PLAY! インタビュー 「柚木沙弥郎 life・LIFE」展示デザイン・手塚貴晴さん

森の木もれ日のような光の中で、風にそよぐような染色の数々をゆったりと味わってほしい。

柚木沙弥郎さんの染色作品や絵本原画などを紹介する企画展示「柚木沙弥郎 life・LIFE」(会期は2022年1月30日(日)まで)が開かれているPLAY! MUSEUM(東京都立川市)を設計したのは建築家の手塚貴晴さん。

手塚さんはこの展覧会の展示デザインにもかかわり「展示会場に森をつくろう」と提案しました。PLAY! MUSEUMに併設されている子どもの屋内広場PLAY! PARKの館長でもある手塚さんに、らびがインタビューしました。

取材・執筆:らび
撮影:平野太呂

手塚貴晴さん

―― 柚木さんの絵本原画を展示する「絵のみち」を通って、柚木さんの染色作品が並ぶ展示会場の「布の森」へ。展覧会の会場構成を聞いただけでも、楽しいピクニック気分になりますね。

手塚 「森」というのは実は、私たちの建築を語る上でのキーワードです。そこには共生への思いが込められています。
それから、柚木さんは長い時間をかけていろいろなジャンルの作品をつくっているでしょう。
柚木さんも自分の長い人生を通して森のような多様な表現をつくり出してきたのではないかなと思います。

共に生きる「森」を表現

―― 共生には「共に生きる」という意味が込められていますね?

手塚 そうです。この世界には人間だけが暮らしているのではないですからね。

―― 確かに「森」という言葉からは、いろいろな生きものがそこにすみついている様子が思い浮かびます。

手塚 そもそもPLAY! MUSEUMを設計するにあたって、ここでは絵本に関する展覧会が多くなると聞きました。絵本と森に対する印象はどちらも似たところがありますよ。

―― といいますと?

手塚 子どものころに絵本を大人に読んでもらっていて、だんだんと目が閉じてきて、いつの間にか寝入ってしまったことがあるでしょう。
PLAY! MUSEUMは、入り口からぐるりと渦巻きを描くような導線になっています。あの眠りに入るときの渦巻きに巻き込まれていくような感覚をイメージした設計なのです。

「柚木沙弥郎 life・LIFE」会場風景

―― なるほど。

手塚 森もそうでしょう。道を歩いていたらだんだんと草が深くなり、木が増えてきて、気がついたらいつの間にか森の中に入っていますよね。

―― そうですね。

手塚 それから、森の中に入ると光の具合が変わってくるでしょう。

―― うっそうとしているという感じですか?

手塚 木立や木々の葉っぱを通り抜けてくる木もれ日ですね。キラキラした光が地面に落ちてきて散りばめられたようになりますよね。
そうした森の中で感じる光の雰囲気を展示会場で表現したいと考えました。

―― どんな表現ですか?

照明で布の触感を伝える

手塚 柚木さんのテキスタイル作品に光を透けさせて展示できないだろうか。そう考えてみました。

―― 光を透けさせる?

手塚 そうです。そのために、布の裏側からも光を通してみたらどうだろうかと試しました。
裏側から光が透けていくことで、布をタテ、ヨコに織り込んでいる糸の表情も感じられるようになるからです。

布の森 会場風景

―― そういえば、柚木さんは「僕は、布に模様をつけてやる、ということが自分の仕事だと思っています」(『柚木沙弥郎の染色 もようと色彩 日本民藝館所蔵作品集(2018年、筑摩書房)』から)と話しています。
染色家ですが、染める色だけではなく布そのものが持つ柔らかさや温かさも大切にしていました。

手塚 そうですね。本当は触って布の感触を味わえればいいのだけれども、展示されているテキスタイルには触っちゃダメですよね。
それならば、見ているうちに布の触感が伝わってくるようにしようと、光を利用したのです。ちょうど、森の木立の葉っぱから木もれ日が抜けてくるように、光が布を抜けてくるように工夫しました。

布の森 会場風景

―― まさに照明の妙ですね。

手塚 ここの照明は、森の中に光を届ける太陽の役割をはたしていますからね。
照明デザイナーの角舘まさひでさんに尽力してもらい、色調の異なる数種類の照明をさまざまな角度から当ててもらいました。木もれ日が空から落ちてきているかのような光の演出になっています。

―― 「布の森」の展示会場の足元を見ると、ところどころ白い石が敷かれています。

手塚 より自然に近い空間にしようと考えました。白い石を敷いて日本庭園のようなイメージにしたのです。

「布の森」の会場の足元に敷かれている白い砂利

―― なるほど、日本庭園ですか。

手塚 ただし、白にしたのはPLAY! MUSEUMプロデューサーの草刈大介さんですよ。僕の最初のアイデアでは必ずしも白ではありませんでしたけれどもね。
会場には公園にあるようなベンチのような椅子もあるでしょう。

―― ありますね。

手塚 森の木もれ日のような光の中で、風にそよぐような染色の数々をゆったりと座って味わってもらえたらいいな。そう考えたのです。
ここは壁が真っ白な無機質な展示空間ではありませんから、どこか優しい森のような雰囲気をうまく表現できていると思います。

子どもも、大人も、生きものも

―― いま僕たちは建物の2階にいます。もうひとつ上の3階には手塚さんが館長を務めるPLAY! PARKがあり、展覧会と連動した子どもたちの遊び場になっています。

手塚 子どもの遊び場というと、子どもが親から離されて、お勉強のような遊びをさせられているイメージじゃないですか。それはなんだか嫌だなと僕は感じています。
そこでPLAY! PARKでは、大きなお椀みたいな屋内の遊び場をつくり、そのなかで子どもたちが遊んでいるのをそばで大人たちが見ていられるという工夫をしてみました。

―― 子どもも大人も、ということですか。

手塚 そうです。絵本は子どもだけで読むものではなく、大人も楽しめる。絵本を通して子どもも大人もつながることができるじゃないですか。
この世の中は人間の大人だけのものではない。子どももいるし、最初に話したようにいろいろな生きものだっています。

『たかい たかい』原画 2006年 福音館書店 作家蔵

―― 共生ですね。

手塚 そのことを僕はずっと考えていて、次のPLAY! MUSEUMの展示では、よりはっきりとした共生のメッセージを打ち出します。

―― 次はドイツの詩人で作家エーリッヒ・ケストナーの著作『動物会議』(岩波書店)にかんする企画展示ですね。

手塚 そうです。どうぞ楽しみにしていてください。

手塚貴晴(てづか・たかはる)さん

建築家。手塚由比さんと手塚建築研究所を共同主宰。世界経済協力機構(OECD)と国際連合教育科学文化機関(UNESCO)により世界で最も優れた学校に選ばれた 「ふじようちえん」(東京都立川市)を始め、子どものための空間設計を多く手がけている。

らび
自ら「らび」と名乗る初老のおじさん。うさぎが好きで「ぼくは、うさぎの仲間」と勘違いしている。著書に『ディック・ブルーナ  ミッフィーと歩いた60年』 (文春文庫) 、『ちいさなぬくもり 66のおはなし』(ブルーシープ)など。