「クマのプーさん」展 関連インタビュー 酒井駒子さん

「シェパードにしか描けない絵の空気感がすごいな、って思います。」

まもなく開幕する「クマのプーさん」展に寄せて、さまざまな分野で活躍するクリエイターの皆さんにインタビューするシリーズをはじめます。絵本作家・酒井駒子さんに、「クマのプーさん」の魅力と展覧会への期待を聞きました!

取材・執筆:いまむられいこ
コーディネート:森田藍子

今はイーヨーが大好き

『クマのプーさん プー横丁にたった家』(A. A. ミルン作、石井桃子訳、E. H. シェパード絵、岩波書店)

――「クマのプーさん」との出会いは。

酒井 『クマのプーさん プー横丁にたった家』が私の兄の本棚にいつもあって。小さい頃はベージュ色の背表紙があまり好きではなくて、読む気になれなかったんです。

小学校6年くらいの時に、ふと開いて読みはじめたら、とってもおもしろくて。E・H・シェパードの挿絵もすごくいいな、と思って、それからこの本が大好きになりました。

――どのお話がお気に入りでしたか。

酒井 全部おもしろいけれど、一番好きなのは「イーヨーがお誕生日に、お祝いをふたつもらうお話」。子どもの時は、しんきくさいイーヨーがあまり好きではなかったんですが、このお話はおもしろいな、と思っていました。

具体的に何が楽しいのか、自分でもうまく説明がつかないんですが。最後にイーヨーがうれしそうに、風船をつぼから出し入れしているさまが好きだなあ、と思っていました。自分が大人になるにつれて、イーヨーのことも好きになって。年をとった今はイーヨーが大好きです。

――ディズニー映画のプーさんは。

酒井 実は、ディズニー映画は見たことがないんです。子どもの頃、家に講談社のディズニー絵本があって、そのなかにプーさんの巻がありました。でもかなり破れていて、お話もよくわからなかった。プーさんがウサギの家でハチミツを食べたらお腹がパンパンになって、という話でしたが、映画のほうは見たことがありません。

だから今の小さい子と話していて、その子がトラーのぬいぐるみをもっていたんですけど、「あ、トラーだね」って言ったら、「そうじゃないよ、ティガーだよ」って言われて。あ、ティガーなんだ、と教えられました。

イギリスっぽいユーモアのある訳

――石井桃子さんの訳については。

酒井 私にとって『クマのプーさん』は、石井桃子さんの訳と切り離しては考えづらい感じです。今読み返しても、この語り口調が本当におかしいなあ、と思います。

たとえば、「プー横丁にイーヨーの家がたつお話」の、イーヨーが建てた家をプーさんとコブタが知らずに移動させちゃうところ。それをコブタが気づいた時に、「あれ!」って言う。(「ぼく、ただ『あれ!』っていったんです。」コブタは、ビクビク顔でいいました。)そういうのが、すごくおかしい、と思って。

――独特の口調ですよね。

酒井 そうですよね。原書を読んだことがないので本当はどんな感じなのかわからないんですが、イーヨーやコブタのとぼけた感じとか、ちょっとごまかしたり、もってまわったようなイギリスっぽいユーモアがおもしろいな、って思います。

――石井桃子さんの訳について「上品で、終わらない昼さがりみたいに」と表現されています。

酒井 「上品」というのは、イギリスらしい諧謔的な笑いを子ども心に感じたのかな。そんなに追い詰めるような感じでもなくて、なんとなく「みんな、わかるよね」みたいに進んでいったり。でも、なんといっても石井桃子さんの語り口だと思います。

「終わらない昼さがり」というのは、最後にはクリストファー・ロビンも学校に行きはじめるので、それまでの、永遠に続に続くような世界の感じを、うっとりするように読んでいたかな、と思います。小学6年生くらいで読んだので、自分ももうすでにその世界から出ていったんだ、と感じていたとも思います。

絵のすばらしさ

E. H. シェパード『クマのプーさん プー横丁にたった家』原画 1957 年 E. H. Shepard, Illustration for The World of Pooh by A. A. Milne. Courtesy of Penguin Young Readers Group, a division of Penguin Random House, LLC. © 1957 E. P. Dutton & Co., Inc.

――大人になってから『クマのプーさん プー横丁にたった家』を見直すとどんな印象でしょう。

酒井 6年生くらいの時には、シェパードの絵がすごくかわいい、と思っていたけれど、大人になってからも本をめくって見るたび、やはり絵のすばらしさを感じます。言葉にするのが難しくて、本当にいいなあ、としか言えないですよね。

子どもの頃、自分も真似をしてコブタの絵を描いてみたんですけど、ちっともかわいく描けなかった。なんでこんなに違うのかな、と考えたら、キャラクターとしてかわいいのはもちろんあるけれど、それよりも、コブタがフーッとタンポポの綿毛を飛ばしているところとか、シチュエーションがとても美しく描かれている。動いたり、何かをしているところがすごく美しい形だから、こんなに素敵に見えるのかな、と思いました。

あと、木がすごくきれいで。木がいっぱい出てくるんですけど、シェパードの木の描き方が本当にすごいな、って今見ても思います。「ピーターラビット」のビアトリクス・ポターとはまた違って、ザッ、ザッ、ザザッと描いたような、勢いのあるペン画。シェパードにしか描けない空気感みたいなものがあって、それがすごいなあ、っていつ見ても思います。

E. H. シェパード『絵本 クマのプーさん』原画 1965 年 E. H. Shepard, Illustration for The Pooh Story Book by A. A. Milne. Courtesy of Penguin Young Readers Group, a division of Penguin Random House, LLC. © 1965 E. P. Dutton & Co., Inc.

――酒井さんの作品にもクマが登場しますが、クマというキャラクターについては。

酒井 自分が描くクマっていうものにおいて、シェパードの影響はないと思うんです。でも、クマっていうもののイメージとしては、プーさんに代表されるような、よきもの、みたいな感じがあるのかな。クマのプーさんは、ちょっと、なんか、少し不思議な存在ですよね。おじさんでも、子どもでもないというか。

――生き物ではなくて、ぬいぐるみですしね。

酒井 そう、小さい子どものお友達ですよね。

――プーさんたちが暮らしている森については。

酒井 『クマのプーさん プー横丁にたった家』の表紙の絵で、木が株立ちになっています。子どもの頃、それをすごく不思議に思っていて。でもこれは薪をとった後の、新しい枝が伸びている状態なんですね。大人になってから、はあそういうことか、と思ったり。

シェパードはきっとここに通って、たくさんスケッチをしたのではないでしょうか。木の描写のリアルな感じとか、イギリスの田園風景ってこんな感じなんだろうなと、行った事がなくとも思わせられます。

――最後に、展覧会に対する期待をお願いします。

酒井 シェパードの原画が見られるなんて、すごくうれしいことなので、特にペン画と線画とか、ぜひ近くで見てみたいと思います。

――ありがとうございました。

「クマのプーさん」展によせて、酒井さんから描きおろしイラストが届きました!

酒井駒子

1966年生まれ、絵本作家。絵本に『よるくま』『はんなちゃんがめをさましたら』(いずれも偕成社)『ロンパーちゃんとふうせん』(白泉社)など、画文集に『森のノート』(筑摩書房)。『きつねのかみさま』(作・あまんきみこ、ポプラ社)で日本絵本賞、『金曜日の砂糖ちゃん』(偕成社)でブラチスラバ世界絵本原画展金牌賞、『ぼくおかあさんのこと…』(文溪堂)でピチュー賞(フランス)・銀の石筆賞(オランダ)、『くまとやまねこ』(文・湯本香樹実、河出書房新社)で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。『ゆきが やんだら』(学研プラス)はニューヨーク・タイムズの「2009年の子供の絵本最良の10冊」にも選ばれた。

2022年7月9日(土)ー8月28日(日)兵庫県立美術館 ギャラリー棟3Fで「みみをすますように 酒井駒子」展が開催されます!https://www.mbs.jp/event/page/komako_sakai_kobe.shtml