【junaida展インタビュー】 映像作家・新井風愉さん

「不気味でかわいい、怪物たちの世界に入り込む」

画家・junaidaさんの大規模展覧会「IMAGINARIUM」で、話題の一つとなっているのが、絵本『怪物園』(福音館書店)の怪物たちのアニメーションです。来場者の心をとらえるこの3分弱のアニメーションのディレクションを手がけた、映像作家の新井風愉さんに制作秘話を聞きました。

取材・執筆:内山さつき
会場撮影:白石和弘
ポートレート撮影:高見知香

新井風愉さん

100匹以上の怪物たちが、アニメーションで大行進!

―『怪物園』の怪物たちをアニメーション化するという企画を聞いたとき、どんなことを思いましたか?

新井 率直に『怪物園』の怪物たちがたくさん動いていたら面白いだろうな、と思いました。企画をいただいたとき、展覧会の最初の部屋から、次の大きな空間に行く途中の薄暗い廊下に怪物たちがいるという空間設計も合わせて伺ったので、すぐにイメージが湧きました。来場者の方たちに「わ、怪物たちがいる!」と驚いてもらえたらと。

―100匹以上いるという怪物たちですが、一つ一つ歩き方が違って、それぞれ個性が感じられます。そうした動きはどのように作っていったのですか?

新井 それはもう、junaidaさんの絵にすでに怪物たちの個性が描かれていたので、これはきっとこういう動きだろうとイメージしやすかったんです。この怪物は肩をいからせてゆっくり歩いているんだろうな、とか、この怪物はちょこちょこ歩いているんだろうな、とか。絵に描かれているそれぞれのキャラクターを延長する感じで、自然に動かしていきました。僕はディレクション担当で、実際動かしているのは3人のアニメーターなのですが、みんなともすんなりイメージが共有できました。

junaida展「IMAGINARIUM」会場

―実際に動かしてみて分かったことはありますか?

新井 最初はみんな一斉にリズムをつけて頭を揺らして歩く、という動きをつけたのですが、最終的にはそれは少し抑えました。手前をちょこちょこ歩いている小さな怪物がいますが、それは首を揺らして歩いている姿がかわいらしかったので、おおげさに首を揺らしています。単に歩くだけでなく、少しイレギュラーな動きも入れています。

大きいものはゆっくり目線を固定させて動いているだけで、不気味な感じが出たことも良かったです。

―最終的には壁に直接投影されていますが、最初は布に投影してみるなど、試行錯誤を繰り返したと伺いました。

新井 四角いスクリーンを作ってそこに投影することは最初から考えていなかったのですが、見えにくい可能性があると思い、半透明な白い布を壁に垂らして投影することもやってみました。それはそれでお化けっぽくて楽しかったのですが、いろいろ試していく中で、壁にそのまま投影した方がいいということになりました。絵が壁の木目に重なるので少し印象が弱くなるのですが、逆におぼろげな感じが想像力を掻き立てて。

―観客とも一体感がありますね。まるで怪物たちと一緒に歩いているみたいな……。

新井 そこが今回の肝の部分なんですよ。最初にjunaidaさんから、怪物たちと来場者の人たちが一緒にいるような気持ちになれる仕掛けをしたいと聞いていました。鏡を使うアイディアなども出ていたのですが、プロジェクターで映像を投影する事を前提に考えていくうち、アニメーションのはじめは光の中に怪物たちのシルエットだけが見えるというアイディアが生まれました。

新井 そこに来場者の影も重なっていくことで、実際に怪物たちがいるような気持ちになれるのではないかと。それにだんだん色がついていくことで、現実の世界から自然に怪物たちのイマジネーションの世界に吸い込まれていくような感じを出せたらと思いました。

光の当て方にもこだわりました。どの角度からどの強さで当てると、人間の影の大きさと怪物の大きさが合うのかを意識しながら、ちょうどいい明るさになるように映像とスポットライトの明るさを調整しています。スポットライトにはビニールを貼って、ちょっとぼやっと薄い感じに光を拡散させました。

何度でも繰り返し見たい、楽しい仕掛け

―楽しい仕掛け、面白い動きなどもたくさん取り入れられていますね。気づくと嬉しいポイントをいくつか教えてください。

新井 はい、もう全部言っちゃいます(笑)。まず、『怪物園』の表紙といえば、一匹だけ透明な怪物がいるのをご存知ですか? 通称「透明ちゃん」なのですが、もちろんこのアニメーションの中にもいるんですよ。どこにいるのかぜひ探してほしいなと思います。

「透明ちゃん」は、絵本では輪郭を描かずに、光の反射で見えるというような仕掛けになっています。それを映像ではどうやって再現しようかと考えました。映像では光の反射の代わりに、光の屈折で見えるような感覚になるよう作っています。

『怪物園』のもう一つの主役とも言える子どもたちも、もちろん出てきます。絵本とは違うポーズで怪物たちの中に紛れていて、隠れたり、しばらくするとまたどこかから出てきて何かしたりしているので、その動きも追ってみると楽しいと思います。

―小さな怪物の動きもかわいらしいですね。

新井 小さいたまごの怪物は、途中で立ち止まってキョロキョロしたり、ボーッとしたり、イレギュラーな動きをしています。子どもたちが出てきて、「わ!」とびっくりして急に走り出したり。

それから、怪物の頭から出ている炎の動きや旗のはためく様子は、手描きで細かく手を入れている部分なので、アニメーションが好きな人はぜひ注目していただけたら。

―一度見るだけでは、見逃してしまうくらい細かい仕掛けがたくさんありますね。

新井 そうですね。僕は作り手側ということもありますが、何回見ても飽きないです(笑)。そうそう、意外と気づかないのですが、怪物たちが一瞬、みんなでギョロッとこちらを見る瞬間もあるのでそれもお見逃しなく。

―怪物たちの歩いていく音も印象的ですね。

新井 絵本の中で怪物たちは夜の石畳の街を歩いているので、基本的には不気味な感じのゾロゾロゾロ、ドロドロドロという音にしています。それに加えて、いろいろな怪物たちの足音――、たとえば足の形もぬめぬめしたなめくじみたいなのや、三角の金属でできているようなのもいるので、そうしたそれぞれのキャラクターの質感に合わせた音を、隙間隙間で聞こえてくるように入れています。

junaida展「IMAGINARIUM」会場

―制作する上で大変だったことはありますか? また、制作期間はどれくらいですか?

新井 とにかく怪物たちの数が多いので、それをしっかり作っていくというのが単純に大変でしたね。物理的にパソコンが重くなるというような。制作期間は1ヶ月半から2ヶ月くらいかなと思います。

―出来上がったものをご覧になってどうですか?

新井 人間の視野角より広いところに投影されると、ディテールに目がいくのと同時に、包まれているような感じになりますね。投影する壁が湾曲しているので、余計に囲まれているような感覚になり、想像以上に迫力が出ました。

また、おぼろげな光で投影したことによって、ぼんやりとした空気感が「不気味」と「幻想的」の間のような効果を出せたのも良かったです。

―ここで改めて、junaidaさんの作品の魅力について聞かせてください。

新井 junaidaさんの絵は緻密であるがゆえに、一つ一つのディテールに愛を感じます。『怪物園』の絵も一見怖い、不気味なものを描いているのですが、よくよく見るとその中に「かわいらしさ」があるんですよね。怪物たちそれぞれがチャーミングで、「実はそんなに悪いやつじゃなさそう」と思えるような。

反対にきれいな絵や明るい絵には、その奥底に「怖さ」や「ちょっとひやっとする感じ」があって、相反するものが同時に存在する、そういうところにも惹きつけられます。

junaida展「IMAGINARIUM」会場

―このアニメーションには、新井さんやアニメーターの方々の愛を感じますね。この作品は、展覧会会場だけでしか見られないのですよね。

新井 はい、なのでぜひ会場で見てほしいです。写真や動画で見るのとは全く印象が違うので、ぜひ怪物たちの世界に入っていくような感覚も体験していただけたらと思います。

新井風愉(あらい・ふゆ)

映像作家。武蔵野美術大学映像学科卒。広告映像を中心に、展示映像などさまざまな映像を手がける。主な受賞に、文化庁メディア芸術祭新人賞、アヌシー国際アニメーション映画祭広告部門クリスタル賞など。

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「今僕ができる最上のものができた。」
募集期間:2022年11月14日(月)ー2023年1月15日(日)
2022年10月8日(土)―2023年1月15日(日)
2022年10月8日(土)―2023年1月15日(日)
「絵をじっと見て、その絵の中のものになりきってみる。」
企画展示 junaida展「IMAGINARIUM」
光も闇も引き連れて 絵筆に灯る 想像と空想
「普段のPLAY! MUSEUMとは違う空間体験を楽しんでもらえたら」