実写映画と同じで、そこにいるから映っちゃっているということだと思うんです。いないほうがわかりやすいのに、でもいるんです。ぼくは、そうした無駄なものも愛したい。今回の展示でも、「これ、いらないんじゃないですか?」と言われても、「いや、ここには、いらないものが、いるんですよ」と(笑)。

「コジコジと仲間たち」

現在進行形の「コジコジ」をグッズでも楽しんで!

―今回、アートディレクションを担当されて、改めて「コジコジ」にどんな印象をもちましたか?

福田 子どもの頃アニメで見たときも、かみさまのような不思議なイメージがありましたが、今回改めて「コジコジ」と出会い、やっぱりかみさまのようなすごさがあるなと思いました。これだけ好き勝手な展示をつくらせてもらっても、ちゃんと「コジコジ」っぽくまとめることができたのは、ぼくらの力ではなく、宇宙のいっさいのものごとを含むような、「コジコジ」の力なのだと思います。

「コジコジ」の漫画は3巻(新装再編版 集英社)しかないのに、なんでこんなにすごい世界観が表現できたのだろうと思います。漫画の最終回も、「え? これで終わり? まだ続くんじゃない?」という不思議な感じで。実はメルヘンの国は本当にあり、さくら先生がカメラを突っ込んで撮影できたのが3巻分だけで、隣の次元ではその世界がずっと続いているのではないか……そんなふうにすら思えるんですよね。

―グッズの製作も手がけられたとのこと。これまでにない蛍光色の「コジコジ」ですね。

福田 2022年現在も、「コジコジ」は現在進行形という感じを出したくて、デザイナーの金田遼平くんに相談しながら「太い線とビビットな配色で、キャラクターをドン! と大きく使おう」という従来のコジコジの世界観の中には今までになかった方向性になりました。

グッズもそうですが展示も、“2022年の「コジコジ」を表現する”というコンセプトが根底にあります。さくら先生がもういらっしゃらないのはもちろん寂しいことなのですが、さくら先生の残した世界を更新していこう、と。アニメーションの声優の方々にも、今回の展示のためにセリフを新しく録音していただき、「コジコジは、いまもいるぜ!」という感じを前面に出しています。

―まさに、現在進行形の「コジコジ」と出会えた感じです。

福田 ミッキーマウスだって時代を超えて、ずっと存在し続けています。「コジコジ」もずっと存在し続けてほしい。ディズニーランドに対抗して、コジコジランドをつくらないといけないかも(笑)。

このPLAY! MUSEUMでは、普通の美術館のように静かに見る必要はありません。「かわいい!」などとおしゃべりしたり、ディスコのところで踊ったり、さくら先生の造像した馬鹿メルヘンの世界で好きなようにあそんでほしいですね!

福田 哲丸(ふくだ・てつまる)さん

1988年生まれ 東京都出身。多摩美術大学卒業後、クリエイティブチームCEKAIに所属。テレビ番組のアートディレクションやセットデザインの他、展示やイベントのクリエイティブディレクション、空間演出まで幅広く手掛ける。映像制作、音楽、イラストレーションなど、その才能は万能とも言える。怪獣とおもちゃが大好き。

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