【junaida展インタビュー】 PLAY! プロデューサー・草刈大介

「意味を探すことから解放してくれる、junaidaさんの絵」

PLAY! MUSEUMで開催中のjunaida展「IMAGINARIUM」。展覧会が出来上がるまでについて、PLAY! プロデューサーの草刈大介に話を聞きました。

取材・執筆:内山さつき
会場撮影:白石和弘
ポートレート撮影:高見知香

草刈大介

junaidaさんは根っこの部分が共有できる人

―junaidaさんの展覧会を開催するに至った経緯を教えてください。

草刈 福音館書店編集者の岡田さんに初めて会ったとき、junaidaさんが『Michi』(福音館書店)の絵を描いている動画を見せてくれたんですよ。岡田さんとは初対面だったのに、とても熱心に。そして、junaidaさんの展示をやりたいんです、と語っていました。それからしばらくして、岡田さんが今度は『怪物園』(福音館書店)のゲラを見せてくれて。その間に『の』(福音館書店)は、自分で買って読んでいて、junaidaさんという作家はいろんな引き出しがあるんだなと思っていました。

そのうちに岡田さんから京都在住のjunaidaさんが東京に来ていると連絡があって、初めてお会いしました。そこで、本や展覧会のこと、海外の美術館で見たこととか、いろいろ意見交換しているうちに、junaidaさんの絵本や絵の世界に、何か別のもの、立体的なものを加えることで、その世界観を発展させる新しいタイプの展覧会ができるのではないかとふと思いました。

その後具体的な企画を考えるために、京都へjunaidaさんに会いに行って、またいろいろ話しました。僕がそのときいいなと思ったのは、世の中の問題について、junaidaさんが自分の意見を持っていたこと。たとえば現代の日本社会の閉塞感であるとか、創造性が乏しいということや、今の教育には何が足りないのかなど。junaidaさんは絵本や絵で空想の世界を表現しているけれど、根底はちゃんと社会と繋がっていて、その根っこの部分を共有できたことは心強かったですね。

―junaidaさんの作品のどんなところに惹かれたのですか?

草刈  junaidaさんの作品は、不思議な世界観で、ちょっと怖いけど愛らしいところもあって、謎めいている。緻密に描き込まれたものを見る楽しさもあります。でもよく考えてみれば、意外と難しい作品でもある。ではなぜ、junaidaさんの絵に惹かれる人がこんなにたくさんいるのだろう、というのはずっと考えていたことでした。

草刈 この問いは、展覧会を作っていく中で次第に解けていきました。実は、展示プランを考えていくとき、僕らの考えとjunaidaさんの考えが大きく違ったところが2つありました。

―どんなところに意見の違いがあったのですか?

草刈 一つは、展示する絵の点数です。PLAY! MUSEUMに来るお客さんの滞在時間はだいたい1時間ぐらい。junaidaさんの描き込まれた絵を見るのには時間が必要だし、一点一点をじっくり見てもらいたいから、僕らは最初、展示する絵は200点ぐらいが適当ではないかと提案しました。

でも、junaidaさんは、もっともっとたくさんの絵を、浴びるように見せたいと。削ってもらっても、数えてみたら400点以上ありました。junaidaさんは、かなりはっきりとした展示のイメージを持っていたので、じゃあ400点の絵を見せることを前提にしましょう、としました。

もう一つは、junaidaさんはテキストを入れたくないと言っていたことです。絵本の原画を紹介するところですら、できれば一言も入れたくないんですと。僕も、絵本を再現するような展示は面白くないから、全てはいらないとは思っていましたが、少しはヒントになる言葉はあった方がいいと思う、と言いました。絵本は言葉と絵、両者が均衡して成立しているものだから、片方が全くないのはどうなのかな、と。

でもjunaidaさんは、僕は絵の力を信じたいと。絵だけで新しい絵本の読み方ができるはずだ、と。

―展覧会会場には言葉がほとんどありませんね。

草刈 最終的には『の』だけテキストを入れました。それも正面から見たら言葉が見えなくなるような展示の仕方なので、絵だけを見ることも選べるようになっています。

junaida展「IMAGINARIUM」会場
junaida展「IMAGINARIUM」会場

そして実際に、最終的には416点の絵が並んで会場が完成したとき、僕ははっきり思いました。これはたしかにテキストがない方がいいって。テキストが少しでもあると、僕らは何が描かれているのか、どういう意味なのかの答え合わせをしてしまうから。

―きっと言葉と絵を一つずつ照らし合わせてしまいますね。

草刈 そう、そして言葉から自由になった絵を見ているうちに、junaidaさんの絵は、絵の一部を切り取っても一枚の絵として成立するし、たくさんの絵を並べてもまるで一枚の絵のように見えることに気づきました。たとえば、このメインビジュアルの帽子の部分だけを切り取っても作品として見られるし、この中にはたくさんのモチーフが隣り合わせに、だけど実は無関係のようにも描かれています。

僕たちはついつい描かれているもの同士の関連性を考えてしまうけれど、junaidaさんは、本当にさまざまなものをただただ連続して描いているように感じます。『の』という作品も、一見ストーリーになっているようで心地よく読んではいるけれど、一つ一つのイメージは偶然の連なり合いでもある。

そう考えると、作品点数が多いということにはすごく意味が出てくる。junaidaさんの絵の中では、さまざまな入れ子や循環、円環作用が常にあちこちで起こっていて、関係があったり、あるようでないような、そのすべてが合わさることで、「IMAGINARIUM」という大きな一枚絵になるのではないか。それをjunaidaさんは意図していたのかなと。

意味を探すことから解放される

―展覧会自体が一つの壮大な作品となるということなんですね。

草刈 そう、そしてそこでは、僕らは意味を探すことから解放される。僕らはいつも、これは何の役に立つのかとか、何のために存在しているんだろうとか、そういうことに追い回されていますよね。でも本来、人やものを好きになることや、その人やものとの関係性は、そんな「意味」では測れないもの。世の中って本来は、そういう意味のないものたちでできているのではないか。そしてそういう意味のない、関連もないもの同士が雑多に同居しているのがこの世界なんじゃないかって。

勝手にそう思っただけですが、それに気が付いたときには嬉しかった。junaidaさんの絵は、ただ見るだけでいい。不思議な世界を不思議なまま、ありのままに置いておける。そういうことは、今の世界に必要なものなんじゃないかと今回思ったんです。

この展覧会は、「1時間で200点を見る場所」ではなくて、「2時間かけて400点を見る場所」になりました。ここでお客さんがかける時間は1時間ぐらいだというのは、僕の勝手な考えだった。見るべきもの、見るべき場をきちんと準備しさえすれば、その「1時間」はいくらでも延ばせる、と。今回展覧会に関わってくれた関係者の方たちすべての力が発揮されて、素晴らしいものができたと思います。

―内覧会のスピーチでは、「7時間くらいかけて観てほしい」とおっしゃっていましたね。

草刈 本当にそれくらいの価値がある(笑)。とてつもない時間をかけて作られた絵の細部を見る喜びが、ここにあると思います。

junaidaさんは、絵本では言葉も含めた表現をしていますが、実際絵の前に立つと、より強く絵が物語ってくるような感じがします。実は、ただ「絵を見る」ことだけをテーマにした展示は、PLAY! MUSEUMでは今までやったことがありませんでした。だから今回は、美術館としては基本的なところに立ち返った展覧会でもあると思います。

「IMAGINARIUM」は、自分自身の空想力を使って楽しむ場。この展覧会にたくさんの人が来てくれて、ただ絵を浴びるように見ることの幸せを体感してもらえたら。そういう美術館体験をしてもらって、また次の美術館へと足を運ぶきっかけとなったらと思っています。

絵本デビュー作『Michi』をはじめ、『の』『怪物園』『街どろぼう』を手がけてきた福音館書店編集者の岡田 望さんに、junaidaさんとの仕事の裏側や作品の魅力についてたっぷり聞いたインタビューもぜひご覧ください。

【junaida展インタビュー】編集者・岡田 望さんが語るjunaidaさんの仕事①(全3回)

草刈大介(くさかり・だいすけ)

朝日新聞社勤務を経て、2015年に展覧会を企画し、書籍を出版する株式会社「ブルーシープ」を設立して代表に。PLAY! MUSEUMのプロデューサーとして展覧会、書籍のプロデュース、美術館や施設の企画・運営などを手がける。

TOPICS

「今僕ができる最上のものができた。」
募集期間:2022年11月14日(月)ー2023年1月15日(日)
2022年10月8日(土)―2023年1月15日(日)
2022年10月8日(土)―2023年1月15日(日)
「絵をじっと見て、その絵の中のものになりきってみる。」
企画展示 junaida展「IMAGINARIUM」
光も闇も引き連れて 絵筆に灯る 想像と空想
「普段のPLAY! MUSEUMとは違う空間体験を楽しんでもらえたら」
「不気味でかわいい、怪物たちの世界に入り込む」