2023年1月20日(土)、トンコハウス・堤大介の「ONI展」がはじまりました!「ONI展」は、Netflixオリジナル作品として、31か国語で世界配信中の『ONI ~ 神々山のおなり』の世界を空間演出で味わうことができる、新しいエンタテインメント体験型の展覧会です。
取材・執筆:内山さつき
会場撮影:田附勝
ポートレート撮影:高見知香
プレス内覧会では、『ONI ~ 神々山のおなり』の監督を務めた堤大介さん、空間デザインを手がけた映像作家で写真家の菱川勢一さん、PLAY! プロデューサーの草刈大介が、展覧会の意図や思いを語りました。
草刈 トンコハウス・堤大介の「ONI展」は、PLAY! MUSEUMで初めてのアニメーションの展覧会です。堤大介さんは、アメリカでトンコハウスというアニメーションスタジオをされていて、『ダム・キーパー』(2014)という、アカデミー賞短編アニメーション賞にもノミネートされた作品をつくられた方です。情熱的で一途な堤さんが周りの人たちを巻き込みながら作品をつくっている姿が素晴らしいし、トンコハウスの作品はとにかく映像が美しい。アニメーションの展覧会といえば、メイキングを追った展覧会が各地で開催されていますが、今回は美しい映像そのものを体感できる展覧会に挑戦しました。
堤 僕はアメリカに30年ぐらい住んでいて、アメリカで作品をつくっています。日本を題材にしたものを世界に発信したいとは以前から思っていて、今回『ONI ~ 神々山のおなり』という作品をつくりました。日本人には馴染みの深い「鬼」ですが、古来自分たちとは異なる文化を持った人たちのことを恐れ、「鬼」と呼んでいたのではないかという説があります。それは今の時代にまさにぴったりのテーマではないかと思い、この作品づくりが始まりました。
堤 現代では、ネット配信でテレビやiPad、スマートフォンなどで映像コンテンツが手軽に観られます。そんな時代に、自分たちの映像が展覧会という形で、画面だけではなく体験できるというのは、想像を超えて素晴らしいものでした。
菱川 僕らは「DRAWING AND MANUAL(図画工作)」という名前を冠して創作をするチームです。映像や写真、グラフィックデザイン、子ども番組のアートディレクションではパペットを制作することもあります。
3DCGアニメーションでつくられた『ONI ~ 神々山のおなり』には、堤さん率いる「トンコハウス」の特長でもある「手のぬくもり」や「美しい光」を随所に感じ、「美しい温度感や質感を表す映像を、展覧会で体感してもらうためにはどうしたらいいか」という着想から空間表現を考えていきました。
「日本の本物のものづくり」をひとつのキーワードとして手仕事を感じられるように、日本各地の職人さんにお声がけして、アニメーションを投影するスクリーンには山形の手漉き和紙と新潟の六角凧(いか)を、会場をほのかに照らす光には岐阜の美濃和紙と竹ひごを使った手づくりの提灯を、今回のためだけに製作していただきました。自然から生まれる昔ながらの手仕事を見て、体感して、日本の美しさを感じてほしいと思っています。
作品世界に没入する
では、会場の様子を紹介しましょう。
会場に足を踏み入れると、『ONI ~ 神々山のおなり』で描かれる、美しい森のシーンが和紙のスクリーンに投影されています。提灯のやわらかな光も印象的です。
草刈 ここはイントロダクション的なセクションです。物語の中で主人公の「おなり」と「なりどん」が暮らす美しい自然の光や情景、音を楽しんでもらえたらと思います。
トンコハウス・堤大介の「ONI展」会場写真 トンコハウス・堤大介の「ONI展」会場写真
堤 物語の舞台となる森は屋久島がモデルになっているのですが、実際に屋久島にロケハンに行って感じた、精霊が住んでいるような日本独特の自然表現には、かなり力入れました。日本の空気感、光、音を日本の外で暮らす人たちにも感じてほしくて、特に時間かけてつくった部分です。そこに注目してくださったことが本当に嬉しいです。
草刈 そして壁には、日本各地から集めた鬼のお面が飾られています。これは武蔵野美術大学美術館•図書館の民俗資料室からお借りしたもので、たくさんの鬼が日本各地で伝わっているのがわかります。僕らの考える鬼とは全く違う、どこか愛らしさの漂う鬼もいますね。別のコーナーでは大きな凧もお借りして展示しています。
続いては、物語に出てくる「戻り橋」や灯籠を再現するセクションを通って、大きな展示室へ。
草刈 先ほどの光に満ちた世界から、今度は闇の世界へご案内します。ここは物語のクライマックスとも重なる部分で、その舞台となる祭りのやぐらを再現したエリアになります。菱川さん、この空間について見どころをお願いします。
菱川 お祭りの雰囲気は、物語のクライマックスでもある重要なシーンです。空間に紅白提灯や祭りやぐらを設え、ここ数年、一時的にお祭りを味わう機会が減ってしまった子どもたちに、情景として記憶してもらえたらという願いと共に、残していきたい日本の風景のひとつとして再現しました。
そしてここには、大人も子どもも自由に叩ける太鼓があるんですよ。普通のバチは、子どもたちには重くて長いので、展覧会に合わせて特注のバチを製作しました。そして太鼓を叩くと、あることが起こる演出があって……。これはぜひ、実演していただいた方がいいですね。堤さん、お願いします。
堤監督が見事な太鼓の腕前を見せてくださいました
堤監督が見事な腕前で太鼓を叩くと……、音に合わせて暗い森の中に、無数の森の精霊「モリノコ」たちがきらめきました!
この印象的なインスタレーションを抜けると、メイキングを紹介するセクションへと続きます。
3DCGアニメーション制作の裏側へ
草刈 このセクションでは、最新のアニメーションの作り方を披露しています。キャラクター設定のスケッチや、CGの前段階につくられたこま撮りのセット、3DCGのテクニックなどを部分的に紹介しています。詳しくは図録で解説しているのですが、会場ではモニターもいくつか配置して、実際に動くようすを見ていただくことで、より理解しやすくなっていると思います。ここはぜひ堤さんに、メイキングで特に注目してもらいたい部分を教えてもらいましょう。
堤 実はこの作品は、最初こま撮りでつくりたいと思い、ドワーフというこま撮りが得意な日本のアニメーションスタジオ と一緒にパイロット版をつくったんです。彼らは本当に素敵なセットをつくってくださった。でも物語を追求していくうちに、作品のスケールがどんどん大きくなってこま撮りでつくるのが難しくなり、途中でCGアニメーションにシフトしたんです。でも、こま撮りでつくってもらったときの手仕事のあたたかみが伝わるようにというのはCGでもずっと大切にしました。この作品の原点ともなるセットをぜひご覧いただけたらと思います。
また、僕は監督になる前、ピクサーで光のアートディレクターを務めていたこともあり、映像表現としての「光と闇」にこだわりがあります。ここでは、物語の初めから終わりまでの「光のデザイン」を描いた絵を見ることができます。一つ一つは、ラフな絵なのですが、遠くから見ると作品の全体的な光の演出を俯瞰できるようになっているカラースクリプトにも、ぜひ皆さんに注目していただけたらと思います。
厳選した『ONI』のカラースクリプト
草刈 最後のセクションには、特設シアターがあります。4話からなる『ONI ~ 神々山のおなり』から一話ずつ、2週間に一度入れ替えて上映しています。それから『ダム・キーパー』など過去のトンコハウスの作品も合わせて見ることができます。上映スケジュールはウェブサイトに記載されているので、ぜひご来場の際にチェックしてみてください。
堤 大きい画面で、みんなと一緒に見てもらえるというのは、やはり作り手としてはすごく嬉しいことですね。Netflixに入っていない方にもここで観ていただけるというのも。
草刈 菱川さんはいかがですか?
菱川 この素晴らしいアニメーション制作の舞台裏から完成作品を見て、来場者の方々、特に子どもたちや学生の皆さんに、ものを作ることの大切さ・楽しさを感じていただきたいなと思います。その気持ちを持ち帰って、「自分たちもやってみたい、やってみよう!」と、未来のクリエイターが生まれるきっかけになったら。
『ONI ~ 神々山のおなり』の世界観を存分に味わい、制作の舞台裏にも触れることができる「ONI展」。
世界に誇れる日本の美しい映像世界と、手仕事によるものづくりの素晴らしさに触れに、ぜひお越しください!
堤大介(Daisuke “Dice” Tsutsumi/つつみ・だいすけ)
東京都出身。スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒業。ルーカス・ラーニング、ブルー・スカイ・スタジオなどで 『アイスエイジ』や『ロボッツ』などのコンセプトアートを担当。2007年ピクサーに招聘されアートディレクターとして 『トイ・ストーリー3』や『モンスターズ・ユニバーシティ』などを手がける。2014年7月ピクサーを去りトンコハウスを設立。初監督作品『ダム・キーパー』は2015年米アカデミー賞短編アニメーション賞にノミネート。2021年には日本人として初めて米アニー賞のジューン・フォレイ賞を受賞。一冊のスケッチブックに71人の著名なアーティストが一枚ずつ絵を描き、手渡しで世界中を巡るというプロジェクト『スケッチトラベル』の発案者でもある。
菱川勢一(ひしかわ・せいいち)
映像工芸作家・写真家・武蔵野美術大学教授。音楽業界を経て単身NYへ渡り、音楽と映像を融合したメディアアートを展開。帰国後、DRAWING AND MANUALの設立に参加。映像、写真、ファッションブランドのステージ、展覧会などのディレクションをはじめ、コ ンテンポラリーアート、映画など横断的な創作活動を続け、2022年より日本映像工芸を開始している。
http://seiichihishikawa.info
https://drawingandmanual.studio/
草刈大介(くさかり・だいすけ)
朝日新聞社勤務を経て、2015年に展覧会を企画し、書籍を出版する株式会社「ブルーシープ」を設立して代表に。PLAY! MUSEUMのプロデューサーとして展覧会、書籍のプロデュース、美術館や施設の企画・運営などを手がける。