junaidaさんの作品世界を体感できる展覧会「IMAGINARIUM」。junaidaさんご自身に展覧会ができあがるまでと、作品を作る上で大切にしていることを聞きました。
取材・執筆:内山さつき
会場撮影:白石和弘
ポートレート撮影:高見知香
―まず、この展覧会の企画が決まるまでのことを教えていただけますか?
junaida これまで絵本を出したり、個展を開いたりしている中で、いつか美術館でも展覧会をやってみたいという気持ちはずっとありました。もともとブルーシープ(PLAY! MUSEUMの展覧会企画・制作を担当)が手がける展覧会からは、デザイン面や図録に対するいろいろな意識の深さみたいなものを感じていました。
僕自身、ものを見せていくことにじっくり時間をかけるし、神経を使っていくので、そこを共有していける人たちじゃないと一緒にやれないのではないかと思っていたので、展覧会をやるならブルーシープと一緒にできたらいいなと思っていました。
―今回の展覧会は、言葉がほぼないというのも印象的ですね。
junaida それは僕が提案したことなのですが、意見を尊重してもらえてありがたかったです。僕としてもPLAY! は「絵とことばの美術館」という認識がありましたから。でも言葉って、どんなふうに使うかだけではなく、どれだけ使わないで表現するか、という考え方もあると思うんです。
今回は全く言葉を入れないのはどうなのか、というところから話し合って、一番効果的に絵や言葉が響き合う見せ方を探って、今の形に着地したという感じです。そしてそれはすごく成功していると思います。
―416点という原画の展示点数は、どうやって決めたのですか?
junaida 絵をたくさん見せたいというのは最初からありました。僕は絵本も出版していますが、画家、絵描きがベースだと思っています。なので、ビジュアルの雄弁さを信じている。
僕は「絵は読める」ものだと思っていて、描かれたものを目で追い、その世界に入り込むことで、オーディエンスの内面に言葉は生まれるのではないかと感じています。それに絵本は、1冊に描かれている絵全部で「大きな一枚の絵」という感覚があるので、展示用に数点ピックアップするようなことはしたくなかった。最初、何も考えずに選んでいたら、600点以上になってしまって。そこから減らしていったのですが、これ以上減らせないというのが、ここに展示してある416点でした。
―イラストから絵本づくりに移行したとき、表現の仕方に変化はありましたか?
junaida 大きな変化はないです。僕にとっては、空想や想像するための遊び道具のような感じで、絵で別の世界に行くのが好きなんです。小説などを読んだときに情景が思い浮かぶように、絵を見たときに言葉や連想する何かが思い浮かぶ。それが「絵を読んでいる」ことだと思います。一枚の絵でもできるし、絵本ではそれを1冊の本でやるということ。でも、どちらにしても読者や見る人が、いつも自分を入り込ませることができる余地を残すのは意識していて、そういう余白が感じられるように描いています。
junaida展「IMAGINARIUM」 junaida展「IMAGINARIUM」
―密度の高い絵を描く中で、どんなふうにその余白を意識しているのでしょう?
junaida 感覚的なことですが、僕は何かを断定したくない、いろいろなことを曖昧なままにしておきたい。それは絵に限らず、僕という人間のあり方なのかもしれないけど、これは絶対にこうだということを作品で表現したくないんです。受け手が好きなように解釈したり、想像したりすることができるものを作りたい。それは展覧会でも同じで、この展覧会が何か具体的なメッセージを発信しているということではなく、作品と対峙したとき、「その人と作品の間に芽生える何か」が大事なことで、僕が一番興味のあることです。
―今回展覧会に関わったいろいろな方のお話をお聞きしていますが、みなさんjunaidaさんの絵には、「明るい」と「暗い」とか、「かわいい」と「こわい」とか、相反するようなものが一枚の絵に描かれている魅力があるとおっしゃっています。
junaida それは嬉しいですね。自分の中にずっとある感覚としては、表現するものの中に、たとえば「あたたかさ」と「冷たさ」が一枚の絵の中に半分ずつあったとしても、「ぬるくない」ものにしたいということ。どっちもあって混ざり合っているんだけど、互いを引き立て合うものでありたい。
闇を描こうと思えば、明るいものがないと描けないし、「やさしい」「あたたかい」を描こうと思ったら、「怖い」や「つめたい」ものがないと感じられないですよね。どちらかだけでは薄っぺらいものになってしまう。それがどちらなのかは、受け手が決めてくれればいいと思います。その人次第でよくて、そこを断定しないように描いているのだと思います。
―メインビジュアル用に描きおろされた3枚の絵のイメージは、「IMAGINARIUM」というタイトルが決まったときからありましたか?
junaida 最初から後ろ姿の子どもっていうのはおぼろげにあって、いろんな子を描きました。結果、王冠と仮面の子が残りましたが、6枚構想の時期もありました。そして、これは図録のインタビューとも重なりますが、この3枚は僕を形成している3つの要素でもあります。でも、それが何なのかは見る人が感じてもらえたらそれでいいと思います。
―絵でも言葉でもどちらでもないものを大切にしていると以前のインタビューでもおっしゃっていましたね。
junaida 言葉は強いものなので、言葉として一度外に出したらそれが形を持ってしまいます。一方絵も同じで、描いて形を与えてしまったら、それまで自由にうごめいていたイメージはそれ以上の変化を起こさなくなってしまいます。でも外に出さないと、そのイメージを誰かと共有したりできないので、絵を描くし、言葉を発するし……。
―表現する人の究極の矛盾とも言えますね。
junaida 自分でも不思議だなと思うんです。でも、展覧会に寄せたステートメントにも書いたんですけど、何かを表現するとき、同時に別の何かを得ている気もするんです。全部手放してしまうのではなくて、表現したことによってまた何かが入ってきて、その循環がずっと続いているんじゃないかと。それが何なのかは、まだわからないんですけど。
junaida展「IMAGINARIUM」会場 junaida展「IMAGINARIUM」会場
―「循環」や「円環」は作品世界にも通じるイメージですね。これから観に来るお客さんになにか呼びかけるとしたら?
junaida 月並みな言い方になってしまいますけど、ただただ観に来てください!ということに尽きます。設営がすべて終わった夜、初めての個展のときのことを思い出して、あのときは本当に小さなボートでわけも分からず船出したのが、「えらい大きな船になったな」と思いました。でも、どれだけ船が大きくなっても、やっぱりそれはお客さん、見てくれる人という「風」がなければ動かない「帆船」なんです。
観に来てくれさえすれば、きっと何か面白いことが起こる。「IMAGINARIUM」の扉を開けて、体験して、そこから出た後、その人の中の何かが変わっているんじゃないか、そうだといいな、と思います。
展覧会というのはその時期その場所でその瞬間しか体験できない、ある意味とても儚いものです。立川に出現した「IMAGINARIUM」は、今僕ができる最上のものになっています。ぜひこの空間を体験しに足を運んでもらえたら嬉しいです。
展覧会図録『IMAGINARIUM』にもjunaidaさんのロングインタビューを掲載しています。是非合わせてご覧ください。
junaida(ジュナイダ)
作家。1978年生まれ。Hedgehog Books代表。『HOME』(サンリード)で、ボローニャ国際絵本原画展2015入選。第53回造本装幀コンクール・日本書籍出版協会理事長賞(児童書・絵本部門)を『Michi』(福音館書店)が受賞。翌年に同賞を『怪物園』が受賞。ミュンヘン国際児童図書館発行の「ホワイト・レイブンズ-2021」に『怪物園』が入選。最新刊に『EDNE』(白泉社)、近著に絵本『Michi』『の』『怪物園』『街どろぼう』(いずれも福音館書店)、画集『UNDARKNESS』(Hedgehog Books)など。