【ONI展インタビュー】PLAY! プロデューサー・草刈大介

「大切なテーマが込められた展覧会」

Netflixで配信中の長編アニメーション『ONI ~ 神々山のおなり』の世界観を味わうことができる、トンコハウス・堤大介の「ONI展」。PLAY! MUSEUMのプロデューサーの草刈大介に、展覧会が出来上がるまでを聞きました。

取材・執筆:内山さつき
会場撮影:田附勝
ポートレート撮影:高見知香

草刈大介

作品の手触りや息遣い、そしてやっぱり物語が好き

―今回の「ONI展」は、PLAY! MUSEUM初めてのアニメーションの展覧会と聞きました。

草刈 PLAY! MUSEUMでは、年間4つ企画を開きますが、そのうち一つはこれまでやってこなかったことに挑戦してみたいと思っています。『ONI』は、Netflixで世界中に配信されている、オリジナルの新作アニメーション。展覧会の素材として、まずはやりがいを感じました。

―トンコハウスの作品にはどんな印象がありましたか?

草刈 堤さん率いるトンコハウスの作品には、一目で彼らの映像だと分かるオリジナリティがありますよね。 独特の色合いや風合い、光の輝きや手触り、息づかい……、それに僕は、やっぱり物語が好きですね。今回の『ONI』もそうだったように、みんなで試練を乗り越え、最後に希望を感じさせるところがいい。

現代社会の人間関係はどんどん複雑になっていますが、その根っこには、やっぱり家族や友だち、仲間があると思います。家族がうまくいかないときは友だちが助けてくれるし、友だちとうまくいかないときは家族が助けてくれる。たとえ自分を見失っても、他者との関係で再び立ち上がることができるというのは、大切なことだと思うんです。

―『ONI』にはたくさんの大切なテーマが描かれていますね。

草刈 堤さんが今回『ONI』で描いたテーマをとても大事にしていることが伝わってきますね。それはつまり、そのテーマがどれくらい自分自身に根ざしているかということです。この作品のテーマの一つに、「よそ者」や「自分たちとは違う存在」とどう共存していくかがありますが、実際アメリカで日本人として生活してきた堤さんの実体験が反映されているのだろうと思います。

そして堤さんのお子さんが、これからこの問題にどう向き合っていくのだろうと懸命に考えながら作られた物語だとも聞きました。だからこそ、物語に強度があるんですよね。そしてこれは全世界に共通する普遍的なテーマだと思いました。

メイキングの展覧会から「体感する展覧会」へ

―アニメーションを展覧会にする際に難しかったことはありましたか?

草刈 実は、初めはアニメーションのメイキングを中心とした展覧会にする予定でした。キャラクター紹介があって、その映像を見せて、こうした映像を作るのにどれだけの過程や工夫があったのかを紹介するような。一度この内容で企画をまとめて、堤さんにも了承していただいて、あとは具体的にどのくらいの面積にどれくらいの情報を入れるか、というところまで進めていたんです。でもそこで、それでは新しい試みにはならないのではないかと思い至って、思い切って構成を大幅に変えました。

やってみたくなったのは、PLAY! MUSEUMの空間を使って、「素晴らしい映像をとにかく美しく見せる」こと。メイキングは最後の方に相対的に減らして、美術館の空間を辿りながら物語を体感できるようにしたらどうか、と。それから展覧会オリジナルの、アニメーション作品にはないものも1つだけ加えよう、と。

―どのように空間を作り上げていったのですか?

草刈 まずは、この圧倒的に美しいアニメーションを見せるにあたり、映像や音を使って豊かな世界観を作ることができる人はいないか考えました。そして昨年行われた「どうぶつかいぎ」展で、アーティストとして印象的なインスタレーションを作ってくれた菱川勢一さんのことがすぐに思い浮かびました。菱川さんに声をかけたら、二つ返事で引き受けてくれて。『ONI』の中で、日本の自然を描いた映像の美しさに着目し、和紙のスクリーンに投影したり、提灯の灯りで演出したり、僕らが考えていたアイディアをさらに肉付けして、実際の形に落とし込んでくれました。

森の精霊「モリノコ」の光のインスタレーションも、「みんなが呼びかけると、それに光が反応するみたいなものが作りたい」というアイディアが早い段階から菱川さんの中にあったようです。最初は手を叩いて、「わっしょいわっしょい」などと言うと、声に反応するような仕掛けでしたが、やぐらが組み上がると太鼓が欲しくなってきて、やっぱり太鼓だ、と今の形に落ち着きました。

―いろいろなアイディアが結集して展覧会を作り上げているのですね。

草刈 今回の展覧会は『ONI』という作品をベースにして、ある意味二次創作のように僕らが解釈して作り上げたものです。二次創作は原作に対してリスペクトがないとできないものなので、僕らも当然のことですが、この作品をできる限り理解したいと思い、敬意を払いました。でも、まず何よりこうした大胆な試みを快く許してくれた堤さんの懐の深さ、感覚の鋭さに胸打たれましたね。

―3DCGアニメーションと職人さんの手仕事が見事にマッチしているのが印象的でした。

草刈 CGアニメーションって、とても手間がかかるものなんですよ。まずヴァーチャルのキャラクターを作って、それをセットの中に入れ、動かしていく。そこからさらに光の演出などをして……、莫大な費用と時間がかかります。CGと言うと、もしかしたら自動的に生成されるようなイメージがあるかもしれないけれど、全くそうではないんです。ひとつひとつ人の手を入れて、時間をかけて丁寧に作られた作品という意味では手仕事なんですよね。

―「ONI展」を通じて伝えたいことは何ですか?

草刈 堤さんが映画を作る理由の一つは、ますます顕著になっていく「世界の分断」に対して自分たちは何ができるのか、ということではないかなと思います。自分たちと、自分たちとは異なるものの間に線を引いて、「こちら側」と「そうでない側」とに分けてしまうような現代の世界で、「人はどう生きるのか」を問いかけることは、アートの一つの役割だと思います。『ONI』も、ただ映像がきれいで美しいというだけでなく、社会の一員としてどうあるべきか、自分が自由になることで、他人とどうより良く関わることができるのか、という問題を深く考えさせてくれる作品です。

そうした作品の世界を空間の中で味わって、それを自分自身の体験にすることができるのが、美術館の強みですね。 PLAY! MUSEUMでは、漫画でもアニメーションでも、根底にそうした問題意識のあるものをこれからも取り上げていきたいと思います。そういう意味でも、この「ONI展」のテーマは、PLAY! MUSEUMの歴史の中でも大切なものだと思っています。

『ONI ~ 神々山のおなり』作品視聴はこちらから

草刈大介(くさかり・だいすけ)

朝日新聞社勤務を経て、2015年に展覧会を企画し、書籍を出版する株式会社「ブルーシープ」を設立して代表に。PLAY! MUSEUMのプロデューサーとして展覧会、書籍のプロデュース、美術館や施設の企画・運営などを手がける。

TOPICS

「新しい視点で作品世界を味わえる展覧会」
企画展示 トンコハウス・堤大介の「ONI展」
「職人の仕事に触れて、ものづくりの楽しさを感じてもらえたら」