【junaida展インタビュー】編集者・岡田 望さんが語るjunaidaさんの仕事②(全3回)

「絵本という媒体の本来の自由さを最大限に生かす」

絵本デビュー作『Michi』をはじめ、『の』『怪物園』『街どろぼう』を手がけてきた福音館書店編集者の岡田 望さん。担当編集者だからこそ知る、junaidaさんとの仕事の裏側や作品の魅力についてたっぷり聞きました。全3回。

取材・執筆:いまむられいこ

①はこちら

「自分が見たい」という一心

――junaidaさんの絵本を作ることになった経緯について教えてください。

岡田 斉藤 倫さんの『せなか町から、ずっと』ができあがった後、また仕事をご一緒したいと思って、打ち上げも兼ねて京都に行ってjunaidaさんと話をしたんです。ご本人にも「絵本をやりたい」というお気持ちがあって、何度かお目にかかって話すなかで『Michi』のアイデアをいただきました。話を聞いて「これはすぐにやりたい」と思いました。

――どんなところに惹かれたのですか。

岡田 アイデアが秀逸なのはもちろん、読み手に委ねる部分が大きい作品ですよね。どこから読んでも、どんな風に読んでもよいし、読むたびに新しい発見がある。1冊のなかに、無数の物語や色んな人の暮らしが息づいていて、読む人の想像力を掻き立ててくれます。どう読んでもいいんですよ、という自由が担保されていて、そこには本を手に取った人への信頼がある。そして、そのアイデアが圧倒的な画力に下支えされている。絵本という媒体の、本来の自由さを最大限に表現できる作品だと思いました。

――今までにはない本の企画を、社内で通すのは大変だったのでは。

岡田 「通すしかないかな」みたいな(笑)。わがままかもしれませんが、自分が「おもしろい」と思えないと身体が動かないんですけど、逆にすごいものに触れると、鳥肌が立ったり、嘔吐(えず)くんです、「すげええ」って(笑)。『Michi』も、「自分が見たい。本になってほしい」という一心ですよね。

――売れる自信はありましたか。

岡田 どの本も売りたいし、売れてほしいと思っていますが、売れるかどうかはわかりません。タイミングもありますし。でも1人でも多くの人に手にとってもらうためには何でもする、という気持ちではいます。

とはいえ編集者ができることは限られていますから、営業のメンバーや、書店さんはじめ、皆さんのお力を借りて、その本に合った方法や見せ方で届けてもらいます。本が出てからでは間に合わないので、編集と同時にその方法を模索しつつ進めていく感じですね。

作家の旬を逃さない

――編集は編集でクオリティを高めていくと。

岡田 編集に限らず版元(出版社)って、ものづくりをしているようだけど、実際は「ものづくりのハブ」、つまり媒介ですよね。著者も、デザイナーも、印刷も外部の人たちですから。だから僕自身は「本を作っています」とは言わないんです。

手を動かさない我々が、作品を預かる立場として、「もうこれでいいや」とは言えない。著者が「これでいいです」と言うまでは積み上げていかないといけない。もちろん予算もあるので、そのなかでのベストな選択肢を見つけていく。それが編集の仕事だと思っています。

――作家のビジョンを実現するための環境を整えるということでしょうか。

岡田 はい。その作品ごとに、社内のベストなチームで対応するし、印刷所でもベストなチームを組んでもらいます。

例えば、京都で『Michi』の打ち合わせがあったとして、事前に、制作メンバーに「何時から何時まで打ち合わせなので電話に出られるようにしておいてください」とお願いするんです。案の定、特殊な仕様の本になることになり、すぐにメンバーに電話して、その場で見積もりを出してもらいました。おかげで、その場で「これはできる、できない」って仕様を決めていくことができました。

――ライブな感じの進め方なんですね。

岡田 実は、junaidaさんとお仕事をするようになって、そういうやり方を試してみたんです。作品にもよりますが、なにができるできないかが、その場でどんどんわかっていくと、むしろ新しいアイデアも出てきやすくなる気がします。

「何を削れば予算に収まるか」とか、いちいち持ち帰ると時間がかかるじゃないですか。返事を待たせると、それだけできることの幅も狭まっていってしまうかもしれない。2週間あればこの加工ができたのに、とかあと2日あれば色のテストができたのにとか。それに、作家さんが作品に向き合える時間も限られているわけですから、できるだけその旬を逃さないように環境を整えられたらと思うのですが、まだまだですね。

誰よりも落ち着いている

――junaidaさん自身もスピード感をもって制作されるのですか。

岡田 下描きの段階ではそれなりにコミュニケーションしますが、そのそばから完成に向かってどんどん進んでいくんですよね。junaidaさんが「それでやります」と仰ったら、そこから停滞はありません。

――仕事の時の様子は。

岡田 普段はたくさん冗談を仰ってふざけるし、とても人間っぽいんですけど、仕事になるとスイッチが変わります。淡々として、フラット。熱くなったり、うろたえたり、脇目も振らず打ち込んでいるという印象ではなく、むしろ誰よりも落ち着いているんです。むしろ周りのほうが興奮したり、何かあったときにうろたえたりしているくらいですね(笑)。

――なぜフラットでいられるんでしょう。

岡田 どうでしょう。ご自身のなかでjunaidaという存在がどんどん更新されているから、あえて自らの立ち位置や居場所を確立させたり、権威にならないようにしている、という印象はあります。自在に変わっていくんだけれど、「絵描き」として一本の芯が通っているんです。

(③に続く)

junaidaさんと岡田さんが作った絵本

『の』(福音館書店、2019)

いつもことばとことばのすきまにこっそりいる「の」。この「の」が持っている魔法の力で、ことばとことばが思いがけない出会いをしたとき、そこには見たこともない景色があらわれ、聞いたこともない物語がはじまります。

https://www.fukuinkan.co.jp/junaida/

『の』(福音館書店、2019)

岡田望(おかだ・ぼう)さん

1973年生まれ。福音館書店編集者。