junaida展「IMAGINARIUM」、はじまりました!

PLAY! 内覧会のようす

取材:内山さつき
写真:高見知香

2022年10月8日(土)、今、熱い注目を集める画家・junaidaさん初の大規模個展「IMAGINARIUM」が開幕しました。

プレス内覧会では、junaidaさん、PLAY! プロデューサーの草刈大介、会場グラフィック・広報物・図録デザインを担当したコズフィッシュの祖父江慎さん・藤井瑶さん、建築家で空間デザインを手がけた張替那麻さん、『怪物園』のアニメーションを制作した映像作家の新井風愉さんが登場し、展覧会への思いを語ってくれました。

浴びるように絵を楽しむ

草刈 PLAY! MUSEUMは今年3年目、今回で11回目の展覧会となります。これまでも「絵とことばのミュージアム」として絵本や漫画、さまざまな表現を紹介してきました。今回のjunaidaさんの展覧会では、416点の絵が飾られています。この展示には言葉をほとんど入れていません。浴びるように絵を見てもらうというのがコンセプトであり、見どころです。

junaidaさんの絵には、一枚の絵にどれだけ時間を費やせるんだろうかというくらい、いろんなことが隠れています。僕は展覧会を開催するときは、なぜ今なのかということを常に考えるのですが、なぜ今、junaidaさんなのか。ちょっと乱暴な言い方になってしまいますが、意味のあることばかり考えてしまうこの世の中で、junaidaさんの絵は、そうではないことにも価値があることを教えてくれる作品なんじゃないかと思っているんです。

すべてのものに意味があると考えると息苦しくなってしまうし、人間の楽しみ、喜びは本来そうではないところにありますよね。junaida作品には、そんな意味から解放してくれるものがあるんじゃないかと思っています。

junaida みなさんのおかげで、今の僕が表現できる最上のものが作れたと思っています。僕は本を作るとき、中身だけではなく「本そのもの」を作ることを大事にしていて、それは展覧会でも同じです。この展覧会は、展示空間、カフェ、グッズ、チケットやポスターなどの印刷物、すべてが大きなひとかたまりとなって、「IMAGINARIUM」という一つの作品となるよう考え作っていきました。来場者の方も作品の中に入ってその一部になる、そういう展覧会になるんじゃないかなと思っています。

では、展覧会会場に入ってみましょう。展覧会のメインビジュアルとなった絵について、グラフィックデザインを担当したコズフィッシュの祖父江さんと藤井さんが話してくれました。

コズフィッシュ(祖父江慎さん・藤井瑶さん)

祖父江 僕は、junaidaさんの絵には世界と自分との関係を確認させてくれるような何かがあると思っています。junaidaさんの絵が絵本となって二次元から三次元のものに展開したように、今回それがさらに空間、時間的に体感できる「展覧会」として展開したらどうなるだろうとすごく楽しみでした。

このメインビジュアルの後ろ向きの女の子は、絵本『の』に出てきた女の子と近いんですよね。メインの絵が後ろ向きって、面白い。この帽子の中にこの展覧会にあるもの、junaidaさんがテーマとしているものがいっぱい入っていると思います。

藤井 メインビジュアルの絵は最初下絵の状態で受け取りましたが、線画だけでもすごい密度で、一体どんな色になるんだろうと楽しみでした。junaidaさんは絵本を作るときはいつも、本と原画のサイズが同じなんです。だから、今回ポスターやチラシ、チケットなどいろいろな大きさで刷るこの絵は、これまでで一番原画のサイズ展開の幅が広いものになるなと思いました。

草刈 junaidaさんはメインビジュアルについて、注目してほしいことはありますか?

junaida展「IMAGINARIUM」メインビジュアル 絵の仕上がり位置

junaida 絵の仕上がり位置の部分です。ここは通常だったらトリミングして隠れてしまうところなので、表に出るとは思わないで描いている部分なのですが、無意識だからこそ生まれる美しさが感じられる部分だと思っています。それをポスターなどの印刷物に残して共有することで、これは原画展のポスターですよ、というメッセージが感覚的にも伝わっていたらうれしいです。

循環、円環する宮殿のような空間

今回の展覧会は、junaidaさんの作品世界を表現するために、普段のPLAY! MUSEUMとは少し違った空間作りとなっています。空間デザインを手がけた建築家の張替那麻さんは、どのようにこうした空間を作り上げたのでしょう?

張替 PLAY! MUSEUMの持つ空間の魅力を引き出しながら、junaidaさんの作品の魅力と重ね合わせられたらと思いました。junaidaさんの絵は緻密で、繊細で、それから構造的な部分を持っているのが特徴だと思います。

絵本『の』では、絵と言葉が入れ子のように連続していく構造が、『Michi』では、左から読む物語と右から読む物語が繋がっていく構造があります。一方、PLAY! MUSEUMは、木の壁がひと繋がりになっていて、奥にいくと楕円の部屋がある構造。それを活かしながら、円環、循環的な構造も持つjunaidaさんの絵本の中を空間的に体感できるようにと考えながらデザインしました。

junaida 最終的に、「交錯の回廊」「浮遊の宮殿」「残像の画廊」「潜在の間」という4章構成となって、それぞれの空間をたどっていくことで一つの物語になるような展覧会になったと思います。

怪物たちの世界に入り込む

PLAY! MUSEUMの特徴である大きな楕円の部屋に入る前に、来場者の目を引くのが『怪物園』の怪物たちが行進していくアニメーションです。制作を担当した映像作家の新井風愉さんに聞きました。

新井 junaidaさんから、少し暗いところを通った向こう側に別の空間が開けている、そんな場所に『怪物園』の怪物たちのアニメーションを入れたいというプランを聞いたとき、そこを通る人たちがどう感じるかは、もうjunaidaさんの中にあるんだろうと思いました。そこで子どもの頃、暗い廊下を通ったときの気持ちなどを思い出しながら、怪物たちがここに実際にいると思えるにはどうしたらよいか考えていきました。

最初は怪物たちが白い光の中を影になって歩いています。そこに来場者の影が重なり、暗い空間に入ると色がついてきて、自分も怪物たちの世界へ入っていく、そんな感覚になったらいいなというふうにアイディアを進めていきました。

草刈 いろいろ仕掛けもあるんですよね?

新井 怪物たちはそれぞれのキャラクターに合った歩き方をするよう、3人のアニメーターで作っていきました。たまごの殻をかぶった小さいやつは、ちょこちょこ歩いていたり、怪物たちの目が実は動いているとか。

junaida 出来上がったアニメーションを初めて見たときは、絵が、動いてる!と本当に感動しました。

草刈 ここで改めて今回の展覧会のタイトル「IMAGINARIUM」の由来を教えてください。

junaida 僕のどの作品にも通じる「想像」という意味の「イマジン」「イマジネーション」と、「アクアリウム」「プラネタリウム」など博物館的な建物に使う「〜リウム」をミックスして「IMAGINARIUM」という言葉にしました。自分でたどり着いた言葉ですが、調べたら元からあった言葉だったので造語ではありません。

印刷を経ることで変化する作品の楽しみ

その「IMAGINARIUM」の世界を、印刷を通して体感できるのが展覧会の図録です。どのようなコンセプトで作られたのか、コズフィッシュのふたりに聞きました。

祖父江 junaidaさんは、絵本ではできないことをやりたいとおっしゃっていたので、この図録では絵のサイズやインクを変えることで、絵がどのように見えていくのかということに挑戦しています。

藤井 例えば絵を部分的に拡大したり、絵本ではできない切り取り方をしています。また全200ページ中、16ページだけ黒い紙に印刷した部分があります。『UNDARKNESS』という画集の作品が収録されている箇所なのですが、通常黒い紙にCMYKで印刷すると、潰れて見えなくなってしまうんです。そこで、ここでは試行錯誤の末、銀+銀+CMYK+ニスの7色を使っています。すでに本を持っている人も、全く違った楽しみ方ができるものになっているのではないかなと思います。

草刈 この会場に流れる音楽もjunaidaさん作なんですよね。それからグッズやカフェメニューについてもひと言お願いします。

junaida 音楽は自分で演奏しています。初日には間に合わなかったのですが、レコードにするべく今プレス中です。(追記:10月18日(火)に販売開始しました!)展覧会グッズも自分の作品のように考えて作りました。クオリティが高くてわくわくするようなものがたくさん集まりましたし、カフェのメニューも、写真を撮りたくなる楽しくて美味しいものができたと思います。

この展覧会は作品数も多いですし、じっくり見ると足が疲れてしまうと思うので、一度カフェで休んでそれからもう一度見るとか、いろいろな楽しみ方をしてもらえたらいいなと思います。

junaidaさんの作品世界に没入できるjunaida展「IMAGINARIUM」。作り手の熱量とこだわりとがひしひしと伝わってくる、美しい展覧会です。どうぞお見逃しなく!

junaida(ジュナイダ)

作家。1978年生まれ。京都在住。Hedgehog Books代表。『HOME』(サンリード)で、ボローニャ国際絵本原画展2015入選。第53回造本装幀コンクール・日本書籍出版協会理事長賞(児童書・絵本部門)を『Michi』(福音館書店)が受賞。翌年に同賞を『怪物園』が受賞。ミュンヘン国際児童図書館発行の「ホワイト・レイブンズ-2021」に『怪物園』が入選。最新刊に『EDNE』(白泉社)、近著に絵本『Michi』『の』『怪物園』『街どろぼう』(いずれも福音館書店)、画集『UNDARKNESS』(Hedgehog Books)など。

張替那麻(はりかえ・なお)

建築家。デザイン会社DRAFT、藤本壮介建築設計事務所を経て、2016年 クリエイティブスタジオHarikeを設立。建築やインテリア、展覧会のデザイン、ブランドの企画から空間にわたるディレクション、自社によるファッションブランドHarikaeのプロデュースなど多岐に活動を展開。主な仕事に、K保育園、クリスチャンダダ南青山店、JINSあべのウォーク店、資生堂のスタイル展、和田誠展等。JID日本インテリアデザインアワード、空間デザインアワード等受賞。

コズフィッシュ

祖父江慎 (そぶえ・しん)
すべての印刷されたものに対する並はずれた「うっとり力」をもって、ブックデザインの最前線で幅広いジャンルを手がけている。コズフィッシュ代表。著書『おはようぷにょ』(ぺぱぷんたすBOOK小学館)が絶賛発売中。

藤井瑶 (ふじい・はるか)
ブックデザインを中心に、展覧会の広告物や空間グラフィックなどを手がける。2015年よりコズフィッシュ在籍。junaidaさんとの仕事では『の』『怪物園』『街どろぼう』(すべて福音館書店)『EDNE』(白泉社)などのデザインを担当。

新井風愉(あらい・ふゆ)

映像作家。武蔵野美術大学映像学科卒。広告映像を中心に、展示映像などさまざまな映像を手がける。主な受賞に、文化庁メディア芸術祭新人賞、アヌシー国際アニメーション映画祭広告部門クリスタル賞など。

草刈大介(くさかり・だいすけ)

朝日新聞社勤務を経て、2015年に展覧会を企画し、書籍を出版する株式会社「ブルーシープ」を設立して代表に。PLAY! MUSEUMのプロデューサーとして展覧会、書籍のプロデュース、美術館や施設の企画・運営などを手がける。

TOPICS

光も闇も引き連れて 絵筆に灯る 想像と空想
2022年10月8日(土)―2023年1月15日(日)
企画展示 junaida展「IMAGINARIUM」
2022年10月8日(土)―2023年1月15日(日)
2022年11月5日(土)19:00−20:30/junaida展「IMAGINARIUM」関連イベント