【junaida展インタビュー】 junaidaさん、グラフィックデザイナー・コズフィッシュ 祖父江慎さん、藤井瑶さん
『の』『怪物園』『街どろぼう』(すべて福音館書店)など、美しい装丁もたびたび話題になるjunaidaさんの絵本。
2019年の『の』以降、junaidaさんの本のデザインを担当しているコズフィッシュの祖父江慎さんと藤井瑶さんは、本展覧会のグラフィックデザインも手がけています。祖父江さん、藤井さんの二人とjunaidaさんで、本作りや展覧会の広報物について語っていただきました。
取材・執筆:内山さつき
会場撮影:白石和弘
ポートレート撮影:高見知香
―お互いの作品の第一印象を教えてください。
junaida 僕が祖父江さんのお仕事を最初に意識したのは、『トーベ・ヤンソン・コレクション』(筑摩書房)でした。帯の色や本のたたずまいが素敵だな、どなたのデザインだろうと思ったら祖父江さんで、そのときからいつかお仕事をしたいとずっと思っていました。
最初にデザインをお願いした絵本『の』は、僕の絵本ではテキストが入る初めての本で、言葉を扱うとなったときに最初に思い浮かんだのがコズフィッシュでした。
祖父江 僕は初めて『Michi』(福音館書店)を見せてもらったとき、一見すると本にプロフィールが書いていなかったので、どんな人が描いたんだろう、相当画力もあるしこれは海外の結構な年配の人なのかなと思ったんですよ。
藤井 女性か男性かも謎に包まれてて。予想が全部外れましたよね(笑)。
チーム感のある本作り
―毎回どんな風に絵本作りを進めていくのですか?
junaida 最初は僕の中にあるぼんやりとした形のものを二人にシェアして、だんだんピントを合わせていく感じです。僕が「あっちの方」と言って、みんなでそちらを向いて、レンズの焦点を合わせてくような。
祖父江 junaidaさんの絵本の作り方は、その絵本のイメージに対して、自分は何を用意しよう、という向き合い方が独特で面白いんです。絵を描き終わったら終わりなのではなく、その絵からどういう本が立ち上がってくるかを探っている。色や触り心地、重さも含めて考えて作っていて、時としてデザイナーよりもデザイナー的な視点があって驚いています。
藤井 junaidaさんから新しい本のアイディアをお聞きする時、「まだ姿形はわからないけど、これはまた絶対にすごい本になるぞ」という予感があります。「こういう場所に行けば、こんな景色が見られるかもしれない」というような、イメージの芯みたいなものがjunaidaさんの中にふつふつとあるんです。そこから打ち合わせを重ねてお互いのイメージを共有していって、物質としての本の輪郭を探っていく感じです。
祖父江 それに予想外のことが起こったときの反応も面白いんです。思ってもみなかったことを、さらに思ってもみない面白さに持っていく力がある。事態がjunaidaさんを軸に予期しない進化をしていくというか。
―今回の展覧会図録『IMAGINARIUM』でも予期しないことは起こりましたか?
藤井 図録の後半に16ページだけ黒い紙に印刷されたページがあって、ここが一番山場でした。黒い紙に絵を4色(CMYK)でそのまま刷っても見えないので、紙地の黒をおさえるために先に銀インキで隠蔽するのですが、とにかく印刷条件が白い紙とまったく違うんです。junaidaさんの絵のディテールや立体感、色をどうやったら出せるか、印刷所のプリンティングディレクターの方とも相談しながらタイムリミットぎりぎりまで試行錯誤を繰り返しました。
祖父江 なかなか思ったように色が出なくて、全員が途方に暮れてしまったこともありました。でも、そのあとでプリンティングディレクターの方にお会いして、「どうですか?」って聞いたら、目をキラキラさせて「まだはっきりとは言えないんですが、いけそうな気がしてるんです」と。それでもう、大丈夫だと思った。
藤井 どうなったかというと、もともと銀+CMYKの5色刷りのプランだったのが、最終的に銀+銀+CMYK+ニスの7色で刷られています。黒い紙にあわせた独特な製版になっているので、そのデータをもし普通の白い紙に刷ったとしたら、全然違った見え方になっているはずです。
junaida 印刷所のみなさんも僕らが思っていた以上のことを考えたり実践してくれたりして、職人魂を見るようでしたね。
藤井 junaidaさんとのお仕事は、“チーム”という感覚が強いなと思います。それぞれの領域を信頼して委ねつつも、お互いに意識が向き合っていてチームの関係性がいい。
祖父江 編集者はじめ、いろいろな人たちが本の行方を見守りつつ、良い方へ向けてくれることが多いですね。
藤井 junaidaさんの大きな情熱が真ん中にあって、それによって物事がわくわくする方へドライブしていくな~と毎回感じてます。
すぐに冒険に出られる人
―コズフィッシュのお二人は、本作りのどの段階から参加するのですか?
junaida 僕はできるだけ、絵本のサイズと同じ大きさで原画を描きたいので、割と最初の段階で、本のサイズも含めて打ち合わせします。その過程で大きさや内容も変わったりするし……。
―打ち合わせの内容が本の内容に及ぶことも?
junaida そういう場合もあると思います。割と流動的というか……。
藤井 時間をかけて作ってきたものを、変化させたり別の方向へ舵を切ったりすることは、なかなか怖いというか勇気がいると思います。
junaida うん、でもそれは、このチームの信頼感があるからできていることなのかもしれない。
藤井 今年発売された『EDNE』(白泉社)はより感覚的なところからのスタートでしたね。
junaida 『EDNE』は、企画編集の段階から一緒にやってもらった感じでしたね。内容も変わっていきました。最初は自分自身でも掴みどころがない感じがしていたので、まずコズフィッシュの二人と話したいということを編集者に伝えて、早い段階から入ってもらいました。
祖父江 junaidaさんは、いつも「これが最後の作品」という気持ちで挑まれているので、新しい絵本作りのお話があるたびにときめいてしまいます。『EDNE』も、いきなり画材を変えてポスターカラーで描いたと聞いて、びっくりしました。
junaida それまでは基本、透明水彩とガッシュで描いていましたが、『EDNE』を描くとき、今までの画材よりも重たい感じの絵にしたかったんです。とくに試し描きすることもなく、一枚目からポスターカラーで描いていきました。
藤井 サインの話も印象的でした。今回、図録をデザインしていてjunaidaさんのサインが2種類あることに気づいたんです。初期の作品に見られるブロック体のサインと、現在使われている筆記体のサインと。
いつ頃変わったんですか?と聞いたら、画集『THE ENDLESS WITH THE BEGINNINGLESS』(Hedgehog Books)に収録されている作品のうち、ある絵(展覧図録p170-171に掲載)を描いたときに、ふと「この絵に似合うのは今までのサインじゃないな」と感じたそうなんです。そういった変化が訪れる瞬間をはっきり捉えていたというのがjunaidaさんらしいなと。
祖父江 junaidaさんは練習しなくてもすぐいろいろなことができちゃう。一度やったことはあまり繰り返したりされないので、新しく本作りが始まると、「また新たな冒険が始まるぞ」というわくわくする気持ちにさせてくれます。そして「冒険に行こう!」となったら、すぐに出かけられる人なんですよね。
印刷物を通して展覧会を楽しむ
―今回の展覧会では、チラシやポスターなどの印刷物にも紙の種類などにこだわったそうですね。
junaida 同じ絵、近いデザインであっても、用途やサイズでふさわしいものはやっぱり違うので、ポスターとチラシとハガキとでは、すべて紙を変えています。
藤井 ツールによって受け取り手と絵の距離感が変化しますよね。壁に貼られていて少し離れたところから見るポスターと、手に取るチラシと、さらに小さな招待券と。
たとえば、今回、チラシはツヤっとしたグロス感のあるややしっかりめの紙、反対にポスターは落ち着いたマット調の紙、招待券は小さいながらも存在感が生まれるように厚手のカード紙を選んでいます。
―来場者におみやげとして渡される「ウェルカムカード」も素敵ですね。
junaida これはブルーシープ(PLAY! MUSEUMの展覧会企画・制作を担当)の担当の方も含めて、みんなでどういうものだったら喜ばれるか相談して作ったんですよ。
藤井 そうしたら打ち合わせが終わったその日のうちに、junaidaさんがカード用の絵を描いてくださって。
junaida できあがったときの喜びにたどり着く方法が「新しく描く」のだったら、それはやっぱり描きますよ。
祖父江 でも全く時間がないような状況であっても、自分の頭の中のチャンネルを切り替え、描き下ろしに向かうために心の準備ができちゃうって、すごいことだと思うよ。
junaida うーん、なんか僕、ずっとオンなんですかね。オフになっていないのかな。
祖父江 ちょっとはオフになった方がいいよ(笑)。でも、その姿勢をぼくも見習わなきゃと思っているんです。
junaida 今回の展覧会のポスターやチラシなどは、デザインもさることながら紙のチョイスが絶妙だなと思います。どれもふさわしいものになっていると。もちろん選べる条件の中で選んでいるのですが、でも「これにはこれしかない」というようにぴったりに感じられるのは、とても幸福なことだなと思っています。
祖父江 junaidaさんには、「そのものがそのものであること」への敬意があるんだよね。たとえばチラシならチラシらしく、どういうものなら美しいか、大切にしたいと思えるか。そのデリケートさと大胆さが素晴らしいところだと思います。
junaida 僕の本には色んな種類の紙が使われていたり、装丁も凝っていたりするので、僕が印刷物好きだと知ってくださっている方も多いかと思います。図録やポスター、チラシやハガキなど、同じ絵でも異なる媒体として作られたときの表情の違いなども楽しんでもらえたら嬉しいです。
junaida(ジュナイダ)
画家。1978年生まれ。Hedgehog Books代表。『HOME』(サンリード)で、ボローニャ国際絵本原画展2015入選。第53回造本装幀コンクール・日本書籍出版協会理事長賞(児童書・絵本部門)を『Michi』(福音館書店)が受賞。翌年に同賞を『怪物園』が受賞。ミュンヘン国際児童図書館発行の「ホワイト・レイブンズ-2021」に『怪物園』が入選。最新刊に『EDNE』(白泉社)、近著に絵本『Michi』『の』『怪物園』『街どろぼう』(いずれも福音館書店)、画集『UNDARKNESS』(Hedgehog Books)など。
コズフィッシュ
祖父江慎 (そぶえ・しん)
すべての印刷されたものに対する並はずれた「うっとり力」をもって、ブックデザインの最前線で幅広いジャンルを手がけている。コズフィッシュ代表。著書『おはようぷにょ』(ぺぱぷんたすBOOK小学館)が絶賛発売中。
藤井瑶 (ふじい・はるか)
ブックデザインを中心に、展覧会の広告物や空間グラフィックなどを手がける。2015年よりコズフィッシュ在籍。junaidaさんとの仕事では『の』『怪物園』『街どろぼう』(すべて福音館書店)『EDNE』(白泉社)などのデザインを担当。