【絵本★百貨展インタビュー】手塚貴晴さん(建築家・空間構成)

「谷川俊太郎さんはデパートみたいな人」

PLAY! MUSEUMで開かれている「谷川俊太郎 絵本★百貨展」は、谷川俊太郎さんの絵本と多彩なクリエイターたちによるコラボレーションが見どころ。会場の空間構成を担当した建築家の手塚貴晴さんに話を聞きました。

手塚さんはPLAY! MUSEUMを設計し、併設されている子どもの屋内広場PLAY! PARKの館長でもあります。

取材・執筆:宮崎香菜
会場撮影:高橋マナミ
ポートレート撮影:高見知香

――個性豊かな8組のクリエイターによる展示の全体をまとめる立場でしたが、いかがでしたか。手塚さんはこれまでもPLAY! MUSEUMでは、「どうぶつかいぎ展」「柚木沙弥郎 life・LIFE」の空間構成も手掛けています。

手塚貴晴さん

手塚 私はみんなのお父さんみたいな立場で手伝わせてもらいました。PLAY! MUSEUMを設計したときも、いろいろな人がいろいろなことやりたくなる場所になるといいなと思っていたので。

今回は、もともと谷川さんが好きで、展覧会でも取り上げている『もこ もこもこ』(絵・元永定正 文研出版 1977)に興味を持っていたのもあって、とても楽しみにしていました。自分の子どもにもずっと読み聞かせていましたから。展覧会のために実際会ってみたらすごく気が合ったのも面白かった。

『もこ もこもこ』(作・谷川俊太郎、絵・元永定正)文研出版 1977年

――会場の入り口前のスペースにクラシックカーが置いてありますね。一体なんなのか、気になる人も多いと思うのですが。

手塚 あれは、シトロエンの2CVという車です。谷川さんは車が好きで、昔乗っていたというAZというタイプを探して置きました。1950年代に発売されたもので日本では非常にめずらしい車なんです。私もクラシックカーが好きなので、谷川さんと初めて会ったとき、車の話をたくさんしました。

――確かに、今回の展覧会で発表された、谷川さんが「あ」から「ん」まで好きな言葉を並べた新作「すきのあいおうえ」の「く」は「くるま」ですね。

手塚 はい。入り口に置いたのは、谷川さんの人格を表すのにちょうどいいと思ったからです。展覧会の話をするために、ご自宅に行ったら、“ガラクタ”がいっぱいあって、それがすごくいいなと。飛行機の模型とか、ミニカーとか、ごちゃごちゃっと置いてあって、こういうもので谷川さんができあがっているんだなと実感しました。それで、展覧会名にもなった「百貨店」というのを思いついたんですよね。デパートだ!って。

――今回の展覧会名は、百貨店を文字って「百貨展」としていますね。

手塚 しっかりと空間デザインしたほうがよい展覧会もあるけど、谷川さん自身がデパートみたいな人だから今回は統一しないことが大事だと考えました。私も東急プラザ渋谷というショッピングセンターのデザイン監修をしたことがあって、大きな枠組みをつくってたくさんの人に参加してもらったんですね。百貨店みたいに中で楽しいことがたくさん起きている感じが、今回の展覧会でもできたらいいと思ったので、細かく図面を引くのではなく、会場のコンセプトを決めて全体のディレクションをしました。

――出来上がっていかがでしたか?

手塚 思った通りにはなっていない。それがすごく大事なんです。開けてみてのお楽しみ。想像した以上のことが起きている。

――展覧会をつくる過程はいかがでしたか。たくさんの絵本をひとつの空間で見せるのは難しかったですか?

手塚 お話してみて、まず展覧会はこっち側がでしゃばらない方がいいなと思ったんです。谷川さんは一緒にやる人それぞれによって、できあがるものが違うんです。絵本は絵を描く作家がそれぞれいて、毎回見た目は全然違う。でも、どの作品にも谷川俊太郎の匂いが漂っています。会場でも谷川さんの朗読を聞くことができる展示がありますが、どの絵本も谷川さんのちょっと不気味な声がどこからか聞こえてきそうな雰囲気を持っているんですよね。それをどう空間で構成するか、すごく気にしました。コントロールしないことによって、多様性が出てくるみたいな。やりすぎないっていうのは、実はいちばん難しいですよね。

――趣味の話などを通じて、谷川さんと気が合ったことも何か空間構成に影響したのでしょうか。

手塚 ずっとお互い好きな車の話などをして、一緒に行った人たちがもういいんじゃないみたいな感じになってしまうくらいでした(笑)。でも、谷川さんはすごく楽しそうにしてくれて。それで、展覧会をやるときに大切にしようと決めたのは、谷川さんがこれは楽しいって思ってくれること。そのときも美しいこと、楽しいことが大切だと言っていたので、それだけは失敗しないようにやろうと思いました。

――そのときの楽しさは会場からも伝わってくる気がしますね。

手塚 谷川さんに、1960年代とか70年代のものが好きなんですか?って聞いたら、「手塚さん、それは違うよ」って言われたのが面白かったです。私自身はクラシックな車や時計が好きなのですが、谷川さんにとってそれらは当時の最先端で現在進行形で体験していたもの。好きの方向が違うんですよね。

それで、私は気づいたんです。私は過去のものをマニアックな視点で、なんだか宝石みたいにして見ているんだけど、谷川さんにとっては生きているものなんですよね。本当はものには興味がなくて、時代、時代にあったものを、そのまま楽しんできただけなんだそうです。例えば、古い車についてはリアルな体験を語ってくれたのが面白かった。谷川さんの人生そのものが車に詰まっているんです。それでね、だから谷川さんの作品って、その時代や背景が分からないとピンと来ないものがあるのだとわかりました。

――それはどういうことでしょうか?

手塚 例えば、自殺や戦争を扱った作品がありますが、その絵本が生まれたときには、やはりそういうことが起きている。そういう時代背景から生まれてきた作品なんです。谷川さんの絵本を振り返ると、なんだか歴史が見えてくることがあります。

――数々のバラエティ豊かな絵本が生まれたのは、その時々に出会った人や出来事が反映されているからなのですね。

手塚 そうなんです。それを展覧会でわかるように演出するかどうか迷いました。でも、放っておいても谷川さんの作品に時代背景がちゃんと織り込まれているので、やはりそういう演出は必要なかったですね。私たちは谷川さんの言葉ひとつひとつによって、知らず知らずのうちに作品が生まれた時代を訪れているんです。タイムマシーンに乗ったつもりで展覧会を見てくれたら嬉しいですね。

手塚 貴晴(てづか・たかはる)

建築家。手塚建築研究所代表。OECD(世界経済協力機構)とUNESCOにより世界で最も優れた学校に選ばれた 「ふじようちえん」を始めとして、子供の為の空間設計を多く手がける。 近年ではUNESCOより世界環境建築賞(Global Award for Sustainable Architecture)を受ける。手塚貴晴が行ったTEDトークの再生回数は2015年の世界7位を記録。 国内では日本建築学会賞、日本建築家協会賞、グッドデザイン金賞、子供環境学会賞などを受けている。現在は建築設計活動に軸足を置きながら、OECDより依頼を受け国内外各地にて子供環境に関する講演会を行なっている。その子供環境に関する理論はハーバード大学によりyellowbookとして出版されている。

TOPICS

「谷川俊太郎 絵本★百貨展」関連企画/2023年5月18日(木)−6月18日(日) OPEN:木・金・土・日の12:00−17:00
「谷川さんと粟津さんが絵本のなかでやろうとした、雰囲気をアニメーションに」
「谷川さんが、気持ちいいことばを追求した『ことばあそびうた』を、体感する展示に」
子どもから大人まで誰もが楽しめるおもしろい展覧会
谷川俊太郎の、絵と⾔葉の豊かな響きあいを味わう
企画展示「谷川俊太郎 絵本★百貨展」
「谷川さんが『にょき』と言った瞬間に、絵が動きだすのがおもしろい」
2023年6月17日(土)・18日(日)、7月1日(土)・2日(日)10:00-18:00/「谷川俊太郎 絵本★百貨展」関連企画
企画展示「谷川俊太郎 絵本★百貨展」
「谷川さんの言葉は、文字だけでなく伝わる音があって、そこまでが彼の言葉だと思いました」
「谷川さんは、相反することをひとつのものに表現していると感じました」
「俊太郎さんに『孤独を受け入れて、自分を愛でなさい』と、言ってもらった気がします」
「谷川さんが『とき』を絵本にしたら、どんなVR(バーチャルリアリティ)よりもVRでした」
「谷川さんは、変化する自分をたのしんでいて、絵本ごとにチャレンジしていると感じました」