カラフルなグラフィックデザインが印象的な『まるのおうさま』(絵・粟津潔 福音館書店 1971)。お皿やタイヤなどのいろいろな「まる」たちが、主張しあうようすをアニメーションにした、坂井治さんに話を聞きました。
取材・執筆:天田泉
会場撮影:高橋マナミ
ポートレート撮影:高見知香
―『まるのおうさま』の絵本は、読んだことがありましたか?
坂井 今回、はじめて知りました。まず、たのしい絵本だな、と。70年代の作品ということもあって、原画もすごい配色がしてあったり、この時代の勢いというか、あそんでいる感じがすごく伝わってきました。
谷川さんとグラフィックデザイナーの粟津潔さんがこの絵本をどうやってつくったのかわかりませんが、詩というと右から左に読むというイメージがありましたが、それをもいとも簡単に崩して並べていく、パズルのような感覚がおもしろくて。どこから読んでもことばがぐるぐるまわるというか、想像があちこちに飛びまわせるというか、その感じもすごくいいですね。
―谷川さんついては、どう思いましたか?
坂井 ちょっと相手が大きすぎて、今回は学ぶことばかりでした。『まるのおうさま』は、新しいことをやろうという、谷川さんや粟津さんのパッションが本当にすごい。つくり手がつくりたいものをつくっている、そうすれば子どもはよろこんでくれるだろう、という信念すら感じて。絵本をかじっている身としては、それがうらやましいというか、悔しいというか(笑)。
―今回のアニメーションについて、おしえてください。
坂井 最初は絵本をそのまま映像化しようと思ったのですが、長くなってしまうので諦めました。入口近くの展示なので、お話をゆっくり見せるというよりも、『まるのおうさま』の雰囲気というか、あの絵本のなかでやろうといしている感覚を読み取ってもらえるものにしようと考えたんです。
絵本の要素を削って、削ってとやっているうちに、絵はわかりやすい「まる」の連続にして、ことばも「まるのおうさまだ」という台詞を残しました。運動会の徒競走をイメージして、みんなが自分が『まるだ!』と、ちいさな争いをしている雰囲気を出そうと考えて、絵と動きと音で表現していきました。
―アニメーションは、コマ撮りしてつくったそうですね。
坂井 粟津さんの原画データを出力して絵を全部切り抜き、ひとつ一つを動かしていったんです。原画がとてもグラフィカルなので、デジタルで動かすほうが相性が良いようにも思いますが、ぼく個人としては、粟津さんが一生懸命コンパスでまるを描いたり、目の位置をずらしながらコラージュをして原画をつくられた、と感じました。そのアナログな感じが、映像でもうまく表現できていたらいいですね。
それから、お皿やレコードなんかが、自分こそ「まるの おうさまだ」と張り合いながら、割れてしまったりと失敗するじゃないですか。その感じとコマ撮りのぎこちない感じがあっている気がします。
―たのしくて、何度も見たくなるアニメーションですね。ありがとうございました。
坂井 治(さかい・おさむ)
アニメーション・絵本作家。アニメーションに、国立科学博物館地球館「地球史ナビゲーター」映像演出、NHKおかあさんといっしょ「オナカの大きな王子さま」など。絵本に「13800000000ねん きみのたび」(光文社)、「もりのゆうびんきょくいんのおはなし ぽすくまです!」(共著、白泉社)、かがくのとも「みずだらけ」(福音館書店)など。