「クマのプーさん」展 関連インタビュー 祖敷大輔さん

「読者の想像をかきたててくれる余白と余韻」

まもなく開幕する「クマのプーさん」展に寄せて、さまざまな分野で活躍するクリエイターの皆さんにお話を聞くシリーズの第三弾。イラストレーター・祖敷大輔さんに、「クマのプーさん」の魅力とご自身が描かれるクマについて話を聞きました!

取材・執筆:いまむられいこ
コーディネート:森彩香

子どもの過激さ

――本日は、岩波少年文庫版『クマのプーさん』『プー横丁にたった家』をお持ちいただきました。付せんがたくさん貼ってありますね。

祖敷 昔、読んでいたものをなくしたので買い直したんです。付せんは、ちょっと普通じゃない言い回しなど、気に入ったところに貼っています。

例えば、「『かもしれないな。』と、プーはいいました。『ことによると、そうだし、ことによると、そうじゃないな。』(「プーとコブタが、狩りに出て、もうすこしでモモンガーをつかまえるお話」)とか。

――祖敷さんと『クマのプーさん』の出会いは。

祖敷 大学生か、社会人になってからだと思います。大人になりかけた20代の頃。最高でしたね、子どもがもっている過激さみたいなもの、大人の世界では抑圧されていることを軽々とやってのけるような気持ちよさ、楽しさがあって。

E. H. シェパード『絵本 クマのプーさん』原画 1965 年 E. H. Shepard, Illustration for The Pooh Story Book by A. A. Milne. Courtesy of Penguin Young Readers Group, a division of Penguin Random House, LLC. © 1965 E. P. Dutton & Co., Inc. 

――具体的にはどんな楽しさでしょう。

祖敷 あの、プーさんの世界って全体的に、プラスマイナスゼロなんですよね。左にあったものを右に移すだけとか、そういうエピソードが多くて。

例えば、イーヨーが「あるときはかなしげに『なぜ?』とかんがえ、またあるときは『なにがゆえに?』とかんがえ、またあるときは、『いかなればこそ?』とかんがえ――またあるときは、じぶんが、なにをかんがえているのか、よくわからないのでした。」(「イーヨーが、しっぽをなくし、プーが、しっぽを見つけるお話」より)。

いろいろ言ってるんだけど、議論が全然深まっていかない(笑)。何も起きない。役に立たなかったり、無駄に思えたりする。でもそのナンセンスさが楽しいし、好きなんです。

クマはヒトみたい?

――祖敷さんが動物の絵を描くようになったきっかけは。

祖敷 もともと広島の工業地帯で育ったので、特に自然や動物と触れ合ってきたわけではありません。いろいろ描いているうちに、動物を描くのが一番しっくりきた、というか。

例えば「喜び」という感情を伝える時には、人間よりも動物で表現した方が、よりよく伝わることが分かったんです。クライアントにも喜ばれるし。なぜなのか突き止められてはいないのですが、僕の場合は、動物の姿形を借りると言いたいことがよく伝わる、ということが起きるみたいですね。

――クマを描かれることが多いようですね。

祖敷 かつて、イラストレーションの雑誌のコンペで2度取り上げていただいたのですが、どちらもクマの絵でした。なぜか、いい反応が返ってくるんですよ。

クマを選ぶ理由は、二足歩行がサマになるとか、目が顔の真ん中にあるので、目が合いやすくて、ヒトに似ているのかもしれません。特に、目が合うというのは大事な要素で、意思疎通や感情のやり取りに影響すると思います。

polar bear、祖敷大輔
(祖敷さんがイラストレーターとしてお仕事をする前に描かれたクマ。
雑誌のコンペで取り上げられたのもこちらの絵だったそう。)

あいまいな感情表現

――祖敷さんは多くの挿絵を手がけています。シェパードの挿絵についてどう思いますか。

祖敷 一言でうまいです。植物の描写や構図の取り方が巧みで、枝や葉っぱが風にゆれていそうな感じがします。あとキャラクターも生きて動いている感じがする。背景とキャラクターを生き生きと一体で描けるのがすごいですよね。

もう一つ大事なのは、描きすぎていないこと。やはり本文が主役なので、絵が説明しすぎてしまうと、読者は興ざめしちゃうんです。その点でも、シェパードはめちゃくちゃうまい。

――ひかえめな絵、ということでしょうか。

祖敷 キャラクターの感情を記号的に描いていない、ということなんです。顔のパーツが小さいので、表情もよく見えないし、姿勢も後ろ向きや横向きが多く、喜怒哀楽の感情をあいまいにしていますよね。その代わり、形や身振り、キャラクター同士の位置など、絵全体で関係性を表している。

感情が記号化されていない分、読者が「この子は今、どう思っているんだろう」と感情移入しながら想像できる。その余白があるからこそ、余韻が生まれるんだと思います。

E. H. シェパード『The Christopher Robin Book of Verse』原画 1967 年 E. H. Shepard, Illustrations for The Christopher Robin Book of Verse by A. A. Milne. Courtesy of Penguin Young Readers Group, a division of Penguin Random House, LLC. © 1967 E. P. Dutton & Co., Inc. 

――難しそうですね。

祖敷 感情を描きすぎなければ解釈の自由度が広がる反面、絵がぼんやりして印象が弱くなりかねない。そのバランスが難しいと思います。僕も見習いたいところです。

プーさんの世界は居心地がいい

――挿絵の仕事をする時、祖敷さんが気をつけていることはありますか。

祖敷 文章を読むと、その映像が浮かぶことってありますよね。でも、それをそのまま挿絵として描いても、状況を説明しただけの絵になってしまって、おもしろくなかったりします。なぜかというと、文章を書いた作者の視点に従属しているから。

そうではなくて、例えば「作者とは反対側のカメラから見たらどう見えるかな」と、おもしろそうな画角を探してみるんです。生意気なことを言うと、もうひとりの作者になってみる感じ。作者の主観と僕の主観をクロスさせることでギャップみたいなものが生まれて、読者にとってその作品の世界が立体的になるというか、想像がふくらむ。結果的に、主役である文章を引き立てられるのではないか、と思っています。

――最後に。祖敷さんのお気に入りのキャラクターを教えて下さい。

祖敷 プーさん、ですかね。でも、特定のキャラクターが好きというより、関係性が好き、ということなのかもしれません。物忘れ、食いしん坊、心配性など、ここで描かれている弱点って、人間社会ではマイナスになりかねない。でもプーさんの世界では、誰かの欠点が誰かの欠点を補って、誰のことも責めたりしないじゃないですか。そういう居心地のよさがあります。

プーさんたちの世界と、自分がいる現実はどこかでつながっているような気がするんです。そう思うのは、言葉と絵の掛け合わせがとても成功しているからでしょうね。ミルンと、シェパードと、石井桃子さんのすばらしさだと思います。

――ありがとうございました。

「クマのプーさん」展によせて、祖敷さんから描きおろしイラストが届きました!

祖敷大輔

1979年生まれ。広島県出身。2008年よりイラストレーターとして様々な媒体で活動している。

2017年本屋大賞「翻訳小説部門」を受賞した『ハリネズミの願い』(トーン・テレヘン 著/長山さき 訳 新潮社)や、『食べることと出すこと』(頭木弘樹 著  医学書院)などの装画と挿絵を担当。2022年公開の『映画ざんねんないきもの事典』日本編「はちあわせの森」にキャラクター原案で参加。

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